監修医師:
栗原 大智(医師)
眼球突出の概要
眼球突出(がんきゅうとっしゅつ)は、眼窩(がんか)から眼球が異常に前方に突き出た状態を指します。この症状は、さまざまな原因で発生する可能性があり、単独で発生することや、ほかの症状と併発することもあります。原因としては、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)が最も一般的です。この疾患では、甲状腺ホルモンの過剰分泌により、眼窩内の脂肪組織や筋肉が肥大し、眼球が前方に押し出されます。
眼球突出の原因
眼球突出の原因は、さまざまな疾患や状態が関与しています。以下に詳しく解説します。
内分泌疾患
最も一般的な原因は甲状腺機能亢進症(バセドウ病)です。甲状腺ホルモンの過剰分泌により、眼窩内の脂肪組織や外眼筋が肥大し、眼球が押し出されます。
眼窩内腫瘍
良性腫瘍(血管腫、神経鞘腫など)や悪性腫瘍(リンパ腫、転移性腫瘍など)が眼窩内で成長すると、眼球を前方に押し出すことがあります。
炎症性疾患
眼窩筋炎や眼窩偽腫瘍などの炎症性疾患も眼球突出の原因です。
血管異常
頸動静脈瘻や海綿静脈洞瘻などの血管異常で眼窩内の血流が増加し、眼球突出を引き起こします。
外傷
眼窩骨折や顔面外傷により、眼窩の形状が変化したり、眼窩内に出血や空気が貯留して眼球突出が生じます。
先天性異常
頭蓋骨縫合早期癒合症や眼窩形成不全などの先天性異常により、眼窩の形状や大きさに問題があると、眼球突出が見られます。
感染症
眼窩蜂窩織炎や副鼻腔炎の合併症で眼窩内に感染し、腫脹や膿瘍形成により眼球突出が起こります。
眼球突出の前兆や初期症状について
眼球突出の前兆や初期症状は、一般的に以下のような症状が現れます。
目の違和感
わかりやすい症状は、徐々に進行する目の違和感です。眼球が少し押し出されている感覚や、目が重く感じるような不快感を覚えます。
乾燥感や刺激感
眼球が突出すると、まぶたが眼球をカバーできなくなり、目の表面が乾燥します。これにより、乾燥感や刺激感、異物感が生じます。
充血
眼球突出による刺激や、原因となっている疾患(例:甲状腺眼症)による炎症が原因で目が充血します。
涙目
反射的に涙の分泌が増えることで、涙目になることがあります。
光過敏
まぶたが眼球を十分にカバーできず、通常よりまぶしさを感じやすくなります。
まばたきの増加
目の乾燥や刺激を緩和するために、無意識のうちにまばたきの回数が増えます。
複視(物が二重に見える)
軽度の複視が初期症状として現れます。特定の方向を見たときに顕著になる場合があります。
これらの症状が現れた際は眼科を受診しましょう。
眼球突出の検査・診断
眼球突出の原因を特定する検査方法
触診と問診
医師は患者さんの目の外観を観察し、症状や経過について詳しく聞き取ります。
眼球突出度測定
エクソフサルモメーターという器具を使用して、眼球の突出度を定量的に測定します。
眼球運動検査
眼球の動きを各方向で確認し、複視の有無や外眼筋の機能を評価します。
細隙灯顕微鏡検査
角膜や前眼部の状態を詳細に観察し、乾燥や炎症の有無を確認します。
眼圧測定
眼球突出に伴う眼圧上昇の有無を確認します。
視力検査と屈折検査
視力の変化や屈折異常を評価します。
画像診断
- CT(コンピュータ断層撮影)
- MRI(磁気共鳴画像法)
- 超音波検査
血液検査
甲状腺機能検査や炎症マーカー、自己抗体検査を行います。
視野検査
視神経の圧迫による視野異常の有無を確認します。
眼底検査
眼底カメラやOCT(光干渉断層計)を用いて、網膜や視神経乳頭の状態を観察します。
造影検査
必要に応じて、蛍光眼底造影検査や造影CT、造影MRIなどを行います。
眼球突出の診断
①主要な症状がある
- 目に眼球が少し押し出されている感覚や、目が重く感じるような不快感などの違和感がある
- 以前より目が乾燥しやすくなり、瞬きの増加などの変化を感じる
- 以前より目が充血したり、涙目になることが多くなった
- 光を過敏に感じるようになった
②検査所見
最初に眼科医の問診や視診が行われます。症状の有無や現状の状態などを詳細に伝えることが必要です。その内容によって医師による検査の内容が変化します。検査によっては、正確な診断が出なくなるので、可能な限り自身の情報を伝えましょう。
③除外されるもの
- 目のまぶたを上げる筋肉の炎症で、上のまぶたが上がりすぎて眼球が突出しているように見えるときは除外されます。
- 眼窩内の組織が腫れて圧力が高まることで、瞼が腫れる症状も眼球突出ではないため除外されます。
眼球突出の治療
この章では眼球突出の主な治療方法について解説します。
原因疾患の治療
眼球突出の原因となっている基礎疾患の治療です。
甲状腺眼症
抗甲状腺薬や放射性ヨウ素療法などで甲状腺機能を正常化します。
腫瘍
良性腫瘍は摘出手術、悪性腫瘍は手術に加えて放射線療法や化学療法を行います。
炎症性疾患
ステロイド薬や免疫抑制薬を用いて炎症を抑制します。
血管異常
塞栓術や手術的治療を行います。
保存的治療
軽度から中等度の眼球突出に対しては、以下の保存的治療が行われます。
- 人工涙液
- 眼軟膏
- プリズムメガネ
- 頭位挙上
- 冷罨法
ステロイド療法
中等度から重度の炎症を伴う眼球突出の症状に対して使用されます。
- 経口ステロイド
- 静脈内ステロイドパルス療法
- 局所ステロイド注射
放射線療法
甲状腺眼症などの炎症性疾患に対して、眼窩に放射線を照射し、炎症を抑制します。
免疫抑制療法
生物学的製剤(リツキシマブなど)、シクロスポリン、メトトレキサートなど、ステロイドが効果不十分な場合や副作用が強い場合に考慮されます。
手術療法
保存的治療で改善が見られない場合や、重度の眼球突出に対して行われます。
- 眼窩減圧術
- 外眼筋手術
- 眼瞼手術
緊急処置
視神経症や角膜潰瘍などの重篤な合併症がある場合は、高用量ステロイド療法、緊急眼窩減圧術、抗菌薬点眼など、緊急の処置が必要です。
補完療法として禁煙指導を行うこともあります。
眼球突出になりやすい人・予防の方法
眼球突出になりやすい人と予防方法を解説していきます。
眼球突出になりやすい人
- 甲状腺機能異常の人(バセドウ病)
- 喫煙者
- 自己免疫疾患を持つ人
- 外傷の既往がある人
- 慢性的な副鼻腔炎患者
予防の方法
年に一回の眼科定期健診を行うことが大事です。また、喫煙は控えましょう。
関連する病気
- 甲状腺眼症
- 眼窩腫瘍
- 眼窩内出血
参考文献