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急性外陰潰瘍
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

急性外陰潰瘍の概要

急性外陰潰瘍は、主に若年女性に発症する痛みを伴う外陰部の潰瘍であり、急性に発症し、しばしば発熱や倦怠感などの全身症状を伴うことが特徴です。本疾患は一般に非感染性とされ、特定の細菌やウイルスが直接関与しているわけではありません。代表的なものとしてLipschütz潰瘍(リプシュッツ潰瘍)が挙げられますが、原因は完全には解明されていません。また、ベーチェット病などの自己免疫疾患や、特定の薬剤、外傷が原因となることもあり、鑑別診断が重要です。急性外陰潰瘍の診断には、性器ヘルペスや梅毒などの感染性疾患との鑑別が不可欠であり、適切な診断を行うことで適切な治療を進めることができます。

急性外陰潰瘍の原因

急性外陰潰瘍の病態は、上気道感染症後に免疫反応が関与して発症する若年女性に多いLipschütz潰瘍や、口腔内アフタ性潰瘍・皮膚症状・眼炎症とともに外陰部潰瘍を特徴とし慢性的な経過で再発を繰り返すベーチェット病、特定の抗生物質や抗炎症薬による薬剤性反応、過度の摩擦や物理的刺激による外傷などの非感染性要因が多くを占める一方で、小水疱から有痛性潰瘍を形成する性器ヘルペス(HSV-1/2)、無痛性の硬性下疳を形成し全身症状に進展する梅毒(Treponema pallidum)、自壊して痛みを伴う潰瘍を特徴とする軟性下疳(Haemophilus ducreyi)などの感染性要因も重要な鑑別対象となり、特に後者では適切な問診や検査による性感染症の鑑別診断が極めて重要となります。

急性外陰潰瘍の前兆や初期症状について

急性外陰潰瘍の前兆として、発熱や倦怠感、咽頭痛などの全身症状が先行することがあります。その後、外陰部に痛みを伴うびらんや潰瘍が出現し、しばしば鼠径部のリンパ節腫脹を伴います。潰瘍は1~3個のことが多く、深くえぐられたような形態を示すことがあります。ベーチェット病による外陰部潰瘍は慢性的な経過をたどり、他の皮膚症状(結節性紅斑など)や眼炎症、関節症状を伴うことがあります。Lipschütz潰瘍の場合、急性発症し、比較的短期間で軽快する傾向があります。

急性外陰潰瘍の検査・診断

外陰部(女性器の外側)にできる潰瘍の診断では、まず性感染症かどうかの判断が最も大切です。具体的には、水ぶくれができて痛みを伴う性器ヘルペスについてPCR検査やウイルス培養検査を行い、痛みのない潰瘍ができる梅毒については血液検査(RPR法やTPHA法)、そして痛みのある潰瘍を作る軟性下疳については特殊な細菌(Haemophilus ducreyi)の検査を行います。また、口内炎や目の炎症を伴うベーチェット病という病気の可能性もあるため、これらの症状の有無を確認し、必要に応じて遺伝子検査(HLA-B51)を行います。さらに、治りにくい場合や一般的ではない見た目の潰瘍の場合には、がんの可能性や他の自己免疫疾患(体が自分の組織を攻撃してしまう病気)を調べるため、潰瘍の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べることもあります。このように段階を追って、丁寧に原因を突き止めていくことが大切です。

急性外陰潰瘍の治療

外陰部にできた潰瘍の治療は、原因となる病気によって異なります。若い女性に多いリプシュッツ潰瘍は、一時的な病気であり自然に治ることが多いため、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)や炎症を抑えるお薬(ステロイド軟膏)で症状を和らげる治療を行います。一方、口内炎や目の症状も出るベーチェット病による潰瘍は、長期間続く傾向があるため、症状が軽い場合はステロイド軟膏を使用し、症状が重い場合は飲み薬(ステロイドやコルヒチン)による治療が必要になります。また、性感染症が原因の場合は、性器ヘルペスには抗ウイルス薬(アシクロビルやバラシクロビル)、梅毒には抗生物質(ペニシリン系)など、それぞれの感染症に効果的な薬を使用して治療を行います。このように、正確な診断に基づいて適切な治療法を選択することで、症状の改善や再発の予防が期待できます。

急性外陰潰瘍になりやすい人・予防の方法

急性外陰潰瘍は若年女性に多く見られ、特に免疫系が過敏に反応しやすい人、上気道感染症を頻繁に発症する人、ベーチェット病や自己免疫疾患の家族歴がある人に発症しやすいとされています。
予防策としては、ストレス管理、十分な休息、適切な衛生管理が重要です。また、性感染症を防ぐための適切な性行動も推奨されます。特にLipschütz潰瘍を予防する明確な方法は確立されていませんが、全身の健康状態を良好に保つことが発症リスクの低減につながると考えられます。


関連する病気

参考文献

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