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食道炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

食道炎の概要

食道炎(しょくどうえん)は、食道の内側の粘膜が炎症を起こす病気です。食道は、口から摂取した食べ物を胃に運ぶ役割を持っており、通常は丈夫な粘膜で覆われています。しかし、さまざまな要因によってこの粘膜にダメージが生じ、炎症が起こると、食道炎として症状が現れます。
食道炎には、胃酸の逆流が原因で起こる「逆流性食道炎」、薬の影響によって起こる「薬剤性食道炎」、アレルギー反応が原因となる「好酸球性食道炎」など、いくつかの種類があります。食道炎の主な症状としては、胸やけや胸の痛み、飲み込みづらさ、逆流感などがあります。症状が軽度の場合は生活習慣の改善で治ることもありますが、放置すると慢性的に炎症が続き、食道狭窄やがんのリスクが高まることがあります。

食道炎の原因

食道炎の原因は多岐にわたりますが、主に次のような要因が考えられます。

胃酸の逆流

食道炎の最も一般的な原因は、胃酸の逆流です。通常、胃酸は胃にだけ存在し、食道には逆流しないように食道と胃の境目には「下部食道括約筋(かつやくきん)」という筋肉が働いています。しかし、この括約筋が弱くなったり、食道の働きが鈍くなると、胃酸が食道に逆流し、食道の粘膜を傷つけることがあります。これが、逆流性食道炎です。

薬剤の影響

特定の薬剤を服用することが原因で食道炎を引き起こすことがあります。特に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)抗生物質ビスフォスフォネートといった薬が食道の粘膜を刺激し、炎症を起こすことがあります。これを「薬剤性食道炎」と呼び、薬を飲む際の姿勢や水分摂取が不十分だと、薬が食道に長時間留まり、炎症を引き起こすリスクが高まります。

アレルギー反応

食物アレルギーが原因で食道に炎症が起こることもあります。特に「好酸球性食道炎」は、アレルギー反応が食道に影響を与え、食道内に好酸球という白血球の一種が集まって炎症を引き起こす疾患です。このタイプの食道炎は、若年層やアレルギー体質の人に多く見られます。

感染症

細菌やウイルス、真菌(カビ)による感染が食道に起こり、炎症を引き起こすことがあります。特に、免疫力が低下している人や、ステロイド治療を受けている人、糖尿病のある人は、食道カンジダ症などの感染性食道炎にかかるリスクが高まります。

物理的刺激

魚の骨など硬い食べ物を無理に飲み込んだり、過度に熱い飲み物を摂取したりすると、食道に物理的なダメージを与え、炎症が生じることがあります。また、飲み込んだ異物が食道内に長期間留まると、食道に傷をつけ、炎症を引き起こすこともあります。

食道炎の前兆や初期症状について

食道炎の症状は、その原因や重症度によって異なりますが、一般的に次のような前兆や初期症状が見られます。

  • 胸やけ
    胸やけは、食道炎の典型的な症状の一つです。胃酸が逆流し、食道の粘膜を刺激することで、胸の中央付近に焼けるような感覚が生じます。特に、食後や横になるときにこの症状が強く現れることが多いです。
  • 胸の痛み
    食道炎により、胸の中央や下部に痛みを感じることがあります。胸の痛みは、しばしば心臓の痛みと間違えられることもありますが、食道炎の場合は食後や逆流時に痛みが強まることが特徴です。
  • 逆流感
    食べ物や胃酸が逆流する感じがすることがあります。口の中に苦味を感じたり、食べ物が食道に引っかかっているような感覚が伴うこともあります。特に、逆流性食道炎の初期症状としてよく見られる症状です。
  • 飲み込みづらさ(嚥下障害)
    食道が炎症を起こすと、飲み込む際に痛みを感じたり、食べ物が喉に詰まるような感覚が生じることがあります。重症化すると、固形物だけでなく、液体ですら飲み込むのが困難になることもあります。
  • 慢性的な咳や喉の違和感
    食道炎があると、胃酸や食べ物が逆流して喉や気管に刺激を与え、慢性的な咳や喉の違和感が現れることがあります。特に夜間、横になったときに症状が悪化しやすいです。
  • 嘔吐や吐き気
    食道炎が進行すると、食べ物が逆流しやすくなり、嘔吐や吐き気を感じることがあります。これが続くと、体重減少や栄養不足を引き起こすこともあるため、早めの対応が必要です。

食道炎の検査・診断

食道炎の診断は、症状や病歴の聞き取り、さらに詳細な検査によって行われます。以下に、食道炎の診断に使われる主な検査方法を紹介します。

内視鏡検査

食道炎の診断に最も一般的な検査が内視鏡検査です。内視鏡を使って食道の内部を直接観察し、炎症の有無やその程度を確認します。また、必要に応じて食道の組織を採取し、病理検査を行うことで、感染症やアレルギーの有無を調べることができます。

pHモニタリング検査

逆流性食道炎が疑われる場合、24時間にわたって食道のpH(酸性度)を測定する「pHモニタリング検査」が行われることがあります。この検査では、食道内にセンサーを設置し、胃酸が食道に逆流する回数や時間を測定します。

血液検査

血液検査では、炎症の有無や栄養状態、炎症の程度を確認することができます。

食道炎の治療

食道炎の治療は、原因に応じたアプローチが必要です。生活習慣の改善や薬物療法が中心となりますが、場合によっては手術が必要なこともあります。

生活習慣の改善

  • 食事の改善
    食道炎の治療において、食事の改善は非常に重要です。脂肪分の多い食事やアルコール、カフェイン、辛いものは胃酸の分泌を増やし、食道炎を悪化させることがあります。これらの食品は避け、消化の良い食事を心がけましょう。また、食後すぐに横になることも逆流を引き起こしやすいため、食後2〜3時間は体を起こしていることが推奨されます。
  • 体重管理
    肥満は逆流性食道炎のリスクを高めます。胃にかかる圧力が増し、胃酸が逆流しやすくなるため、適正体重を維持することが食道炎の予防・治療に役立ちます。
  • 喫煙や飲酒の制限
    喫煙や過度の飲酒は、食道の粘膜を刺激し、炎症を引き起こす原因となります。食道炎の症状がある場合、禁煙や飲酒量の制限を検討する必要があります。

薬物療法

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI)
    プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、胃酸の分泌を抑える薬です。逆流性食道炎の治療によく使われ、胃酸が食道に逆流するのを防ぎ、食道の炎症を改善します。PPIは、長期間にわたって服用することが多いですが、症状が改善したら医師の指示に従い、徐々に減量することが一般的です。
  • H2受容体拮抗薬
    H2受容体拮抗薬も胃酸の分泌を抑える効果があり、PPIと同様に逆流性食道炎の治療に用いられます。PPIに比べて効果がやや緩やかであるため、軽度の症状に使用されることが多いです。
  • 制酸薬
    制酸薬は、すでに分泌された胃酸を中和し、食道への刺激を軽減する薬です。症状が軽度な場合に、症状を緩和するために使用されます。
  • ステロイド
    好酸球性食道炎の治療には、ステロイド薬が処方されることがあります。ステロイドには強力な抗炎症作用があり、アレルギー反応を抑える効果があります。

外科治療

  • 抗逆流手術
    逆流性食道炎が薬物療法で改善しない場合や、合併症を伴う場合には、抗逆流手術が検討されることがあります。この手術では、下部食道括約筋を強化することで、胃酸の逆流を防ぎます。手術後は、食道炎の症状が大幅に改善することが期待されます。
  • 食道拡張術
    食道狭窄が見られる場合、内視鏡を用いた食道拡張術が行われることがあります。この治療では、狭くなった食道を広げることで、食べ物の通過をスムーズにします。

食道炎になりやすい人・予防の方法

食道炎になりやすい人

食道炎になりやすい人には、いくつかの共通点があります。以下のような要因を持つ人は、食道炎を発症しやすいため、特に注意が必要です。

  • 肥満の人:肥満は胃にかかる圧力を高め、胃酸が逆流しやすくなります
  • アルコールやカフェインを多く摂取する:これらの成分は胃酸の分泌を促進し、逆流を引き起こすことがあります。
  • 喫煙者:喫煙は食道の粘膜を刺激し、炎症を引き起こしやすくします。
  • ストレスを抱えている人:ストレスは自律神経の乱れを引き起こし、胃酸の分泌を促進することがあります。

予防の方法

食道炎を予防するためには、日常生活の改善が重要です。以下の対策を取り入れることで、食道炎のリスクを減らすことができます。

  • 食事習慣の改善
    脂肪分の多い食事や刺激物を控え、消化に良い食べ物を摂取することが食道炎の予防に効果的です。また、食べ過ぎを避け、食後すぐに横にならないことも重要です
  • 規則正しい生活
    規則正しい生活リズムを保ち、適度な運動や十分な睡眠を心がけることで、自律神経を整え、胃酸の分泌をコントロールすることができます。
  • 体重管理
    適正体重を維持することで、胃にかかる圧力を軽減し、逆流を予防できます。肥満の人は、食道炎のリスクを減らすために減量を目指しましょう。
  • 禁煙・節酒
    喫煙や過度な飲酒は食道炎のリスクを高めるため、禁煙や節酒を心がけましょう。

これらの予防策を実践することで、食道炎の発症を防ぎ、健康的な生活を送ることができます。


関連する病気

参考文献

  • 胃食道逆流症 診療ガイドライン 2021
  • UpToDate Initial management of gastroesophageal reflux disease in adults
  • UpToDate Pill esophagitis
  • UpToDate Clinical manifestations and diagnosis of eosinophilic esophagitis (EoE)
  • UpToDate Esophageal candidiasis in adults
  • UpToDate Complications of gastroesophageal reflux in adults

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