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肛門がん
松井 信平

監修医師
松井 信平(医師)

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慶應義塾大学医学部卒業、慶應大学関連病院での修練後、慶應大学のスタッフへ就任、2023年4月よりがん研有明病院スタッフ勤務。専門は消化器外科・大腸がん。

肛門がんの概要

肛門がんは、肛門管(お尻の出口から直腸に向かう約3〜4cmの管状の部分)と肛門周囲の皮膚組織に発生する悪性腫瘍です。肛門がんは、すべての悪性腫瘍の0.1%程度、大腸がん(結腸がん・直腸がん)の2%程度の極めてまれながんであると報告されていますが、患者数は世界的に増加傾向にあります。また、患者数は男性よりも女性に多く、高齢になるほど罹患率が高くなると報告されています。

肛門がんは組織型により、「腺がん」や「扁平上皮がん」などの種類に分類されます。欧米ではほとんどが扁平上皮がんですが、日本では腺がんが最も多く、肛門がんの約8割を占め、扁平上皮がんが約2割となっています。

肛門がんの主な症状は、排便時の違和感や肛門周囲の腫れやしこり、痛み、排便時の出血などですが、無症状の方も約2割います。

腺がんと扁平上皮がんではがんの性質が大きく異なるため、治療方針も組織型によって大きく異なります。扁平上皮がんの場合は、抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法が一般的です。腺がんの場合は手術が中心で、大腸がんに準じた治療が行われます。

参考
国立研究開発法人 国立がん研究センター 希少がんセンター 肛門がん/ 肛門管扁平上皮がん

肛門がん

肛門がんの原因

肛門がんは希少がんであり、その原因は明確にはなっていません。肛門扁平上皮がんになるリスクを高める原因として、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染、慢性の痔ろうなどが知られています。

HIV感染や臓器移植後、血液腫瘍などにより感染しやすい状態となっているときにも肛門がんを発症しやすいとされています。また、他の多くのがんと同様に、喫煙も肛門がんのリスクを高める因子と考えられています。

肛門がんの前兆や初期症状について

肛門がんの主な症状には、排便時の痛みや違和感、肛門周囲の腫れやしこり、排便時の出血(血便、下血)がありますが、約2割の方は無症状です。これらの症状は、痔などのほかの肛門疾患と似ているため、注意が必要です。

したがって、肛門周囲の違和感や異常が続く場合は、早めに医療機関を受診し、詳しい検査などを行うことが肛門がんの早期発見に重要だといえます。

肛門がんの検査・診断

肛門がんは、肛門から直腸に指を差し込んでしこりなどがないかを確認する「直腸診」、大腸内視鏡検査、画像検査などの検査により診断されます。

大腸内視鏡検査で病変の有無を確認し、組織を採取して顕微鏡で観察する病理診断が重要で、病理診断の結果をもとに肛門がんの組織型(腺がん、扁平上皮がんなど)を確定します。

また、CT、MRI、PET /CTなどによる画像検査を行うことで、肛門がんの大きさや広がり、リンパ節や他の臓器への転移がないかを確認します。

これらの検査により、肛門がんの治療方針が決定されます。

肛門がんの治療

肛門がんの治療は、組織型(腺がん、扁平上皮がん)によりがんの性質が大きく異なるため、治療方針も組織型によって異なります。

肛門扁平上皮がん

肛門扁平上皮がんの場合は、抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法が一般的です。

肝臓や肺など、肛門から離れたほかの臓器やリンパ節への転移がないステージⅠ〜Ⅲの場合、化学放射線療法が選択されます。ほとんどの場合、肛門扁平上皮がんはほかの臓器への転移はなく、抗がん剤治療と放射線治療の治療効果が高いことが知られており、根治的ながんの治癒を目指すことが可能です。

がんを外科的に切除する手術が検討されることもありますが、人工肛門をつくることが前提となるデメリットもあります。そうした背景もあって、肛門扁平上皮がんの治療においては肛門を温存できる化学放射線療法が標準治療として確立されており、手術が選択されることはまれです。

リンパ節やほかの臓器への転移がみられるステージⅣや、治療後に再発した肛門扁平上皮がんの場合は、緩和的な薬物療法(抗がん剤治療)が選択されることもあります。。ここでは、がんの増殖を抑えることやQOL(生活の質)の改善、延命を目的とした治療が行われます。

肛門腺がん

肛門腺がんの場合は、主に手術での治療が検討され、大腸がん(結腸がん・直腸がん)に準じた治療が行われます。がん進行度、リンパ節やほかの臓器への転移など進行度(ステージ)によって治療法が異なります。

ステージ0〜Ⅲ期では、がんを切除できるかどうかを判断し、内視鏡を使用してがんを切除する内視鏡治療や外科的手術が行われます。ステージⅢの場合や再発のリスクが高いステージⅡの場合は、外科的手術後に薬物療法を行うことがすすめられます。

肛門腺がんが進行し、肝臓や肺など他の臓器への転移がみられるステージⅣの場合は、ほかの臓器に転移したがんが切除できるかどうかを判断し、切除できる場合は外科的手術がすすめられます。切除できない場合は、放射線治療や薬物療法などによる治療が行われます。

肛門がんになりやすい人・予防の方法

肛門がんはまれながんで、男性よりも女性に多く、高齢になるほど罹患率が高まることが報告されていますが、肛門がんの原因は明確になっておらず、確立された予防方法はありません。

肛門がんの中でも扁平上皮がんについては、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染がリスク要因の1つと考えられています。そのため、ワクチン接種などによりHPV感染を予防することは肛門がんの予防にもつながる可能性があります。


関連する病気

  • 陰茎がん
  • HIV感染症
  • 扁平上皮がん
  • 大腸がん(結腸がん・直腸がん)
  • 痔ろう

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