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食道がん
岡本 彩那

監修医師
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)

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兵庫医科大学医学部医学科卒業後、沖縄県浦添総合病院にて2年間研修 / 兵庫医科大学救命センターで3年半三次救命に従事、近大病院消化器内科にて勤務 /その後、現在は淀川キリスト教病院消化器内科に勤務 / 専門は消化器内科胆膵分野

食道がんの概要

食道がんは、食道の内側を覆う粘膜細胞から発生するがんです。
食道は、喉と胃をつなぐ全長約25cmの管状の臓器で、お口から摂取した食物を胃に送り込む役割を果たしています。
食道がんは食道のどの部位にも発生する可能性がありますが、なかでも中央部に多く見られます。

食道がんは、食道の粘膜から発生し、進行すると食道の外側に広がり、気管や大動脈などの周囲の臓器に直接浸潤します。
また、リンパ管や血管に浸潤してほかの臓器に転移することもあります。

食道がんの原因

食道がんはさまざまな要因が重なって発生するため、主なリスクファクターとしていくつかの要因が挙げられます。

飲酒
飲酒は食道がんの主要な原因の一つとされています。
なかでも過度な飲酒はリスクを高めます。
アルコールが体内でアセトアルデヒドと呼ばれる発がん性物質に変わるため、これが食道の粘膜細胞にダメージを与え、がんの発生を助けます。

喫煙
喫煙も食道がんのリスクを大きく上昇させる要因です。
タバコの煙には多数の発がん性物質が含まれており、これらが食道の粘膜を傷つけてがんの発生を助長します。
喫煙者は非喫煙者に比べて食道がんの発生率が高いとされています。

バレット食道
バレット食道は、逆流性食道炎が長期間続くことで食道の粘膜が胃酸に適応し、胃の粘膜と同じ細胞に置き換わる状態を指します。
なかでも、腺がんと呼ばれるタイプの食道がんが発生しやすくなります。
バレット食道は内視鏡検査で確認ができますが、すべてのバレット食道ががんになるわけではありません。

逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することにより食道粘膜に慢性的な刺激を与える状態です。この状態が長期間続くと食道がんのリスクが高まります。
なかでも胃酸の逆流を防ぐ機能が低下すると、食道粘膜がダメージを受けやすくなるとされています。

食道がんの前兆や初期症状について

食道がんは早期段階ではほとんど自覚症状がないことが多く、内視鏡検査などで偶然発見されることも少なくありません。
しかし、初期から食べ物を飲み込むときの違和感を訴えられる方もおり、がんが進行するにつれて、さまざまな症状が現れることがあります。

嚥下時の痛みと灼熱感
初期の食道がんは無症状なことが多いとされていますが、進行し始めると食べ物を飲み込む際にちくちくした痛みや、熱いものを飲み込んだときにしみるような感じを覚えることがあります。
これらは、食道がんの初期症状として現れることが多いとされています。

また、がんが進行すると食道が狭くなり、食べ物の通過が難しくなります。これにより、食べ物が喉や胸に引っかかる感じを覚えます。
症状が表れた場合は、消化器内科を受診しましょう。

食道がんの検査・診断

食道がんが疑われる場合、早期発見と適切な診断を行うために、以下のような検査方法が採用されます。

●内視鏡検査
内視鏡検査は食道がんの診断で重要な検査です。
内視鏡を食道内に挿入し、食道内部を直接観察することが期待できます。
その際、内視鏡に超音波のプローベを挿入して、がんの深さや周囲のリンパ節転移の有無を詳細に調べることもあります。

がんが疑われる部分を見つけた場合、その組織を採取して病理検査を行います。

●ルゴール染色
内視鏡検査の際にルゴール染色を行うことで、がん細胞をより明確に識別できます。
ルゴール液を使用すると正常な細胞は茶色に染まりますが、がん細胞は染まりません。
これにより、がんの範囲を正確に把握することが期待できます。

●血液検査
血液検査は全身の状態を評価するために行われます。
食道がんでは腫瘍マーカー(SCCやCEAなど)の値が高くなることがあるため、これらの値を測定することで診断の手がかりにします。

●画像検査
がんの広がりや転移の有無を確認するために、CTやMRIなどの画像検査が行われます。
なかでも、CT検査では造影剤を使用することで、がんの詳細な位置や広がりをより明確に描出できます。
MRI検査はCT検査では判別しにくい場合に利用され、食道がんが周囲の臓器に浸潤しているかどうかを詳しく調べます。

●PET検査
PET検査はがん細胞が活発に糖を取り込む性質を利用した検査です。
FDGと呼ばれる物質は放射線物質を含んでおり、がん細胞がそれを取り込むことにより画像でがんの部位をとらえます。
なかでも、転移の有無を確認する際に有用です。

●上部消化管造影検査
造影剤を飲んで食道の形状やしわ、狭窄の程度を評価するための検査です。
薬剤を使用してX線撮影を行い、食道がんの疑いがある部分を探します。

●病理検査
内視鏡検査で採取した組織を顕微鏡で観察し、がん細胞の有無を確認します。
これにより、食道がんの確定診断を行います。病理検査は、がんの悪性度を評価するためにも重要です。

●骨シンチグラフィ
食道がんが骨に転移しているかを調べるための検査です。
放射性同位体を体内に注入し、その物質が骨に取り込まれる様子を撮影します。
これにより、骨転移の有無を確認できます。

食道がんの治療

食道がんの治療法は、がんの進行度や患者さんの全身状態に応じて多岐にわたります。

●内視鏡治療
内視鏡治療は、がんが食道の粘膜層にとどまっている場合、粘膜の中でも浅い部分SM1までであれば適用される方法です。
内視鏡を使用してがんの部分を切除します。
この方法は身体への負担が少なく、早期発見された食道がんに対して有効とされています。

●手術
手術は、食道がんが粘膜層を越えて筋肉層にまで達している場合に行われます。
手術では食道の全摘出が行われ、その後再建術によって新たな食道を形成します。
再建には胃や腸の一部を利用します。

●化学放射線療法
化学放射線療法は、抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせた方法です。
手術と同じ程度の成績といわれており、手術もしくは科学放射線療法のどちらかが選択されます。

●術前化学療法
手術前に抗がん剤を投与する術前化学療法は、がんを縮小させることで手術の成功率を高めます。
また、目に見えない微小転移を抑制する効果も期待されます。
術前化学療法を行うことで、術後の生存率の向上が見込まれます。

●術後化学療法
手術後に行われる抗がん剤治療は、術前化学療法を行わなかった場合や手術後の病理検査で予想以上に進行していることが確認された場合に適用されます。

●放射線療法
放射線療法は、手術が難しい場合や全身状態が悪く手術が困難な場合に適用されます。
放射線療法は局所的にがんを縮小させ、症状を緩和する効果が期待できます。

●緩和的治療
進行した食道がんによって食道が狭窄し、飲食物の摂取が困難になる場合、金属製のステントを挿入して食道の狭窄を広げる治療が行われます。
また、通過障害に対するものだけではなく、疼痛などに対するコントロールを含め全体的なケアが行われます。

食道がんのなりやすい人・予防の方法

食道がんの予防には、いくつかの生活習慣や健康管理が重要となります。

●喫煙と飲酒
喫煙と飲酒は食道がんの主なリスク要因です。
なかでも、喫煙と飲酒を両方行うことでリスクがさらに高まることが知られています。

飲酒によって体内に生じるアセトアルデヒドを分解する酵素の活性が低い人(飲酒後に顔が赤くなる人)はリスクが高いため、飲酒量を控えることが重要です。

●食事と栄養
バランスの取れた食事は食道がんの予防に寄与します。
野菜や果物を多く摂取することで、食道がんのリスクが低減されるとされています。
なかでも、ビタミンなどが豊富な食材が有益です。

●適正体重の維持
肥満は逆流性食道炎の原因となり、これが食道がんのリスクを高めるため、適正体重の維持が重要です。

●逆流性食道炎の予防
逆流性食道炎は食道がんのリスクを高めるため、予防も重要です。

●食生活の改善
脂肪分の多い食事や過食を避け、規則正しい食事を心がけます。

●適度な運動
定期的な運動は肥満の予防と逆流性食道炎のリスク低減に役立ちます。


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