監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
過少月経の概要
過少月経とは、月経時の出血量が通常よりも少ない状態を指します。一般的に、正常な月経の出血量は20〜140ml程度とされていますが、20ml未満の出血しかない場合を過少月経と定義します。過少月経は、必ずしも深刻な健康上の問題を示すわけではありませんが、ホルモンバランスの乱れや基礎疾患の存在を示唆する可能性があります。特に、不妊症などに関与する子宮腔癒着(アシャーマン症候群)の症状として現れることがあり、注意が必要です。過少月経は、単独で発生することもありますが、無月経(月経が全くない状態)の前段階として現れることもあります。また、閉経期に月経不順に伴ってみられることもあります。
過少月経の原因
過少月経の原因は多岐にわたり、複数の要因が関与しています。器質性原因としては、子宮腔癒着(アシャーマン症候群)があり、これは子宮内膜の癒着により月経血の流出が妨げられる状態です。また、まれではありますが、結核性子宮内膜炎も過少月経を引き起こすことがあります。さらに、子宮発育不全により子宮が十分に発達していない場合も月経量が少なくなる原因となります。機能性原因としては、無排卵周期や黄体機能不全が挙げられます。無排卵周期では排卵が起こらないため、黄体機能不全ではプロゲステロンの分泌不足により、いずれも子宮内膜の発育が不十分となり月経量が減少します。ホルモンバランスの乱れも重要な要因です。エストロゲンやプロゲステロンの分泌不足により、子宮内膜の発育が不十分となり、月経量が減少することがあります。全身疾患も過少月経の原因となることがあり、甲状腺機能異常や血液凝固異常がその例です。甲状腺ホルモンの過剰や不足は月経周期や量に影響を与え、血液凝固異常は出血が止まりやすくなることで月経量を減少させる可能性があります。その他の要因としては、ストレス、極端な体重変動、過度の運動が挙げられます。精神的・身体的ストレスは視床下部-下垂体-卵巣系に影響を与え、ホルモン分泌を乱す可能性があります。急激な減量や過度の痩せ、また激しい運動や長時間の運動は、ホルモンバランスを崩し、月経量の減少につながることがあります。これらの多様な原因が単独で、あるいは複合的に作用して過少月経を引き起こすことがあるため、適切な診断と治療には総合的なアプローチが必要となります。
過少月経の前兆や初期症状について
過少月経の主な症状は、月経量の減少ですが、それに伴い以下のような症状や状態が現れることがあります。
月経量の減少
通常の月経よりも明らかに少ない出血量となります。生理用品の使用量が著しく減少したり、ほとんど出血が見られない日があったりします。
月経期間の短縮
通常の月経期間(3〜7日)よりも短い期間で月経が終わることがあります。
月経周期の不規則化
過少月経に伴い、月経周期が不規則になることがあります。
不妊
過少月経が排卵障害を伴う場合、妊娠が困難になることがあります。特に、子宮腔癒着(アシャーマン症候群)を伴う場合、不妊のリスクが高まります。
月経痛
子宮腔癒着がある場合、月経痛を伴うことがあります。
ホルモンバランスの乱れに関連する症状
- 肌の乾燥
- 体毛の変化
- 気分の変動
- 性欲の低下
- 妊娠分娩歴
- 月経の有無、月経周期、持続期間、月経量、月経痛
- 生活習慣・環境の変化
- 精神的ストレス
- 体重の変動
- 服薬歴
- 既往歴(不妊治療歴、子宮内操作の有無、筋腫摘出、子宮鏡下手術、悪性疾患治療など)
- 子宮のサイズ
- 子宮内膜の状態
- 液体貯留の有無
- 子宮頸管の状況(子宮が年齢相当よりも小さい場合には子宮発育不全を疑います。)
- 黄体形成ホルモン(LH)
- 卵胞刺激ホルモン(FSH)
- エストロゲン
- プロゲステロン
- テストステロン
- プロラクチン
- 甲状腺ホルモン
- 子宮腔癒着(アシャーマン症候群)の治療
子宮鏡下手術による癒着剥離が第一選択です。
術後の再癒着予防のため、IUD装着やホルモン療法を行うことがあります。
最近では、幹細胞療法や子宮内膜の自家移植など、新しい治療法の研究も進められています。 - 子宮内膜発育不全の治療
妊娠を目指す場合は、ゴナドトロピン療法が主な治療法となります。
それ以外の場合は、エストロゲン・プロゲスチン療法やプロゲスチン療法を行います。 - エストロゲン・プロゲスチン療法:子宮内膜を刺激し、適切な月経を誘発するために用いられます。
- 低用量ピル:ホルモンバランスを整え、規則的な月経を促します。
- 排卵誘発剤:クロミフェンやレトロゾールなどを用いて排卵を促し、正常な月経周期の回復を図ります。
- 適切な体重管理:極端な痩せや肥満を避け、適正体重の維持を目指します。
- ストレス管:リラックス法の実践や心理カウンセリングなどでストレスを軽減します。
- 適度な運動:過度の運動を控え、適度な運動を心がけます
- バランスの取れた食事:必要な栄養素を十分に摂取し、ホルモンバランスの改善を図ります。
- 漢方療法:体質改善や症状緩和のために、漢方薬を用いることがあります。
- 心理療法:ストレスや不安が原因となっている場合、認知行動療法などの心理療法が有効なことがあります。
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疲労感や倦怠感
ホルモンバランスの乱れにより、全身の倦怠感を感じることがあります。
骨密度の低下
エストロゲン不足が長期間続くと、骨密度が低下するリスクが高まります。
体重変化
過少月経の原因が極端な体重変動や運動過多である場合、それに伴う体重の変化が見られることがあります。
無月経への移行
過少月経が進行すると、完全に月経が停止する無月経に移行することがあります。
過少月経の検査・診断
過少月経の診断は、主に以下のような手順で行われます。
問診
医師は詳細な問診を行い、以下の情報を確認します。
身体診察
一般的な身体診察に加え、骨盤内診察を行います。子宮や卵巣の大きさ、硬さ、圧痛の有無などを確認します。
超音波検査
経腟超音波検査を行い、以下の点を確認します。
子宮ゾンデ診
子宮腔癒着の有無と部位の検査を行います。
ソノヒステログラフィー
子宮腔に液体を注入して経腟的超音波を用いて子宮腔内病変の描出を行います。子宮腔癒着の診断に有用です。
子宮鏡検査
子宮頸管、子宮内膜の有無、両側卵管口など子宮腔内の状況の把握を行います。子宮腔癒着の部位診断と癒着の程度を判断するために必須です。
子宮卵管造影検査
子宮腔癒着の診断に有用です。子宮内腔に造影剤が広がらず、子宮内腔欠損像として描出されます。
内分泌学的検査
子宮発育不全を疑う過少月経では、以下のホルモン検査を行います。
染色体検査
必要に応じて行います。
過少月経の治療
過少月経の治療は、原因や症状の程度、患者の年齢や妊娠希望の有無などを考慮して決定されます。主な治療法には以下のようなものがあります。
原因疾患の治療
ホルモン療法
生活習慣の改善
その他の治療法
治療の選択にあたっては、患者の年齢、妊娠希望の有無、症状の重症度、原因疾患の種類などを総合的に考慮します。また、治療開始後も定期的な経過観察が必要であり、効果が不十分な場合は治療法の変更や追加を検討します。
過少月経になりやすい人・予防の方法
過少月経になりやすい人や予防法について、様々な要因と対策が考えられます。
過少月経になりやすい人
まず、なりやすい人としては、ホルモンバランスが不安定な時期にある女性が挙げられます。具体的には、思春期の若年女性や更年期前後の中高年女性がこれに該当します。また、極端なダイエットを行っている人や痩せ型の女性も、低体重がホルモンバランスに影響を与える可能性があるため、リスクが高くなります。
激しい運動を日常的に行う女性、例えば長距離ランナーやバレエダンサーなども過少月経になりやすい傾向があります。さらに、ストレスの多い生活を送る人も、精神的ストレスがホルモンバランスに影響を与えるため、注意が必要です。
特定の疾患を持つ人、例えば子宮腔癒着(アシャーマン症候群)、子宮発育不全、甲状腺機能異常、早発閉経などの症状がある人も過少月経のリスクが高くなります。加えて、子宮内操作の既往がある人、具体的には子宮内膜掻爬術、子宮筋腫摘出術、帝王切開術、子宮鏡下手術などを受けた人も注意が必要です。
予防の方法
予防法としては、まず適正体重の維持が重要です。
極端な痩せや肥満を避け、適正体重を保つことでホルモンバランスを整えることができます。また、バランスの取れた食事を心がけ、特に鉄分、ビタミン、ミネラルなどの必要な栄養素を十分に摂取することが大切です。
運動に関しては、過度の運動を避け、適度な運動を心がけることが推奨されます。ストレス管理も重要で、瞑想やヨガなどのリラックス法を実践し、ストレスを軽減することが有効です。
定期的な婦人科検診も欠かせません。早期発見・早期治療のため、定期的に検診を受けることが重要です。子宮内操作を受けた後は、医師の指示に従い適切なケアを行い、必要に応じて術後の癒着予防措置を受けることも大切です。
最後に、全体的な健康管理として、十分な睡眠、禁煙、適度な飲酒など、健康的な生活習慣を心がけることが重要です。過少月経の予防と管理には、これらの日常生活での注意と定期的な健康チェックが欠かせません。また、何か異常を感じた場合は速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
参考文献