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内鼠径ヘルニア
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

内鼠径ヘルニアの概要

ヘルニアとは、「物が飛び出ること」という意味のラテン語が語源となった言葉です。

鼠径部(そけいぶ)ヘルニアは、足の付け根あたり(鼠径部)や男性の陰嚢付近がポッコリ腫れる病気です。お腹や足の付け根にある筋肉の膜(筋膜)が裂けたり緩んだりすることで、穴(ヘルニア門)ができるのが原因です。その穴から、腹膜という薄い膜に包まれて、お腹の中にあるはずの腸などの内臓や脂肪などが皮膚の下に飛び出して膨らみます。

鼠径部ヘルニアは、内(直接)鼠径ヘルニアと外(間接)鼠径ヘルニア、そして大腿ヘルニアの3種類に分類されています。内鼠径ヘルニアと外鼠径ヘルニアを合わせて、鼠径ヘルニアと呼ぶこともあります。

内鼠径ヘルニアは、下腹壁動静脈の内側で、鼠径管後壁から脱出するヘルニアです。それに対し外鼠径ヘルニアは、下腹壁動静脈の外側で、内鼠径輪から脱出するヘルニアのことを指します。大腿ヘルニアは、大腿輪から脱出するヘルニアのことです。それぞれ、ヘルニア門の大きさによって軽度、中等度、高度に分けられます。

内鼠径ヘルニアは男性に多いとされており、女性は少数です。

内鼠径ヘルニアの原因

内鼠径ヘルニアの原因は、生まれつきのものである先天性と、年齢や生活習慣の影響で起こる後天性の2つに分けられます。

先天性の場合は、鼠径管(そけいかん)という穴が原因で起こります。鼠径管は、生まれる前にお腹の中で作られた睾丸(こうがん)を陰嚢(いんのう)に出したり、子宮を引っ張るための紐(靱帯(じんたい))を通すための穴です。本来であれば生まれてくるときに閉じるものですが、何らかの理由で閉じなかった場合に先天性のヘルニアとなります。

後天性の場合、お腹の筋肉や組織が加齢などの影響で弱くなったり、お腹に力を入れる機会が多い、また立ち仕事が多いなどお腹に圧力がかかりやすい生活習慣の影響で起こるとされています。とくに、肉体労働者、声楽家や吹奏楽器の演奏、便秘症、前立腺肥大症、咳が多い人などに起こりやすいと言われています。また、サッカーやアイスホッケー、ラグビーなどの激しい運動や肥満、妊娠などが原因となることもあります。

内鼠径ヘルニアの前兆や初期症状について

内鼠径ヘルニアには、はっきりとした前兆はありません。

内鼠径ヘルニアの主な症状は、足の付け根や陰嚢あたりの膨らみです。膨らみの大きさはさまざまで、見た目にはほとんどわからないような小さいものから、大きなものではソフトボールくらいの大きさとなるものもあります。

膨らみは立っていると目立ちやすく、横になって寝ている時は目立ちにくいのが特徴です。1日の中では、朝起きた時が一番目立ちにくく、夕方あたりに最も目立ちやすいです。立っている時にはお腹の中の内臓や脂肪が重力に引かれて落ちてきやすく、横になって寝ている時にはお腹の中に戻るからです。また、お腹に力を入れると、内臓や脂肪が圧力で押し出されて目立ちやすくなります。

膨らみの他の症状としては、痛みや違和感・不快感などがあります。

飛び出した内臓や脂肪がお腹の中に戻らなくなり、捻れたり締め付けられることで血の流れが悪くなると、激しい腹痛や嘔吐などの症状が突然起こります。この状態は嵌頓(かんとん)と呼ばれており、緊急手術が必要となることがあります。場合によっては命に関わることがある、非常に危険な状態です。

内鼠径ヘルニアの検査・診断

内鼠径ヘルニアは、基本的には、医師が鼠径部の膨らみを確認する身体所見のみで診察が可能です。

診察日に膨らみが目立たないなど身体所見からは診断がつかない場合、また脂肪腫など他の病気の疑いがある場合には、超音波検査やCT検査、MRI検査やヘルニオグラフィーなどの検査を行います。

内鼠径ヘルニアの治療

内鼠径ヘルニアの治療の基本は、手術治療です。飛び出した部分をお腹の中に戻し、穴を塞ぎます。穴をふさぐ方法にはいくつかの種類があり、直接穴を縫い合わせる方法や穴にメッシュ(網)を当ててふさぐ方法などがあります。足の付け根の皮膚を切開して局所麻酔で行う場合もあれば、全身麻酔の上で腹腔鏡を用いて手術を行う場合もあります。

手術方法の選択は、穴のサイズや位置をはじめ、年齢や全身状態などから最適な方法が選択されます。

高齢の方や手術を希望しない方で症状が軽い場合は経過観察を行うこともありますが、数年以内に症状が強くなる可能性、また嵌頓の可能性があり厳重な経過観察が必要です。

昔はヘルニアバンド(脱腸帯)で飛び出した部分を締めて出てこないようにするといった治療も用いられたようですが、むしろ血液やリンパの流れを邪魔したり、内臓に傷をつけたりすることもあるため、現在ではほとんど用いられなくなっています。

内鼠径ヘルニアになりやすい人・予防の方法

内鼠径ヘルニアになりやすい人として、肥満・高身長があります。

鼠径部ヘルニア全般としては、男性・高齢・るいそう(極端なやせ)・喫煙・血のつながった家族に鼠径部ヘルニアを発症した人がいる・反対側のヘルニアを発症したことがある、がリスクとされています。また慢性的な咳も含め腹圧のかかる仕事や運動をする人は、鼠径部ヘルニアになりやすいようです。

鼠径部ヘルニアの危険因子となる持病としては、経後恥骨的前立腺摘出術を受けたことがある人、腹膜透析、食堂裂孔ヘルニア、慢性閉塞性肺疾患、前立腺肥大症などがあります。

内鼠径ヘルニアを含む鼠径部ヘルニアを確実に予防する方法はありませんが、適度な運動と禁煙が有効であるとする報告が見られます。


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