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流産
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

流産の概要

流産は妊娠22週未満での胎児死亡を指し、全妊娠の10〜20%に発生します。女性の年齢とともに流産率は上昇し、40歳以上では25%に達するとされています。
一方、死産は法的には妊娠12週以降、医学的には妊娠22週以降の胎児死亡と定義されます。

流産の分類と特徴

初期流産(妊娠12週未満)
流産の大多数を占め、特に妊娠5〜6週での発生が最も多いです。

  • 進行流産
    自然に妊娠組織の排出が始まり、出血や腹痛を伴う状態。
  • 稽留流産
    胎児死亡が確認されるも、症状なく妊娠組織が子宮内に留まる状態。日本では待機的管理か外科的処置が選択肢となります。

後期流産(妊娠12週以降22週未満)
子宮内胎児死亡とも呼ばれ、通常、入院管理下で分娩誘発による処置が行われます。流産に対しては、その状態と時期に応じた適切な対応が求められ、医学的管理とともに心理的サポートが不可欠です。

流産の原因

流産の原因は多岐にわたり、主な要因として以下が挙げられます。

  • 染色体異常
    流産の約50〜60%は胎児の染色体異常によるもので、特に妊娠初期の流産に多く見られます。染色体の異常は受精時に偶発的に発生し、胎児の発育に影響を与えることがよくあります。特に高齢出産では、卵子や精子の質の低下が染色体異常のリスクを高めます。
  • 母体の健康状態
    糖尿病や甲状腺機能低下症、自己免疫疾患などがあると、流産のリスクが増加します。甲状腺ホルモンやインスリンのバランスが妊娠の維持に重要な役割を果たし、これらの疾患が適切に管理されない場合、流産を引き起こす可能性が高まります。
  • 子宮の構造的問題
    子宮筋腫や子宮奇形は、胎児が正常に成長するための環境を妨げることがあり、流産リスクを増加させることがあります。これらの構造的異常は、妊娠中の胎児の成長を阻害することがあります。
  • ホルモンの異常
    妊娠初期には黄体ホルモン(プロゲステロン)が子宮内膜を厚くし、胎児の着床を維持するため、ホルモン不足は流産の原因になります。甲状腺ホルモンの不均衡も同様に、胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性があります。
  • 感染症
    風疹、サイトメガロウイルス、トキソプラズマなどの感染症も、胎児の成長に悪影響を与え、流産を引き起こす要因となります。これらの感染症は、母体から胎児へ移行し、胎盤や胎児に直接影響を及ぼします。
  • 生活習慣と環境要因
    喫煙、アルコール、薬物使用は、胎児の発育に有害であり、流産リスクやその他の異常を引き起こす可能性を大幅に高めます。

流産の前兆や初期症状について

流産の前兆や初期症状は以下の通りです。

  • 腟からの出血
    最も一般的な症状で、少量の出血から重度の出血まで幅があります。軽度の出血でも、異常を感じた場合には医師の診察を受けることをお勧めします。
  • 下腹部痛
    軽度の圧迫感や鈍い痛みから、強い痛みまでさまざまです。出血と併せて下腹部の痛みがある場合、流産の可能性が高いと考えられます。
  • その他の症状
    吐き気や背中の痛み、突然のつわりの消失なども、流産の兆候として現れることがあります。

流産の検査・診断

流産が疑われる場合、以下の検査が一般的に行われます。

超音波検査

胎児の心拍が確認できない、または胎児の発育が停止している場合、流産と診断されます。超音波は流産の診断において最も一般的な方法です。

血液検査

hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)レベルの低下が流産のリスクを示唆します。
しかしながら、hCGの値は個人差が非常に大きいため数値だけで判断することは困難です。hCG値が以前と比べ上昇傾向にない場合は、妊娠の継続可能性が低いことがわかります。

身体検査

出血や子宮の状態を確認することで、流産の進行状況を評価します。

流産の治療

流産が確認された場合、その治療法は状況に応じて異なります。

自然流産

自然に胎児や胎盤が排出されることを待つ場合もあります。この場合、追加の治療が必要ないこともありますが、感染症リスクを避けるために注意深い観察が求められます。
進行流産は、出血および腹痛症状を伴い、妊娠産物が子宮外へ排出される状態を指します。一般的に、顕著な症状の持続期間は1日から数日程度であり、その後、通常の月経量を上回る出血が1~2週間程度継続することが多いとされています。
大量の出血や凝血塊の排出が認められた場合でも、冷静に対応し、適切な衛生用品の交換を行うことが推奨されます。疼痛管理に関しては、鎮痛剤の使用も許容されます。
症状の消退後、経腟超音波検査により子宮内に妊娠産物が確認されず、さらにhCG検査で陰性化が確認された場合、完全流産と診断されます。
一方、子宮内に妊娠産物の遺残が認められる場合は、不全流産と診断されます。不全流産の管理においては、自然排出を期待する保存的管理または外科的介入による除去術のいずれかが選択されます。管理方針の決定には、患者の臨床状態、希望、およびリスク因子を総合的に評価することが重要です。

薬物療法

稽留流産の管理に関しては、諸外国においてはミフェプリストンおよびミソプロストールの内服による薬剤的管理が選択肢として認められています。これらの薬剤は完全流産を促進する効果があるとされています。しかしながら、本邦においてはこの選択肢が承認されていない現状にあります。
そのため、日本国内では主に二つの管理方法が選択されます。一つは「待機的管理」と呼ばれる方法で、自然排出を待機する保存的アプローチです。もう一つは外科的介入による「手術」です。これらの管理方法における感染率については、比較研究において有意差は認められていません。
しかしながら、待機的管理を選択した場合、出血や腹痛による緊急入院率が上昇するという報告も存在します。ただし、この緊急入院率の上昇は、待機的管理に関する十分な患者さんの理解によって、ある程度は予防可能であると考えられています。

手術療法

子宮内容を完全に除去するために、掻爬術(そうは)または吸引などの手術が必要になる場合があります。この方法は、出血や感染のリスクを最小限に抑えるために行われます。
具体的手技に関しては、麻酔導入、子宮頸管拡張、子宮内容除去という一連のプロセスが必要となります。
手術の方法は以下の順序で実施されます。
1.麻酔管理:局所麻酔、全身麻酔、あるいはその併用麻酔下で施行される。
2.子宮頸管拡張:機械的拡張器を用いて実施。
3.子宮内容除去:掻爬または吸引による内容物の摘出。
上記の一連の処置は、麻酔導入から終了まで概ね10~30分程度を要します。
子宮内容除去に関しては、従来は金属性の掻爬器を用いた掻爬法が主流でありましたが、近年ではプラスチック製または金属製の吸引カニューレを使用した吸引法を採用する医療機関が増加傾向にあります。
手術に伴う合併症としては、子宮穿孔、骨盤内感染症、大量出血、再掻爬などが挙げられます。しかしながら、これらの発生頻度は0.4%以下と報告されており、比較的低リスクの処置と考えられています。
妊娠12週以降22週未満に胎児の心拍停止が確認され、子宮内で胎児の死亡が生じた状態を「子宮内胎児死亡」と定義します。この診断がなされた場合、本邦における標準的な管理方針としては、入院管理下での処置が推奨されます。具体的な処置の流れとしては、まず子宮頸管の拡張処置を実施します。これは、後続の処置をより効果的に行うための準備段階となります。次に、経腟的にプロスタグランジン製剤などの腟錠を挿入し、分娩誘発を行います。
この管理方法は、母体の安全性を最優先に考慮しつつ、可能な限り自然な経過を模倣することを目的としています。また、入院管理下で実施することにより、処置中に生じうる合併症に対して迅速な対応が可能となります。

流産になりやすい人・予防の方法

流産になりやすい人

流産のリスクが高まる要因として、以下が挙げられます。

  • 高齢妊娠
    35歳以上の妊婦では、染色体異常による流産リスクが増加します。
  • 慢性疾患
    糖尿病や高血圧、甲状腺疾患、自己免疫疾患などがあると、流産のリスクが増加します。
  • 生活習慣
    喫煙やアルコール摂取、栄養バランスの悪い食生活も流産のリスクを高めます。

予防の方法

  • 生活習慣の改善
    禁煙、禁酒、適度な運動、バランスの取れた食事が推奨されます。また、ストレス管理も重要です。
  • 定期的な検診
    妊娠中は定期的な健康診断を受け、異常があれば早期に対応することが大切です。
  • 感染症対策
    風疹やトキソプラズマなどの感染症を予防するために、妊娠前に予防接種を受けることが推奨されます。


参考文献

  • Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine, “Evaluation and treatment of recurrent pregnancy loss: a committee opinion,” Fertility and Sterility, 2020.
  • Zhang, J., “Risk Factors for Miscarriage: A Comprehensive Review,” The Lancet, 2017.
  • Brosens, I. et al., “Placental Bed Disorders in Early Pregnancy Failure,” Nature Reviews Endocrinology, 2018.
  • Jauniaux, E., et al., “Miscarriage and Fetal Death in Pregnancy,” The New England Journal of Medicine, 2019.
  • Rull, K., et al., “Genetic Causes of Recurrent Pregnancy Loss: A Review,” Human Reproduction Update, 2021.

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