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直腸炎
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

直腸炎の概要

直腸炎は、さまざまな原因で大腸の最後の部分にあたる直腸に炎症が起こる病気です。
成人の場合、直腸は肛門から15~20cmの場所をさします。
口から取り込んだ食物は、消化管を通過する過程で消化吸収され、最終的に便として肛門から排出されます。直腸内が便でいっぱいになると、便意を感じます。
直腸の働きは、一時的に便を貯めておくことです。この部分に炎症が起こると、腹痛や下痢、持続する便意など不快症状が生じ、日常生活の質が低下することがあります。

直腸炎の原因

直腸炎は、その発症原因が多岐にわたる病気です。主な原因としては、感染症、炎症性腸疾患、アレルギー性疾患、放射線療法、薬の副作用などが挙げられます。

感染症

細菌感染
サルモネラ菌やカンピロバクター菌など
ウイルス感染
ノロウイルス、ロタウイルスなど
寄生虫感染
赤痢アメーバ
性感染症
クラミジア・トラコマチス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、梅毒、淋菌、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サイトメガロウイルスなど

炎症性腸疾患(IBD)

クローン病
口から肛門までの消化管で、点在して炎症や潰瘍が見られる病気で、主に10歳代〜20歳代の方に多くみられます。
潰瘍性大腸炎
主に大腸の粘膜にびらん(浅い傷)や潰瘍(深い傷)が生じる病気です。慢性的に症状が続き、炎症を繰り返すことがあります。

アレルギー性疾患

食物たんぱく誘発直腸結腸炎
特定の食べ物に含まれるたんぱく質が原因で、直腸や結腸に炎症が生じる病気です。主に乳児や幼児に発症し、血便や下痢、腹痛などの症状が見られます。

放射線療法

子宮頸がんや前立腺がんなどの治療で行われる放射線療法は、直腸の粘膜を損傷し、炎症を引き起こすおそれがあります。

薬剤の副作用

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
腸の粘膜を保護する役割を果たすプロスタグランジンの生成を減少させ、腸が傷つきやすい状態になることがあります。
抗菌薬
体内の善玉菌を減らし、腸内バランスが崩れることで、悪玉菌や病原菌が増殖しやすくなります。

直腸炎の前兆や初期症状について

直腸炎で見られる一般的な初期症状は以下です。この他にも原因により特有の症状が見られます。
これらの症状がある場合は、消化器内科、消化器外科、または肛門科のいずれかを受診しましょう。

下痢
直腸炎の原因により、水様から粘液状、膿状便まで直腸炎の原因により異なる性状の下痢がみられます。
強い便意(直腸テネスムス)
排便後もすっきりせず、すぐに便意を感じる状態です。強い便意を感じても、少量の便しか出ず、腹痛を伴うことがあります。
痛み
原因により痛みの有無が変わります。淋菌、単純ヘルペス感染による直腸炎では、排便時に強い肛門痛を感じることがあります。また、潰瘍性大腸炎やクローン病でも、炎症や潰瘍が肛門に近い部分に及ぶ場合、排便時に強い痛みや不快感を感じる可能性が高くなります。
血便
消化管の炎症の部位や程度により、粘血便や血の混じった水様便など性状の変化が見られます。出血が多い場合、貧血を起こす可能性があるので、早めに病院を受診しましょう。

直腸炎の検査・診断

直腸炎の診断では、問診と以下のような検査より、直腸炎の原因や状態を把握します。

問診

問診で以下の内容について確認します。

  • 病歴
  • 放射線治療の有無
  • 抗菌薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用の有無
  • 最近の食事内容
  • 東南アジア地域など海外への渡航歴
  • 肛門性交の有無

一般的に行われる検査と診断

直腸炎の原因を確認するため、必要に応じて以下のような検査が行われます。

1. 内視鏡検査

大腸内視鏡検査
大腸と直腸の内部を直接観察します。炎症の有無や範囲を確認し、必要に応じて組織サンプル(生検)を採取します。

2. 血液検査

炎症マーカーの測定
白血球、CRP(C反応性蛋白)やESR(赤血球沈降速度)などの炎症マーカーを測定し、体内の炎症の程度を評価します。
感染症の確認
血液中の白血球数や抗体、抗原検査など、主要な検査をすることで、感染症の有無を確認します。
性感染症の鑑別
性感染症が原因である可能性を考え、必要に応じてクラミジアや淋菌など、性感染症の検査を行います。

3. 糞便検査

病原体の検出
糞便中の細菌、ウイルス、寄生虫の有無を調べ、感染症が原因であるかどうかを確認します。
潜血反応
便に血が混じっているかどうかを調べるための検査です。血便の有無を確認するために行われます。

4. 画像検査

腹部超音波検査
直腸および周囲の臓器の状態を超音波で観察し、異常がないかを確認します。
CTスキャンやMRI
より詳細な画像を取得し、直腸や周囲の組織に異常がないかを確認します。
性感染症の鑑別
性感染症が原因である可能性を考慮し、必要に応じて性感染症の検査を行います。

直腸炎の治療

直腸炎はさまざまな原因によって引き起こされ、その治療法も異なります。治療は、原因となっている病気および症状や病状に合わせて選択されます。
下痢によって脱水症状を引き起こす可能性がある場合は、輸液が行われます。

感染症

大部分の細菌、ウイルス感染症では、基本的に抗菌薬は使用せず、不快な症状を緩和する治療が行われます。また、原因となっている細菌やウイルスを体の外への排出を促すため、下痢止め薬や腸のけいれんを和らげる薬は使用しません。ただし、赤痢アメーバ、クラミジア・トラコマチス、梅毒では抗菌薬が、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスでは抗ウイルス薬が処方されます。

炎症性腸疾患(IBD)

クローン病
点滴や経腸栄養剤を用いて栄養管理を行い、腸の安静をはかります。また、ステロイド薬など、お薬を使用した治療で腸の炎症を抑えます。
潰瘍性大腸炎
炎症を抑えるため、内服や点滴、腸に直接注入するお薬など、状態に合わせて処方されます。お薬の治療で症状が良くならなかった場合は、炎症を引き起こしている血液の成分(血球)を除去する治療(血球除去療法)が行われることがあります。

アレルギー性疾患

食物たんぱく誘発直腸結腸炎
アレルギーの原因となっている食物を除去した食事に変更します。栄養不足にならないよう、栄養士と相談しながら栄養管理を行います。

放射線療法

放射線性腸炎
炎症の程度が軽度の場合は、排便の調整で様子をみます。炎症が続く場合は、ステロイド剤の内服や、治療のためのお薬を肛門から直接入れる治療が行われます。下血が続く場合は、内視鏡で血を止める処置をします。

薬剤の副作用

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗菌薬が直腸炎の原因となっている場合、お薬の使用を中止します。

直腸炎になりやすい人・予防の方法

直腸炎はさまざまな原因によって引き起こされる可能性があり、中には疾患自体の原因が不明な場合もあります。直腸炎の症状が見られた場合は、早期に診断を受け、原因に応じた適切な治療を受けることが大切です。

直腸炎になりやすい人

消化器系の持病がある人
潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患を持つ方は、直腸にも炎症を起こす可能性があります
免疫力が低下している人
免疫力が低いと感染症にかかりやすくなります。HIV感染者や抗がん剤治療を受けている方は、感染に注意しましょう
性感染症リスクが高い人
不特定多数の人と性行為をもつ方や、肛門性交を行っている方は感染症のリスクが高くなります
抗菌薬やNSAIDsの長期使用者
これらの薬を長期間使用することで腸内フローラ(腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう))が乱れやすくなり、直腸炎のリスクが高まることがあります
不衛生な環境での生活
衛生状態が悪い環境で生活することで、感染症リスクが高まります。

直腸炎の予防方法

  • バランスの取れた食事を心がけ、免疫力を高める。
  • 性感染症を防ぐためにコンドームの使用など、安全な性行為を行う。
  • 医薬品の長期使用を避けるか、使用する場合は医師と相談する。
  • 衛生環境を整え、清潔に保つ。
  • 定期的に健康診断を受け、消化器系の健康を維持する。


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