

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
卵胞嚢胞の概要
卵胞嚢胞は、卵巣内にあるグラーフ卵胞(卵巣に存在する袋状の構造で、液体で満たされ、成熟した卵子を含む)から生じる嚢胞性病変です。これは主に卵胞が排卵せずに残存し、内部に液体がたまることで形成されます。通常、卵胞嚢胞は一時的なものであり、多くの場合、自然に消失するため、異常とはみなされません。しかし、まれに大きくなったり、破裂したりすることで症状を引き起こすことがあります。
卵胞嚢胞は特に生殖年齢の女性に多く見られ、ホルモンの影響を受けやすいと考えられています。卵巣の正常な機能の一環として発生するものであり、排卵の過程で一時的に形成されることがほとんどです。そのため、多くのケースでは無症状であり、偶然の婦人科検診や超音波検査で発見されることが多くなっています。
卵胞嚢胞の原因
卵胞嚢胞は、排卵が起こらずに卵胞が成長し続けることで形成されます。排卵が正常に起こると、成熟した卵胞が破裂し、卵子が放出されます。しかし、何らかの要因で排卵が起こらず、卵胞が閉じたまま液体を蓄積すると、卵胞嚢胞となります。この状態はホルモンバランスの変化と関連しており、特にエストロゲンと黄体形成ホルモン(LH)の不均衡が関与すると考えられています。
また、ストレスや過度な運動、急激な体重変化などがホルモンバランスに影響を及ぼし、卵胞の成長や排卵のプロセスに影響を与えることもあります。そのため、卵胞嚢胞の発生は一部の生活習慣や身体的要因とも関連している可能性があります。
卵胞嚢胞の前兆や初期症状について
多くの場合、卵胞嚢胞は無症状のまま自然に消失します。しかし、嚢胞が大きくなると、下腹部の鈍痛や圧迫感、月経周期の変化(生理の遅れ、不正出血)、腹部膨満感、排卵痛のような痛みが生じることがあります。
まれに、卵胞嚢胞が破裂すると突然の激しい痛みを伴うことがあります。また、嚢胞が大きくなりすぎると、卵巣がねじれる(卵巣茎捻転)リスクが高まり、緊急の処置が必要になる場合があります。
卵胞嚢胞の検査・診断
卵胞嚢胞は、主に超音波検査によって診断されます。超音波画像では、内部に液体を含む薄い壁の嚢胞として描出されることが特徴です。通常、サイズは3~5cm程度であり、2~3か月以内に自然に縮小・消失することが多いです。
また、ホルモン検査を併用することで、ホルモンバランスの異常が卵胞嚢胞の形成に関与しているかどうかを確認することができます。特に、排卵障害が疑われる場合には、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、エストロゲン(E2)などの測定が有用です。
卵胞嚢胞の治療
卵胞嚢胞の多くは自然に縮小・消失するため、特別な治療を必要としません。ただし、嚢胞が大きくなりすぎた場合や症状が強い場合には、経過観察を行いながら、必要に応じてホルモン療法や手術を検討します。特に、3か月ほどの経過観察を経ても縮小しない場合や、強い痛みを伴う場合には、低容量ピルやホルモン療法を用いてホルモンバランスを整えることが有効です。まれに、嚢胞が非常に大きくなったり、破裂や茎捻転が疑われたりする場合には、腹腔鏡手術による摘出が必要になることもあります。
卵胞嚢胞になりやすい人・予防の方法
卵胞嚢胞の発生はホルモンバランスに関連しており、月経不順のある人や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断された人、ストレスが多い生活を送っている人、急激な体重変化がある人は発生しやすいとされています。
予防としては、規則正しい生活を心がけ、適度な運動やバランスの取れた食事を行うことが重要です。また、定期的な婦人科検診を受けることで、早期発見・管理が可能になります。
参考文献
- 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会(編・監):産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020. 日本産科婦人科学会,2020;76-77.
- 日本超音波医学会用語・診断基準委員会:卵巣腫瘍のエコーパターン分類の公示について. J Med Ultrasonics. 2000;27:912-914.
- Okai T. et al:Transvaginal sonographic appearance of hemorrhagic functional ovarian cysts and their spontaneous regression. Int J Gynecol Obstet 1994;44:47-52.
- 生水真紀夫,他:卵巣嚢腫の分類と成因. 産と婦 2009;76:824-829.
- Togashi K, et al:Endometrial cysts:diagnosis with MR imaging. Radiology 1991;180:73-78.
- Corwin MT, et al:Differentiation of ovarian endometriomas from hemorrhagic cysts at MR imaging:utility of the T2 dark spot sign. Radiology 2014;271:126-132.
- Hallatt JG, et al:Ruptured corpus luteum with hemoperitoneum: A study of 173 surgical cases. Am J Obstet Gynecol 1984;149:5-8.