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江崎 聖美

監修医師
江崎 聖美(医師)

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山梨大学卒業。昭和大学藤が丘病院 形成外科、群馬県立小児医療センター 形成外科、聖マリア病院 形成外科、山梨県立中央病院 形成外科などで経歴を積む。現在は昭和大学病院 形成外科に勤務。日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会実施医師。

陥没乳頭の概要

陥没乳頭とは、乳頭が乳輪に陥没している状態を言います。
先天性のものと後天性のものがあります。
幼少時には、乳頭と乳輪はほぼ平面です。
成長に伴い乳頭は突出してきますが、そのまま平面になっているものを扁平乳頭といい、乳頭が乳輪よりも陥没したものは陥没乳頭といいます。
また、乳頭が裂けたように見え、二つの山のようになっているものを裂状乳頭といい、陥没乳頭では裂状乳頭を伴っている場合が多い傾向です。
単なる扁平乳頭では、乳輪の皮が盛り上がって乳頭に被さっていますが、乳腺は十分発育しており、乳頭を手で引き出せば簡単に突出します。
一見陥没乳頭のように見える乳頭を、「仮性陥没乳頭」(潜伏乳頭)といいます。
搾乳器などの強い刺激を加えても突出しない乳頭を「真性陥没乳頭」といいます。

真性陥没乳頭の程度は、以下の3つに分類されます。

軽度

乳頭を指でつまむと簡単に外に出せる状態

中等度

乳頭を指でつまんでも外に出にくい状態

重度

乳頭を指でつまんでも全く外に出せない状態

陥没乳頭自体は病気ではありませんが、程度によっては以下のような問題が起こる可能性があります。

母乳育児

軽度であれば、マッサージをして乳頭を出すことで授乳ができる場合も多いですが、中等度以上になると赤ちゃんがうまく吸えず、授乳が困難になります。
また、乳管が閉塞しやすいために乳腺炎になる可能性も高まります。

衛生面

陥没した部分に汚れが溜まりやすく、炎症や感染を起こしやすくなります。

精神面

乳房、乳頭の形態異常は、特に若い女性にとってコンプレックスや精神的苦痛となる場合が多い傾向があります。

陥没乳頭の原因

先天的なもの

女性の10~20%は陥没乳頭を先天的に持って生まれており、授乳をするまでは無症状なことが多いようです。
母乳を作る乳腺という組織と、母乳が通過する乳管という管の発達のアンバランスさが原因だといわれており、先天性の50%ほどが家族性といわれています。
通常、乳頭は成長につれ自然と突出することから、思春期の頃に陥没したままだと明らかになってきます。

後天的なもの

思春期以降に乳房のたるみ、打撲による脂肪壊死、乳腺炎、突然の体重減少、乳房に対する外科的処置、乳がんなどの原因で陥没乳頭の症状が起こることがあります。

陥没乳頭の前兆や初期症状について

先天性なものは、基本的に良性であり、特に症状がないことが多いようです。
精神的、審美的な問題で手術を希望する場合には、外科手術を受けることもできます。
その場合、形成外科、美容外科に受診し相談することになります。

後天性なものは、乳がん、乳房パジェット病、乳管内乳頭種、乳管腺腫、乳頭部腺腫といった疾患と鑑別することが重要になります。

陥没乳頭に乳房のびらん、紅斑、湿疹、血性乳頭分泌物、乳房にしこりが触れるといった症状がある場合には、上記の疾患の可能性があります。
鑑別のためには乳腺外科への受診、精密検査が必要になります。

また、陥没乳頭は乳輪下膿瘍の原因となり得ます。
乳頭近くの乳管が閉塞してそこに細菌感染が起こり、膿瘍を形成します。
乳輪下に痛みを伴ったしこりから始まることが多い傾向です。
難治性で、膿瘍部の切開排膿を受けても数ヶ月後にまた膿が溜まることが多く、原因となる乳管や膿瘍部を切除する必要があります。
こちらも乳腺外科への受診、手術が必要です。

陥没乳頭の検査・診断

先天的な陥没乳頭の場合は、自覚的、他覚的にわかるものですが、後天的なものは検査により異常がないか確認する必要があります。

乳がんなどの悪性腫瘍による陥没乳頭は、乳管への悪性細胞の浸潤によって起こります。
血性またはさらさらとした乳頭からの分泌物、乳頭びらん、乳房のしこりを伴うことが多いようです。
このようなケースではがんの診断を遅らせる可能性があるため、乳頭の矯正手術は禁忌となります。
乳腺外科を受診し、マンモグラフィ、超音波、乳管内視鏡などの精密検査を受け、悪性な疾患と鑑別することが重要です。

陥没乳頭の治療

保存的療法

仮性陥没乳頭、扁平乳頭、まだ胸の発達段階が若い女性は、保存療法が第一選択になります。
授乳を希望する妊娠中の女性は、妊娠5,6ヶ月程度よりマッサージなどを行うことが効果的な場合があります。

乳頭マッサージ(ホフマン法)

両方の親指で乳輪のあたりを圧迫しながら、乳輪から離れるように引っ張ります。
これを垂直方向、斜め45度の方向にも行います。
乳頭を弱く引っ張り出す方法も有効です。

乳頭吸引法

スポイト、乳頭吸引器などの器具を使い、陰圧をかけることで乳頭を引っ張り出します。

ただし、妊娠8ヶ月から分娩までの乳頭への刺激は、子宮収縮を起こす可能性があるため避けたほうがいいとされています。
妊娠すると乳腺、乳頭も発達し、伸展性が増すため陥没乳頭が引き出されやすくなります。

手術療法

保存的療法で改善されない場合や重度の場合は、手術療法を行います。
乳頭を突出させ形態を良くし、再陥没しないようにすることが主な目的になります。
手術法としては、以下の流れになります。

①短縮している乳管周囲の組織を剥離し乳管を伸ばす

②陥没している乳頭を引き上げる

③乳頭を挙上した状態に固定する

術式は乳頭の状態や重症度によって個別に相談して決定します。
乳頭部を切開し乳管を傷めないように配慮しながら陥没の原因となっている索状物などを除去し、乳頭を引き出した状態で縫合します。

ただし、今後授乳を希望する女性が手術療法を行う場合、以下のことについては慎重に検討する必要があります。

手術を行わない場合

陥没乳頭は乳児にとって乳頭に舌を絡ませることが難しく、乳頭痛や乳頭損傷を起こしやすいです。
また、乳管がつまりやすく乳腺炎を起こしやすい問題があります。

しかし、授乳では正しい授乳姿勢をとることと、乳児へ乳頭を含ませる方法を適切に行うことが最も有益なケアとして実証されています。
乳児が吸うのは乳頭ではなく乳房であるため、乳児が乳房を日々吸うことを繰り返せば、乳頭・乳輪の伸展性は徐々に向上していきます。
乳児が吸うことは、マッサージやスポイトを使用することと比べれば最も有効な方法なのです。

手術を行う場合

重症例では、修正が困難な場合が多く、再陥没の可能性が高いということが問題となります。
再陥没を防ぐために乳頭を引き出し、無理やり乳頭の首を縛ってしまうと、乳頭が壊死してしまうという重大な合併症があります。
また、乳管を切断すれば修正が容易になりますが、授乳機能が消失してしまうということが大きな問題点となります。
乳管を十分に剥離して引き出す方法では授乳機能が温存できますが、重症例では、術後2〜3週間でまたもとに戻ってしまう例もあるようです。
術後は、再陥凹の予防のためにニップルシールド(乳頭保護器)やガーゼ、パッドなどによる保護を行います。
再陥凹の予防の保護を続けていても、傷の感染や元々の陥没の程度によっては元に近い状態に戻ってしまうことがあります。

重症度や授乳希望などを検討し、形成外科医と十分に相談した上で治療方法を決定する必要があります。

陥没乳頭になりやすい人・予防の方法

陥没乳頭自体を予防をすることはできません。
汚れが溜まりやすいため、感染が起こりやすいことを知っておきましょう。

乳がんなどの乳房の疾患から後天的に起こった場合には、乳頭からの分泌物、しこり、痛みなどの異常がないか日々セルフチェックを行います。
気になる症状がある場合は早めに受診し、疾患を鑑別し発見することが重要となります。

参考文献

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