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先天性食道閉鎖症
武井 智昭

監修医師
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)

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【経歴】
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。

日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属

先天性食道閉鎖症の概要

先天性食道閉鎖症は、胎児の発達過程で食道の一部が正常に形成されない先天性疾患で、日本国内では、新生児のおよそ5,000人に1人の割合での発症報告があります。

食道とは、口と胃をつなぐ食べ物の通り道です。先天性食道閉鎖症の新生児では、食道が途中で途切れていたり、空気の通り道である気道と途中でつながってしまっていたりする様子が観察されます。結果として、唾液などをうまく飲み込めずに嘔吐する症状や、誤嚥による肺炎の症状が出ます。

先天性食道閉鎖症は気管食道瘻(きかんしょくどうろう)と呼ばれることもあり、食道の途切れ方や気道との位置関係により、いくつかの病型に分類されます。発症率や見られる症状などは病型ごとに多少異なるものの、いずれの型でも治療には外科的手術などが必要となります。

先天性食道閉鎖症の原因は現段階では解明されておらず、妊娠中に胎児の身体が作られる過程で何らかの異常が発生するためであるといわれています。

先天性食道閉鎖症は出生直後から命の危険にさらされる、たいへん重篤な疾患ではあるものの、適切な治療が施されれば9割以上で救命できるとされています。しかし、他の先天性疾患を併発している例も多く見られるため、治療がより難しくなったり、長期的な影響が残ったりするケースもあります。

(出典:一般社団法人 日本小児外科学会「先天性食道閉鎖症」

先天性食道閉鎖症

先天性食道閉鎖症の原因

先天性食道閉鎖症の原因は、明確になっていません。
胎児の発達過程で、気管と食道が分離する際に異常が生じるという説が有力ですが、詳しい発症原因は判明していません。

先天性食道閉鎖症では、食道が途中で途切れているだけでなく、気管との間に異常なつながり(瘻)が生じる病態が多い事実からも、上記の説が支持されます。

食道の途切れ方や気管との瘻のでき方によって5つの病型に分類されますが、全体の8割以上を占める病型は、「食道上部が完全に閉鎖、食道下部は気管と胃をつないでしまう」という形状です。

なお、先天性食道閉鎖症を発症している場合、半分近くの割合で他の先天性疾患(心疾患や消化器疾患など)も併発していることが知られています。18トリソミーや21トリソミーといった染色体異常を認めることもあります。ただし、先天性食道閉鎖症自体は、遺伝的要因を持たない場合でも発症すると考えられています。

先天性食道閉鎖症の前兆や初期症状について

先天性食道閉鎖症を発症していても胎児期(母親のおなかの中)では、無症状です。ただし、食道が閉鎖されていると胎児が羊水を飲み込んで吸収できないため、母体において羊水過多を認める場合があります。妊娠中の超音波検査で、胎児の食道や胃付近の所見から、この病気の前兆を発見できる場合もあります。

出生後の症状としては、口から唾液があふれ出る、嘔吐する、胃に空気が入り込んで腹部が膨満するなどの症状がみられます。ただし、こうした症状は食道閉鎖の状況や気管とのつながり方にも影響されやすく、気づかれにくいケースもあります。

発見や処置が遅れると、唾液の誤嚥や、胃液が肺に流れ込むことにより、肺炎や呼吸困難といったさらに重篤な症状を引き起こす可能性があります。

先天性食道閉鎖症の検査・診断

先天性食道閉鎖症の検査には、出生前におこなえる検査と、出生後におこなわれる検査があります。ただし、この病気を発症していても必ずしも出生前にわかるわけではなく、胎児診断率(出生前の検査で診断できる確率)は5割に届かないとされておりいます。したがって出生後に確定診断となるケースも少なくありません。

出生前の検査は超音波検査がおこなわれます。超音波検査によって羊水過多や食道上部の拡張などが確認された場合、先天性食道閉鎖症を疑います。

出生後の検査では、鼻もしくは口からカテーテルとよばれる柔らかい細いチューブを挿入し、カテーテルが食道で反転していることを確認します。

先天性食道閉鎖症では、他の先天性の心疾患や消化器疾患などを合併しているケースも多いことから、心臓超音波検査や腹部超音波検査などをおこなうこともあります。

上記の検査などにより、出生後には先天性食道閉鎖症の病型まで判定できます。

判明した病型や、新生児の健康状態、他の併発症などの状況を総合的に判断し、治療方針が決められます。

先天性食道閉鎖症の治療

先天性食道閉鎖症の治療は、分断されている食道と食道の吻合(ふんごう)をする、あるいは気管と食道を切り離すための外科的手術が基本となります。

側胸部を切り開いて手術をおこなうことが多いですが、胸腔鏡手術が可能な場合もあります。

可能なら出生後すみやかに治療を開始するのが理想ですが、先天性食道閉鎖症の病型、併発している他の疾患の重症度、新生児の健康状態から総合的に判断し、すぐに手術をおこなえない場合があり、治療の優先順位が変わることもあります。

このような場合は胃瘻(いろう)の設置・誤嚥予防などの手術を優先し、体重増加・臓器の成熟を待ちながら、複数回の手術を行うのが一般的です。

先天性食道閉鎖症の治療においては、根治できるまでには複数回の再手術が必要となったり、その他の合併症などの治療も並行したりする可能性があり、長期的なケアを要します。

先天性食道閉鎖症になりやすい人・予防の方法

先天性食道閉鎖症は原因が特定されていない先天性疾患であり、完全な予防は困難とされています。遺伝的要因がない発症例も知られているため、なりやすい人を断定することはできません。妊娠中の超音波検査による胎児の発育状態の観察や羊水量の評価は、先天性食道閉鎖症の早期発見につながる可能性があります。したがって、定期的な妊婦検診を受けることは、この疾患の予防にはならずとも、発症への備えにはなると言えるでしょう。

出生前に所見が認められた場合は主治医の指示に従うことが大切です。

出生後に先天性食道閉鎖症が判明する場合に備え、適切な処置が受けられるような出産環境が望まれます。


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