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アメーバ赤痢の概要

アメーバ赤痢(Amebiasis)は、寄生性の原虫である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)によって引き起こされる腸管感染症です。この疾患は、世界的にみても特に衛生状態が悪い地域で頻繁に発生し、発展途上国での感染が多くみられます。
日本での発生は稀です。しかし旅行者や移住者、または外国から帰国した人々の間で感染が確認されています。アメーバ赤痢は、主に糞口感染によって広がり、感染者の糞便に汚染された水や食物を摂取することが主な感染経路です。
アメーバ赤痢の主な特徴は、下痢、腹痛、血便などの消化器症状です。重症化すると、肝膿瘍などの合併症を引き起こす可能性があります。
適切な治療を行えば完治が可能ですが、早期発見と迅速な対応が重要です。また公衆衛生の観点からも重要な疾患であり、感染拡大防止のための適切な対策が必要とされています。

アメーバ赤痢の原因

アメーバ赤痢の原因は、寄生虫の一種である赤痢アメーバです。この原虫は、人の腸に寄生し、腸壁に損傷を与えることで炎症や潰瘍を引き起こします。感染は主に以下の経路で広がります。

糞口感染
感染者の糞便に含まれるシスト(休眠状態のアメーバ)が汚染された水や氷、野菜や果物、肉類などの食物を介して口から体内に入ります。

接触感染
不適切な衛生管理下において、接触感染者の糞便に直接触れた手や器具を通じて、口に運ばれることがあります。

性行為感染
特に同性間性的接触の間で、肛門性交による感染が報告されています。

赤痢アメーバのシストは環境中で耐久性が高く、外界での生存期間が長いため、適切な衛生管理が重要です。また、すべての感染者に症状が出るわけではなく、無症候性キャリアも存在し、公衆衛生上の課題となります。

アメーバ赤痢の前兆や初期症状について

アメーバ赤痢は感染後、無症状のまま経過することが多く、潜伏期間は2〜4週間程度ですが、数日〜数年と幅があります。症状が現れる場合は以下のような前兆や初期症状がみられます。

アメーバ赤痢の前兆

  • 軽度の下痢(1日3〜4回程度、水様性便が数日続く)
  • 腹痛や腹部の不快感(けいれん性の痛み、しぶり腹)
  • 血性便(腸壁損傷による血液混入)
  • 倦怠感や発熱(軽度の全身症状)

進行期の症状

  • 頻回の水様性下痢(1日に10回以上)
  • 血便または粘液便(イチゴゼリー状)
  • 腹痛の増強(特に右下腹部)
  • 肝臓の腫れ
  • 発熱(38℃以上)
  • 悪心・嘔吐
  • 食欲不振・体重減少

重症例での症状

  • 高熱(39℃以上)
  • 激しい腹痛
  • 大量の血便
  • 脱水症状(口渇、尿量減少、皮膚の乾燥)
  • 全身倦怠感の増強

初期症状が軽度な場合でも、放置すると重症化や腸管外感染(特に肝膿瘍)に進行するリスクがあります。症状が疑われる場合は早期に消化器内科・感染症内科を受診しましょう。

アメーバ赤痢の検査・診断

アメーバ赤痢の検査は以下の方法で行われます。ただし、赤痢アメーバの検査が可能な機関は限られます。

形態学的(顕微鏡的)診断

糞便、膿瘍液、感染組織検体を対象に原虫の存在を証明します。直接塗抹法、染色法などが用いられます。

病原学的検査

原虫自体の検出(PCRや抗原捕捉法)で確定します。

血清学的検査

感染者の血清を調べ、抗体価上昇を確認します。ただし過去感染との区別が難しいため、病原学的検査と併用することが望まれます。

診断

最も推奨されるのは病原体やその遺伝子、抗原の証明です。

感染症法での報告義務

アメーバ赤痢は5類感染症であり、医師は確定診断後7日以内に保健所へ届け出が必要です。

アメーバ赤痢の治療

メトロニダゾールが第一選択薬です。経口摂取ができない場合や重症例には静注で開始します。治療後はパロモマイシンによる根治療法が推奨されます。治療終了1〜2週間後の糞便検査で陰性確認を行います。
症状や合併症に応じて他の薬剤(チニダゾール、フロ酸ジロキサニド)を選択する場合もあります。

アメーバ赤痢になりやすい人・予防の方法

アメーバ赤痢になりやすい人

以下の人が感染リスクが高まります。

  • 発展途上国への旅行者
  • 免疫低下者(HIV感染者、免疫抑制剤使用者)
  • 衛生環境が悪い場所に居住している人

予防の方法

予防にはワクチンはありません。以下の対策が重要です。

衛生管理の徹底
手洗い(石鹸、手指消毒剤)の徹底

水の安全性確保
安全な水源の利用、ペットボトル水の使用、煮沸・ろ過処理

食品衛生
十分な加熱調理、路上販売食品や未殺菌乳製品を避ける

性行為での予防
コンドーム使用、肛門性交の回避

環境衛生の改善
下水処理・ゴミ処理・トイレ衛生の向上

教育と啓発
衛生教育・啓発活動の実施

渡航時の注意
事前情報収集、渡航医学専門医の受診、安全な飲食店の利用

症状が疑われる場合や感染リスクの高い環境に滞在後は、速やかに医療機関を受診することが重症化予防と感染拡大防止に役立ちます。


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