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子宮筋層炎
中里 泉

監修医師
中里 泉(医師)

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2008年宮崎大学卒業後、東京都立大久保病院にて初期研修。東京大学医学部付属病院産婦人科に入局。東京大学医学部付属病院、東京北医療センター、JR東京総合病院などの勤務を経て、現在は生殖医療クリニックに勤務。日本産科婦人科学会専門医。

子宮筋層炎の概要

子宮筋層炎(マイオメトリティス)とは、子宮筋層(子宮の中間層)に炎症が起こる病気です。この炎症は主に感染症によって引き起こされることが多く、骨盤内炎症性疾患 (PID)の一種として扱われることもあります。

子宮は、以下の三つの層で構成されています。

子宮内膜(エンドメトリウム)

子宮の最も内側にある粘膜層です。受精卵が着床する場所として女性ホルモン刺激によって増殖して厚くなりますが、受精卵が着床しなかった場合は、毎月はがれ落ちて出血します。これが月経となります。

子宮筋層(マイオメトリウム)

子宮の中央にある筋肉層で、分娩時や月経時に収縮する役割を持ちます。

子宮漿膜(ペリメトリウム)

子宮の外側を覆う膜の層で、外部との境界を作ります。

子宮筋層炎は、子宮内膜炎(子宮内膜の炎症)や子宮内膜症(子宮内膜に似た組織が子宮の外で増殖する病気)ほど一般的に知られてはいませんが、症状や原因を理解し、適切な治療を受けることが大切です。

子宮筋層炎の原因

子宮筋層炎は、感染が子宮筋層に広がることで発症します。主な原因は以下のとおりです。

性感染症(STI)

子宮筋層炎の原因として特に多いものは性感染症で、淋菌(N. gonorrhoeae)や性器クラミジア(C. trachomatis)が多いです。
これらの性感染症は、腟から子宮頸部を通過して子宮内に感染を引き起こし、子宮筋層炎の原因となるほか、卵管を超えて腹腔内や骨盤腔内にまで広がることがあります。

この状態を骨盤内炎症性疾患(PID, Pelvic inflammatory disease)と呼び、なかでも肝臓周囲に炎症が波及した状態はFitz-Hugh-Curtis syndrome (FHCS)と呼ばれています。FHCSは激しい腹痛と発熱で発症し、緊急開腹が必要と判断されることもあります。

一般細菌感染

大腸菌など膣や尿路に常在する細菌が子宮内に入り込んで感染を引き起こすことがあります。特に出産後や、子宮に関連する医療処置を受けた後に起こりやすくなります。

産後感染

出産後の子宮は感染しやすい状態にあり、特に分娩時に合併症があった場合や分娩に長時間かかった場合はリスクが高まります。

骨盤内の医療処置

子宮内膜掻爬術(D&C)、子宮内膜生検、子宮内避妊具(IUD)の挿入などの処置が感染のリスクを高めることがあります。

子宮筋層炎の前兆や初期症状について

子宮筋層炎は無症状のこともありますが、以下のような症状が現れることがあります。

下腹部の痛み

骨盤や下腹部に鈍い痛みを感じることが多いとされますが、鋭い痛みも観察されます。生理中や性交、長時間の起立姿勢などで悪化しがちです。

不正出血

生理期間と無関係に性器出血を起こすことがあります。

おりものの異常

通常とは異なる色や量のおりものが増えることがあります。

発熱

感染が原因となるため、体温の上昇を伴うことがあります。

動作時の違和感

歩いたり動いたりする際に、不快感や痛みを感じることがあります。

全身の倦怠感

風邪のようなだるさや体調不良を感じることがあります。

受診すべき診療科目は婦人科で、上記のような症状が現れた場合は、早めに受診することが重要です。なお、繰り返し性感染症を起こすことは将来の不妊につながる恐れがあります。

子宮筋層炎の検査・診断

子宮筋層炎の診断には、以下のような検査が行われます。

問診

最近の出産や骨盤内の医療処置の有無、性感染症の可能性などを詳しく尋ねます。

内診

医師が膣を通して腟内、子宮、卵巣の状態を診察します。同時に腹部の触診を行って子宮の圧痛(押したときの痛み)や移動痛、腫れも確認します。

血液検査

白血球数やCPRなど、感染の兆候を調べるために血液検査を行います。

NAAT検査(PCRなど)

子宮筋層炎の原因として特に多いものは性感染症で、淋菌(N. gonorrhoeae)性器クラミジア(C. trachomatis)多いので、これらの細菌に対する子宮頸部検体のNAAT(核酸増幅検査、PCR法、TMA法、SDA法がある)を行うことが推奨されています。

培養検査

子宮頸部や子宮内の分泌物を採取し、感染の原因となっている細菌を特定する検査を行うことがあります。特に、性感染症の場合は一度の性的接触により同時に複数の病原菌に感染することが珍しくありません。またNAAT検査で細菌を検出できても、効果的な抗生物質は培養検査を行わないと判断できないため、培養検査が重要になります。

画像検査

通常まずは超音波検査によって子宮の大きさや形状、筋層の状態を評価します。超音波検査は放射線を使わず迅速で痛みもないため、繰り返し実施ができます。
必要に応じて、子宮筋層の詳細な構造の評価に優れているMRIを撮影することもあります。

組織生検

上記の検査だけで診断が困難な場合、子宮筋層の組織を直接採取して顕微鏡で観察する生検を行う場合もあります。子宮体がん検診にも使われる子宮内膜生検や、子宮鏡という細いスコープで子宮内を観察しながら行う子宮鏡下生検などの方法があります。

特定の検査のみで診断が確定するわけではなく、総合的な判断が必要となります。

子宮筋層炎の治療

子宮筋層炎の治療には、主に抗生物質が使用されます。
感染の原因となる細菌の種類によって、適切な抗生物質を選択することが重要です。特に、性感染症が原因となっている場合は複数の病原菌に同時に感染していることが珍しくないため、子宮筋層炎だけでなくほかの性感染症の治療も同時に考慮する必要があります。

通常は経口の抗生物質による治療を1〜2週間行いますが、重症の場合は入院して点滴による抗生物質を投与する必要があります。

治療中は十分な休息と水分補給が求められます。疼痛が強い場合は鎮痛剤が処方されることもあります。なお、医師の許可があるまで性行為は控えます。

治療が終了しても、定期的に医師の診察を受けることが推奨されます。

子宮筋層炎になりやすい人・予防の方法

以下の方は、子宮筋層炎になりやすいと考えられます。

性的に活発な方

パートナーが複数いると、性感染症のリスクが上昇します。

性感染症にかかっている方

未治療の性感染症があると、子宮内で感染が広がる可能性が高くなります。

出産後の女性

特に帝王切開を受けた方や、分娩時に合併症があった方はリスクが高まります。

骨盤内の医療処置を受けた方

子宮内膜掻爬術やIUDの挿入後は、感染のリスクが上がることがあります。

子宮筋層炎を予防するためには、以下の点に注意することが大切です。

安全な性行為を心がける

コンドーム使用の徹底や、パートナーを不必要に増やさないことで性感染症のリスクを減らせます。

衛生管理を徹底する

出産後や医療処置後は、清潔を保つことが重要です。

定期的に婦人科で検診を受ける

異常を早期に発見し、適切な治療を受けることでリスクを軽減できます。

医師の指示を守る

子宮に関わる医療処置の後は、医師の指示に従い、感染を防ぐようにしましょう。


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