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前期破水
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

前期破水の概要

前期破水(premature rupture of membrane: PROM)は、陣痛開始前に羊膜が破れて羊水が漏れ出す状態を指します。
通常、妊娠37週未満で起こる破水を早期前期破水(preterm PROM)と呼びます。前期破水は全妊娠の約2-3%で発生し、早産の主要な原因の一つとなっています。
前期破水は母体と胎児の両方にリスクをもたらす可能性があります。主な合併症には、絨毛膜羊膜炎(子宮内感染)、臍帯脱出、早産などがあります。適切な管理と治療が行われない場合、母体や胎児の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

前期破水の原因

前期破水の正確な原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。最新の研究によると、卵膜の脆弱性や炎症、感染が重要な役割を果たしていることが示唆されています。特に、子宮頸管や腟内の微生物叢の変化が前期破水のリスクを高める可能性があります。また、子宮頸管の長さの短縮も重要な因子とされており、子宮頸管長が短い妊婦では前期破水のリスクが約3倍に増加するという報告もあります。
その他のリスク因子としては、多胎妊娠、喫煙、低い社会経済的状況などが挙げられます。また、過去の早産や前期破水の既往も重要なリスク因子です。これらの要因が複合的に作用し、羊膜の強度低下や炎症反応の亢進を引き起こすことで、前期破水が発生すると考えられています。

前期破水の前兆や初期症状について

前期破水の主な症状は以下の通りです。

  • 突然の水様の液体の流出
  • 持続的なおりものの増加
  • 下着や衣服の湿潤

ただし、これらの症状は必ずしも前期破水を意味するわけではありません。正常な妊娠でも膣分泌物の増加は一般的に見られるため、判断が難しい場合があります。
前期破水の患者の約90%が水様の液体の流出を報告しています。
しかし、同時に、前期破水と診断された患者の約50%が初期には明確な破水の自覚がなかったとも報告されています。

前期破水の検査・診断

前期破水の診断は主に以下の方法で行われます。

  • 問診と視診:症状の確認と外陰部の観察
  • 腟鏡診:子宮頸管からの羊水流出の確認
  • ニトラジン試験:腟分泌物のpH測定
  • ファーンテスト:腟分泌物の顕微鏡観察

これらの検査で診断が困難な場合、以下の追加検査が行われることがあります。

  • 羊水中のIGFBP-1(インスリン様成長因子結合蛋白-1)やPAMG-1(胎盤α1-ミクログロブリン)の検出
  • 超音波検査:羊水量の評価

最新のメタアナリシスによると、IGFBP-1やPAMG-1の検出は、従来の診断方法と比較して高い感度と特異度を示しています。特にPAMG-1検出の感度は96%、特異度は98%と報告されており、診断の精度向上に貢献しています。

前期破水の治療

前期破水の治療方針は、妊娠週数、胎児の状態、感染の有無などによって決定されます。
主な治療オプションは以下の通りです。

経過観察

34週以降の場合、分娩誘発を考慮

抗生物質投与

感染予防

ステロイド投与

34週未満の場合、胎児の肺成熟促進

子宮収縮抑制

必要に応じて実施

大規模無作為化比較試験によると、34週未満の前期破水症例に対する予防的抗生物質投与は、新生児敗血症のリスクを有意に低下させることが示されています。
また、メタアナリシスでは、34週未満の前期破水に対するステロイド投与が、新生児呼吸窮迫症候群のリスクを約半減させることが報告されています。

前期破水になりやすい人・予防の方法

前期破水のリスクが高い人

前期破水のリスクが高い人には、過去に早産や前期破水の既往がある方、多胎妊娠の方、子宮頸管長が短い方、喫煙者、低い社会経済的状況にある方などが含まれます。また、性感染症や腟内感染症の既往もリスク因子となる可能性があります。

予防の方法

予防方法に関しては、完全に前期破水を防ぐことは難しいですが、リスクを軽減するための方策がいくつか提案されています。
まず、禁煙が重要です。研究によると、妊娠中の喫煙は前期破水のリスクを約2倍に増加させることが報告されています。
また、適切な腟内環境の維持も重要です。特定のプロバイオティクスの使用が前期破水のリスクを低下させる可能性が示唆されていますが、この分野の研究はまだ初期段階にあり、さらなる検証が必要です。
定期的な妊婦健診の受診も重要です。子宮頸管長の測定や腟分泌物の評価を通じて、前期破水のリスクを早期に識別できる可能性があります。高リスクと判断された場合、予防的介入が検討される場合があります。
以上のように、前期破水は複雑な病態であり、その予防には多面的なアプローチが必要です。リスク因子の管理、適切な妊婦健診、そして必要に応じた予防的介入を組み合わせることで、前期破水のリスクを軽減できる可能性があります。ただし、すべての前期破水を予防することは現時点では困難であり、早期発見と適切な管理が重要となります。


参考文献

  • Mercer BM. Preterm premature rupture of the membranes. Obstet Gynecol. 2016
  • Romero R, et al. The preterm parturition syndrome. BJOG. 2014
  • ACOG Practice Bulletin No. 188: Prelabor Rupture of Membranes. Obstet Gynecol. 2018
  • Van der Ham DP, et al. Methods for the diagnosis of rupture of the fetal membranes in equivocal cases: a systematic review. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2015
  • Tita ATN, et al. Treatment of Early-Onset Group B Streptococcal Sepsis in Neonates. N Engl J Med. 2019
  • Roberts D, et al. Antenatal corticosteroids for accelerating fetal lung maturation for women at risk of preterm birth. Cochrane Database Syst Rev. 2017
  • Kindinger LM, et al. The interaction between vaginal microbiota, cervical length, and vaginal progesterone treatment for preterm birth risk. Microbiome. 2017
  • Romero R, et al. Vaginal progesterone for preventing preterm birth and adverse perinatal outcomes in singleton gestations with a short cervix: a meta-analysis of individual patient data. Am J Obstet Gynecol. 2018

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