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子宮内反症
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

子宮内反症の概要

子宮内反症とは、子宮の中にある子宮体部が子宮内腔に向かって内側にめり込み、ひっくり返った状態になる病気です。正常な分娩の後、稀に発生することがあり、約3,500~20,000件の出産に1例程度といわれています。発症後、適切な診断と治療が行われない場合、大量出血や激しい痛みによってショック状態に陥り、母体の命に関わる重篤な状態となります。特に分娩中の操作や胎盤の状態が関与することが多いですが、明確な原因がなく突然発症することもあります。

子宮内反症の原因

子宮内反症の原因として、分娩時の処置が挙げられます。例えば、出産後に胎盤を取り出す際、臍の緒を強く引っ張りすぎたり、子宮の底を強く押しすぎたりすることで子宮が内側に入り込むことがあります。また、以下の要因が関与することが指摘されています。

  • 子宮の収縮が不十分な状態(弛緩子宮)
    分娩後に子宮がきちんと収縮しない場合、子宮の底部が内側に引き込まれやすくなります。
  • 胎盤の異常な付着
    胎盤が通常より深く子宮の壁に付着している場合、胎盤を無理に引き剥がそうとすると子宮が引き込まれることがあります。
  • 分娩の進行の異常
    分娩が非常に速く進行した場合や、逆に長時間かかった場合にリスクが高まります。
  • 赤ちゃんの体が大きい場合(巨大児)や臍の緒が短い場合
    これらの状況も、子宮内反症のリスクを高めるとされています。

しかし、これらの危険因子が見当たらない場合にも子宮内反症が発生することがあるため、原因が特定できないケースも少なくありません。

子宮内反症の前兆や初期症状について

子宮内反症の初期症状は、発症のタイミングや程度によって異なります。急性の場合は、分娩直後から以下のような症状が現れることがあります。

  • 大量出血:ひっくり返った子宮の内膜部分が露出し、その面から大量に出血します。
  • 激しい下腹部の痛み:子宮が内側にめり込む際、強い絞めつけ感が生じます。
  • ショック状態:血圧が急激に低下し、意識を失ったり、冷や汗やめまいを感じたりすることがあります。

軽度の子宮内反症では、出血や痛みがそれほど目立たない場合もありますが、診断が遅れると症状が進行し、母体に大きな負担がかかる可能性があります。

子宮内反症の検査・診断

子宮内反症は、分娩後に起こる異常として、早期に診断されることが重要です。診断は以下の方法を用いて行われます。

お腹や内診での触診

お腹を触ったときに子宮の頂点部分(子宮底)が確認できず、内診で腟の中に腫れた部分が触れる場合、子宮内反症が疑われます。

腟の中の視診

暗い赤色をした子宮の内側の部分が腟の中に見える場合、子宮内反症の可能性が高いです。

超音波検査

子宮の形が内側に引き込まれている様子や、陥没した子宮底部を確認するために用いられます。

急性の場合は症状が急速に進むため、迅速に診断を行い治療を開始することが重要です。

子宮内反症の治療

子宮内反症の治療は、母体の命を守るために迅速かつ適切に行われる必要があります。治療の主な流れは以下の通りです。

全身状態の安定化

  • 大量出血によるショックに対応するため、血圧を安定させる点滴輸血が行われます。
  • ショック状態を防ぐために、麻酔科医や救急医の協力のもとで全身管理を行います。

子宮の元の位置への整復

子宮を元の位置に戻す方法には以下があります。

  • 用手整復(Johnson法)
    手で子宮底部をつかみ、ひっくり返った部分を腟の中に押し戻します。その後、さらに子宮を上に押し上げて、元の位置に戻します。
  • 子宮を緩める薬剤の使用
    子宮を緩める薬を使うことで整復を行いやすくします。これには、筋肉を緩める効果がある薬や吸入麻酔薬が用いられます。
  • 観血的整復法(外科的手術)
    用手整復が難しい場合には、開腹手術で子宮を整復する方法が選択されます。この方法では、子宮の周囲の絞扼部分を切開して整復を行う場合があります。

再発予防と止血

  • 子宮収縮を促す薬を使って、整復した子宮が再びひっくり返らないようにします。
  • 必要に応じて、圧迫バルーンや外科的な縫合で止血を行います。

子宮内反症になりやすい人・予防の方法

子宮内反症になりやすい人

子宮内反症は、以下のような条件に該当する人にリスクが高いとされています。

  • 子宮の収縮が弱い状態で出産した場合
  • 胎盤が子宮の底部に付着している場合
  • 胎盤が癒着していて剥がれにくい場合
  • 赤ちゃんが非常に大きい場合や臍の緒が短い場合

予防の方法

予防のための対策としては、以下の点が挙げられます。

  • 臍の緒を引っ張りすぎない
    胎盤を取り出す際には、子宮が収縮していることを確認しながら慎重に行います。
  • 胎盤を押し出す方法を工夫する
    クレーデ法のように子宮底を強く押す方法を避け、より安全な方法で胎盤を取り出します。
  • 子宮の収縮を促す
    分娩後、子宮収縮を促進する薬を使用して、子宮が正常な形を保てるようにします。

また、子宮内反症の早期対応を可能にするために、分娩施設でのシミュレーショントレーニングが推奨されています。


関連する病気

  • 尿道損傷
  • 子宮内感染
  • 腹部内出血
  • 下垂体機能障害

参考文献

  • Coad SL, Dahlgren LS, Hutcheon JA: Risks and consequences of puerperal uterine inversion in the United States, 2004 through 2013. Am J Obstet Gynecol. 2017; 217:377.e1–377.e6.
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