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卵巣機能不全
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

卵巣機能不全の概要

卵巣機能不全は、卵巣が正常に働かなくなることで、ホルモン分泌の異常や排卵障害が生じる疾患です。この状態は、不妊症、月経不順、更年期症状、骨密度低下など、女性の健康や生活の質に深刻な影響を与えます。卵巣機能不全は、加齢による自然な衰えや病的な要因によって発症しますが、早期に適切な診断と治療を行うことで、症状の緩和や合併症の予防が可能です。

卵巣機能不全の原因

卵巣機能不全の原因は多岐にわたり、大きく分けて「加齢によるもの」と「病的な要因によるもの」の二つがあります。
加齢による卵巣機能の低下は、自然な生理的現象であり、年齢とともに卵胞数が減少し、卵子の質も低下することで引き起こされます。特に35歳を過ぎると卵巣内の卵胞数が急激に減少し、妊娠が難しくなります。閉経に近づくにつれ、ホルモン分泌も低下し、身体全体に様々な影響を及ぼします。
一方、病的な要因による卵巣機能不全は、特定の疾患や外部要因によって引き起こされます。遺伝的異常はその一つで、染色体異常(ターナー症候群など)や遺伝子変異が関与するケースがあります。また、化学療法や放射線治療、卵巣手術などの医療処置が卵巣にダメージを与える医原性の要因も多く報告されています。さらに、自己免疫疾患が原因となる場合もあり、甲状腺疾患や副腎疾患が関連していることが知られています。これに加えて、骨盤内感染症やウイルス感染などの炎症性疾患が卵巣機能に悪影響を与えることもあります。
これらの要因が複合的に作用し、卵巣機能不全を引き起こしますが、場合によっては明確な原因が特定できない「特発性」と診断されるケースも少なくありません。

卵巣機能不全の前兆や初期症状について

卵巣機能不全の初期段階では、以下のような症状が見られることがあります。

  • 月経異常:月経周期が不規則になったり、無月経となる場合があります。
  • 更年期症状:ほてり、発汗、不眠などが現れます。
  • 不妊症:排卵が正常に行われないため、妊娠が困難になります。
  • その他の症状:骨密度の低下、情緒不安定、集中力の低下などが含まれます。

これらの症状は徐々に進行することが多いため、早期に気づき医療機関を受診することが重要です。

卵巣機能不全の検査・診断

卵巣機能不全の診断は、問診、血液検査、画像検査を組み合わせて行います。

問診

月経の状況、不妊の有無、家族歴、既往歴などを確認します。

ホルモン検査

  • FSH(卵胞刺激ホルモン):高値(通常25mIU/mL以上)が特徴です。
  • エストラジオール:低値を示します。
  • AMH(抗ミュラー管ホルモン):卵巣予備能を評価します。

画像検査

超音波検査で卵巣の大きさや残存卵胞を確認します。

遺伝子検査および自己抗体検査

遺伝的異常や自己免疫疾患の有無を確認します。

欧州においては、4ヶ月以上の無月経、あるいは月経周期の著しい延長がみられる症例に対し、血中卵胞刺激ホルモン(FSH)値の測定を実施することがあります。FSH値の上昇は卵巣機能低下の可能性を示唆する指標の一つとされており、これは卵巣からの反応性低下に対する代償性の上昇と解釈されることがあります。
一方、日本における診断方法では、3ヶ月以上の無月経を認める症例において、血中FSH値の上昇に加え、血中エストラジオール(E2)値の著明な低下を確認することがあります。これらの複数の指標を組み合わせた評価が行われることがあります。
しかしながら、これらの基準は絶対的なものではなく、診断の参考として活用されるべきものです。個々の症例における臨床所見や年齢、既往歴などを総合的に考慮し、適切な診断への手順を検討することが重要とされています。

卵巣機能不全の治療

卵巣機能不全の治療は、患者の症状や妊娠希望の有無によって異なります。

ホルモン補充療法(HRT)

エストロゲンプロゲステロンを補充し、更年期症状の緩和や骨密度の維持を図ります。経口薬や経皮薬(貼付剤やジェル剤)が用いられ、患者の状態に応じて調整されます。ただし、長期使用には乳がん血栓症リスクを考慮する必要があります。

挙児希望がある場合の治療

  • 排卵誘発:ホルモン補充を通じて卵胞発育を促します。
  • 体外受精(IVF):残存卵胞を用いた高度生殖医療が行われます。
  • 卵子提供:自身の卵子での妊娠が難しい場合、卵子提供が選択肢となります。

合併症の管理

  • 骨粗しょう症の予防:カルシウムやビタミンD補充、適度な運動を行います。
  • 心血管疾患の予防:生活習慣を改善し、定期検査を行います。
  • 精神的ケア:必要に応じて心理カウンセリングを提供します。

卵巣機能不全になりやすい人・予防の方法

卵巣機能不全になりやすい人

  • 家族に卵巣機能不全の既往歴がある女性。
  • 化学療法や放射線治療を受けた女性。
  • 自己免疫疾患を持つ女性。
  • 35歳以上で妊娠を希望している女性。

予防の方法

  • 定期的な健康診断:卵巣機能を早期に把握するため、AMHやホルモン検査を受ける。
  • 卵子や卵巣組織の保存:妊孕性温存のために事前の準備を行う。
  • 健康的な生活習慣:バランスの取れた食事や適度な運動、ストレス管理を心がける。
  • 治療計画の慎重な検討:化学療法や放射線治療の際には卵巣保護の方法を検討する。


関連する病気

参考文献

  • National Collaborating Centre for Women’s and Children’s Health. Full Guideline2015. Menopause2015.
  • Coulam CB, et al: Incidence of premature ovarian failure. Obstet Gynecol 1986; 67: 604-606.
  • Van Kasteren YM, et al: Premature ovarian failure. Hum Reprod 1999; 5: 483-492.
  • Sullivan S, et al: Hormone replacement therapy in young women with primary ovarian insufficiency. Fertil Steril 2016; 106: 1588-1599.
  • Nelson LM, et al: Development of luteinized Graafian follicles in patients with spontaneous premature ovarian failure. J Clin Endocrinol Metab 1994; 79: 1470-1475.

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