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子宮腟部びらん
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

子宮腟部びらんの概要

子宮腟部びらんは、子宮頸管の円柱上皮が子宮腟部に外反することによって生じる婦人科的な状態を指します。主に「偽びらん」と「真びらん」の2つのタイプに分類されますが、臨床現場で見られる大多数は偽びらんです。偽びらんは女性ホルモン(特にエストロゲン)の影響下で自然に発生する生理的な変化であり、病的な状態ではないことが重要です。
一方、真びらんは物理的な刺激や炎症などの要因により子宮腟部上皮が実際に欠損した状態を指し、より注意が必要な病態となります。この状態は20-30代の女性に最も多く見られ、婦人科検診で偶然発見されることも少なくありません。

子宮腟部びらんの原因

子宮腟部びらんは、主に子宮頸部特有の解剖学的構造から生じる現象です。子宮頸部は外側部分が重層扁平上皮で覆われているのに対し、内側の頸管部分は単層円柱上皮で構成されており、これらの境界領域を扁平上皮-円柱上皮移行部(SCJ)と呼びます。この移行部は女性の年齢や性成熟度によってダイナミックに位置が変化し、特に思春期以降にホルモンの影響を受けて外側へと移動することで、特徴的な赤色調の偽びらんが形成されます。また、経口避妊薬などの女性ホルモン製剤の使用や、クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスなどの性感染症、そして子宮内避妊具(IUD)の挿入などによる機械的刺激も、びらんの形成や増悪に関与することが医学的に確認されています。特に妊娠中はホルモンバランスの変化により、びらんが顕著になることがあります。これは正常な生理的変化の一つとして理解されています。

子宮腟部びらんの前兆や初期症状について

偽びらんは多くの場合、性交時出血や不正性器出血、異常なおりものの増加といった婦人科症状をきっかけに発見されます。特に特徴的な症状として、茶褐色のおりものの増加や、性交後の軽度の出血が挙げられます。

子宮腟部びらんの検査・診断

診断の流れとしては、まず婦人科内診での視診による観察が行われ、必要に応じて細胞診検査が実施されます。コルポスコピー検査を併用することで、より詳細な観察が可能となります。過去には子宮頸部びらんがヒトパピローマウイルス(HPV)感染や子宮頸がん発症のリスク因子として懸念されていた時期がありましたが、現在の医学的知見ではその直接的な因果関係は否定されています。ただし、閉経後の女性において新たにびらんが確認された場合には、子宮頸がんをはじめとする悪性疾患の可能性を考慮して、より詳細な検査を実施することが推奨されています。また、若年女性であっても、急激な症状の変化や持続的な出血がある場合には、追加検査が必要となることがあります。

子宮腟部びらんの治療

偽びらんは本質的に生理的な変化であるため、多くの場合で積極的な治療介入は必要ありません。性感染症や腫瘍性病変が適切な検査によって除外され、自覚症状が軽微である場合には、定期的な経過観察で十分とされています。しかしながら、持続的な性器出血や改善しない異常なおりもの、あるいは患者さんの強い症状や不安がある場合には、治療的介入を検討する必要があります。具体的な治療選択肢としては、病変部位に対する冷凍療法やレーザー焼灼療法などが挙げられますが、自然経過での症状改善も十分期待できることから、個々の患者さんの症状の程度や希望を十分に考慮しながら、最適な治療方針を決定していくことが重要です。治療を行う場合でも、一回の治療で完全に改善しないことも多く、複数回の治療が必要となることがあります。また、治療後は一定期間の経過観察が必要で、性交や膣洗浄は控えめにすることが推奨されます。

子宮腟部びらんになりやすい人・予防の方法

偽びらんは思春期以降の女性に自然発生する生理的な変化であり、その発生自体を予防することは困難です。しかしながら、性感染症に起因する真びらんの予防に関しては、適切な予防策を講じることが可能です。具体的には、安全な性行為の実践定期的な婦人科検診の受診、そして不正出血やおりものの異常などの症状が現れた際の早期受診が重要となります。特に強調すべきは定期的な婦人科検診の重要性です。びらんの有無にかかわらず、推奨される間隔(一般的には1-2年に1回)での子宮頸がん検診の受診を継続することで、びらんを含む様々な婦人科疾患の早期発見・早期治療につながり、より良好な予後が期待できます。妊娠中や避妊薬の使用時には、より慎重な経過観察が必要となる場合もあります。また、過度の膣洗浄や強すぎる機械的刺激は避けることが推奨されます。日常生活においては、清潔な下着の着用や適度な運動、バランスの取れた食事など、全身の健康管理も重要な予防策となります。
子宮腟部びらんが見つかった場合でも、多くは治療を必要としない生理的な変化であることを理解し、過度に不安を感じる必要はありません。ただし、症状による日常生活への影響が大きい場合は、婦人科医に相談し、適切な対応を検討することが推奨されます。特に性生活への影響が懸念される場合は、パートナーとも良く相談し、必要に応じて医療専門家のアドバイスを求めることが重要です。定期的な検診と適切なセルフケアを心がけることで、多くの場合、通常の生活を送ることが可能です。


関連する病気

参考文献

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