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機能性ディスペプシア
松井 信平

監修医師
松井 信平(医師)

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慶應義塾大学医学部卒業、慶應大学関連病院での修練後、慶應大学のスタッフへ就任、2023年4月よりがん研有明病院スタッフ勤務。専門は消化器外科・大腸がん。

機能性ディスペプシアの概要

機能性ディスペプシアは、内視鏡などの詳細な検査で異常が見つからないにもかかわらず、慢性的な上腹部の痛みや不快感を特徴とする疾患です。日本では約25%の方が何らかの形で機能性ディスペプシアを経験しており、生活の質(QOL)に著しく影響を与えることがあります。

主な症状は、食後のもたれ感や早期の満腹感、みぞおちの痛み、ときには食欲不振や吐き気が見られます。これらの症状は、食後愁訴症候群(PDS)と心窩部痛症候群(EPS)の二つに大別され、PDSは主に食後の不快感が特徴で、EPSは食事のタイミングに関係なくみぞおちの痛みが生じやすいとされています。

診断は主に症状の評価と除外診断に基づきます。治療には、生活習慣の見直しや薬物療法が基本となり、必要に応じて胃酸分泌抑制薬や胃腸運動機能改善薬を用いることがあります。
機能性ディスペプシアは治療可能な病気であり、適切な医療支援を受けることで多くの患者さんが症状を改善できます。症状が気になる場合は、消化器症状に詳しい医院を受診しましょう。

機能性ディスペプシアの原因

機能性ディスペプシアの病気の主要な病因には、胃腸の運動機能異常、消化管の知覚過敏、および心理的ストレスが関与していると考えられています。
胃や十二指腸の運動機能異常では、食べ物が胃から腸に移行するプロセスに障害が生じるため、食後のもたれ感や早期満腹感が起こります。消化管の知覚過敏は、無害な刺激が痛みや不快感として感じられるようになる状態であり、この過敏性が症状を強く感じさせる一因となります。
また、精神的なストレスも、ストレスが胃腸の機能に直接的または間接的に影響を与えるとされています。ストレスにより胃酸分泌が増加することや、胃腸の動きが悪くなることが、症状の発生に寄与します。

さらに、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が関与することも示唆されています。ピロリ菌の除菌治療によって症状が改善するケースがあることから、ピロリ菌が病因の一端を担っている可能性があります。
一つひとつの要因が症状に直接的な影響を与えるわけではなく、複数の要因が組み合わさることで機能性ディスペプシアが発症すると考えられています。そのため、要因に対する多角的な治療が必要とされます。

機能性ディスペプシアの前兆や初期症状について

機能性ディスペプシアは、症状の発現パターンによって、主に食後愁訴症候群(PDS)と心窩部痛症候群(EPS)の二つに分類されます。
PDSは食事後に顕著になる胃もたれや早期膨満感を特徴としています。具体的な症状は、食べ始めてすぐに満腹感を感じ、これ以上食べることが困難になるなどです。PDSは週に数回以上、継続的に発生します。

一方、EPSは主にみぞおちの痛みや焼けるような感覚が特徴です。痛みは食後だけでなく、空腹のときにも発生することがあり、日常生活で不快感を引き起こす原因となります。
初期症状に加え、多くの患者さんは胸やけや吐き気を伴います。胸やけや吐き気は、胃内容物の逆流や胃の動きが悪くなることで引き起こされます。症状が表れた場合は、消化器内科を受診しましょう。

機能性ディスペプシアの検査・診断

機能性ディスペプシアの検査と診断は、患者さんの詳細な病歴聴取から始まり、具体的な症状、発症時期、食事との関連性、体重の変化の有無などを詳細に調査します。
次に、症状の原因を特定するための物理的検査が行われます。多くの場合、物理的検査として上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が推奨され、上部消化管内視鏡検査により胃や十二指腸の状態を直接観察し、潰瘍や炎症などの異常がないかを確認します。また、ヘリコバクター・ピロリ菌の有無を調べるための検査も行われます。

さらに、必要に応じて血液検査、腹部超音波検査、腹部CTスキャンが行われることがあります。これらの検査で、機能性ディスペプシアの診断の助けとなり、他の潜在的な原因が無いことを確認するために行われます。
検査結果から明らかな器質的異常が見つからない場合に、機能性ディスペプシアの診断が確定されます。この診断過程は、ほかの病気の可能性を慎重に排除し、症状の管理と治療のための正確な基盤を築くことを目的としています。

機能性ディスペプシアの治療

機能性ディスペプシアの治療は、症状の管理と生活の質の向上を目指すため、薬物療法と生活習慣の改善が中心となります。

薬物療法

機能性ディスペプシアの薬物療法は、症状の特性に合わせて異なる薬剤を用います。主に、胃酸の過剰分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミンH2受容体拮抗薬が使用されます。

食後のもたれ感や早期満腹感が主な症状である食後愁訴症候群(PDS)には、消化管運動機能を改善する薬剤が推奨されます。消化管運動機能を改善する薬剤にはドパミンD2受容体拮抗薬やコリンエステラーゼ阻害薬などがあり、胃の運動を促し、食物の消化と排出を助けることで症状の緩和を目指すものになっています。
また、機能性ディスペプシアの背後にはしばしば精神的な要因も関与しているため、抗不安薬や抗うつ薬の使用が考慮されることもあります。

機能性ディスペプシアの薬物療法は、患者さんの症状や生活背景に応じて多岐にわたる治療選択肢があります。症状の管理とともに、個々の患者さんに適切な治療法を見つけることが重要です。

生活習慣の改善

機能性ディスペプシアの治療で、生活習慣の見直しと改善は症状管理と再発防止に不可欠です。なかでも食生活の調整は、胃の負担を軽減し、消化機能を正常に保つための重要な要素です。
過度のアルコール摂取、過食、早食い、長時間の空腹状態は胃に過剰なストレスを与え、機能性ディスペプシアの症状を深刻化させるリスクがあるため、食事の量を適切に調整し、ゆっくりと食事をとることで、胃への負担を減らせます。
また、喫煙は消化器系のさまざまな問題を引き起こす要因の一つであるため、禁煙は機能性ディスペプシアの症状改善に寄与します。アルコールの摂取も、同様に胃酸の過剰分泌を促すため、控えることが求められます。

睡眠も健康状態に影響します。適切な睡眠は身体の自然なリズムと回復を支えるため、胃腸の健康を維持するためにも重要です。毎夜6〜8時間の質のよい睡眠が推奨されます。
ストレス管理も重要です。ストレスは胃腸の動きに直接影響を及ぼし、機能性ディスペプシアの症状を引き起こすことがあるため、ストレスを管理し、必要であればカウンセリングや心理療法を利用することで、症状の軽減が期待できます。
生活習慣の見直しと改善は、機能性ディスペプシアの治療だけでなく、全体的な健康維持にも寄与するため、日常生活のなかで意識的な取り組みが求められます。

機能性ディスペプシアになりやすい人・予防の方法

機能性ディスペプシアは、ストレスが多い環境にある方や、不安障害やうつ病などの気分障害を持つ方に発症しやすいとされています。また、神経症性障害のある方は、胃の知覚過敏が生じやすく、軽い刺激でも過剰に痛みを感じることがあります。

予防と再発防止には、日常生活のなかで対策を講じることが重要です。
まず、食生活では規則正しい時間にバランスのよい食事を心がけることが基本です。暴飲暴食を避け、食事はゆっくりと時間をかけて噛むことで消化を助け、胃への負担を減らしましょう。

次に、十分な睡眠をとりましょう。睡眠は全身の健康を保つために不可欠で、睡眠不足は体のストレス反応を高め、胃酸分泌の調整機能に悪影響を及ぼすことがあります。そのため、毎日6〜8時間の質のよい睡眠を確保してください。

さらに、アルコールの過剰摂取は胃粘膜を刺激し、胃酸分泌を促すため、飲酒する場合は適度な量に留めることが大切です。喫煙も胃腸の健康に悪影響を及ぼすため、機能性ディスペプシア予防のためにも禁煙しましょう。


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