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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

角膜潰瘍の概要

角膜は黒目に該当する箇所を覆っている透明の膜を指します。角膜潰瘍とはなんらかの原因により角膜の皮が剥がれて溶けてしまう病気です。

角膜は外側から上皮実質内皮の三層に分かれています。中でも実質は三層の中で最も厚く角膜の大半を締めています。角膜潰瘍では上皮が剥げて実質が溶けてくる病気で、原因の菌の種類にもよりますが、多くの場合症状の進行が早いとされています。

角膜には眼球の表面を保護する働きや、水晶体と一緒にピントを調節するカメラのレンズのような働きがあります。眼でものを見る仕組みは、角膜で屈折した光が、眼球後方の網膜に焦点を結ぶことで成り立っています。角膜に障害が起こると視覚に影響を及ぼします。

角膜潰瘍の原因

角膜潰瘍は、感染性非感染性の2種類に分けられます。それぞれの具体的な詳細は以下の通りです。

感染性角膜潰瘍

感染性角膜潰瘍は細菌真菌によるもののほか、単純ヘルペスウィルスなどのウィルスが原因として起こります。感染を引き起こす要因として次のようなものがあります。

  • コンタクトレンズ使用歴
  • 眼の外傷
  • 免疫不全状態

感染性角膜潰瘍の原因で特に多いのがコンタクトレンズの不適切な使用方法です。レンズをつけたまま眠ってしまったり、レンズの消毒が不十分だったりした場合に生じた傷が原因で起こる可能性があります。

ほかにも重度のドライアイや、異物で眼を引っかいたり、異物が入ったままになったりすることでも起こり得ます。また、ビタミンAやタンパク質の不足が原因で角膜潰瘍ができることも少なくありません。

非感染性角膜潰瘍

非感染性角膜潰瘍にはリウマチ多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲーナー肉芽腫症)などの免疫関連疾患や、モーレン角膜潰瘍眼瞼結膜炎などが挙げられます。

非感染性角膜潰瘍は全身の免疫反応が原因として関係しているといわれています。これらの病気により角膜の周辺部で炎症が起こり、上皮が剥がれ実質が徐々に溶けていきます。重症例では角膜に穴が開いてしまう角膜穿孔をきたすケースもあるため、注意が必要です。

角膜潰瘍の前兆や初期症状について

角膜潰瘍は角膜の奥にある実質にまで損傷が及んだ状態です。角膜潰瘍が起こると眼のさまざまな不調がみられます。

角膜潰瘍の前兆や初期症状

角膜潰瘍の初期では、軽い眼の痛み異物感結膜の充血眩しさ涙が出るといった症状がみられます。痛みは病気の進行と共に強くなっていくことが特徴です。また、進行がとても早いケースが多く、病巣が角膜中央に及ぶと、かすみ目や視力低下を感じるようになります。治療せずに放置していると、最悪の場合失明する可能性もあります。

角膜潰瘍の合併症

角膜潰瘍は合併症が伴うこともあります。角膜潰瘍が深くなると、角膜に濁った瘢痕が残ってしまい、視力に影響を及ぼす可能性もあり得ます。

そのほかの合併症として以下が挙げられます。

  • 深部への感染症
  • 角膜穿孔
  • 虹彩脱出
  • 眼内の組織の破壊

角膜潰瘍は、放置すると視力低下や失明に繋がる可能性がある危険な病気です。眼の異常に少しでも気づいたら、早急に眼科を受診することが大切です。

角膜潰瘍の検査・診断

角膜潰瘍は問診やさまざまな検査結果を基に診断を行います。主な検査については以下の通りです。

問診

問診では以下の内容を確認します。

  • 症状がいつから始まりどのような経過をたどっているか(現病歴)
  • 今までかかったことのある病気
  • リウマチなどの膠原病の有無
  • ドライアイ、結膜炎、強膜炎などの眼の病気にかかったことはあるか
  • 点眼薬の使用歴
  • ステロイドの使用歴
  • コンタクトレンズの使用状況など

細隙灯顕微鏡検査

細隙灯顕微鏡検査は眼の病気を診断する上で欠かせない検査です。基本的には診察の都度行われます。細隙灯と呼ばれるスリット状の光を眼に当て、顕微鏡で拡大し眼の病気を調べます。細隙灯顕微鏡検査では以下の状況を確認します。

  • 病巣の範囲
  • 深さ
  • 形状
  • 角膜の厚さ
  • 充血の範囲や程度
  • 膿瘍形成の有無

角膜潰瘍の原因となるモーレン角膜潰瘍や膠原病に関連する周辺部の潰瘍では、黒目と白目の境目となる角膜輪部に沿って、えぐられたような潰瘍が進行することがあります。

血清学的検査

血清学的検査とは主に血清を使って体内に侵入した病原体(抗原)や、病原体を攻撃するために作られたタンパク質(抗体)を検出する検査です。モーレン角膜潰瘍では、診断確定のために採血検査を行い、膠原病の可能性を否定します。

前眼部OCT検査

前眼部OCT検査は赤外光を使用して角膜や虹彩、隅角など前眼部の断層検査を可能にする眼科検査機器です。角膜の形や厚みなどを測定できます。

超音波検査

角膜穿孔例など、角膜移植を控えている場合は超音波検査で後頭部を確認することも重要でしょう。この際、硝子体の出血や網膜剥離の合併の有無を確認します。角膜穿孔により眼圧が低くなっている場合は、脈絡膜剥離の所見がみられることもあります。角膜穿孔例で超音波検査を実施する場合、眼球への過度な圧迫を避けるため、愛護的に実施することが重要です。

角膜潰瘍の治療

感染性の角膜潰瘍であれば、抗生物質の点眼薬での治療が中心となります。重症度に応じて、抗生物質の内服や、点滴での治療が必要になるケースもあります。

モーレン角膜潰瘍や膠原病などの角膜潰瘍の場合、ステロイドの点眼原因となっている病気の治療を行います。また、ステロイドや免疫抑制薬の全身投与を併用します。ただし、これらの治療が長期に渡った場合、肺炎などの感染症、消化器症状、高血圧、糖尿病、腎機能障害、肝機能障害などの合併症を引き起こす恐れがあるため注意が必要です。

薬物治療で改善がみられない場合や、角膜穿孔が起こる恐れがある、もしくは起こった場合は、角膜移植が必要となることもあります。

角膜潰瘍になりやすい人・予防の方法

角膜潰瘍の原因の一つにコンタクトレンズがあります。コンタクトレンズの使用で以下のような使い方をしている場合、注意が必要です。

  • 地面に落ちたコンタクトを洗わずに再度装着する
  • コンタクトの洗浄をほとんどしない
  • 洗浄液の代わりに水道水を使う
  • 2週間で使い捨てのコンタクトを1ヶ月以上使う
  • コンタクトを作って以来、眼科の検査を受けていない

コンタクトレンズの洗浄や使い方を誤ると、菌により感染し角膜潰瘍を引き起こす危険性があります。また、水道水は塩素殺菌されていますが、無菌ではありません。水道水に含まれるアカントアメーバというアメーバの一種が原因で、重症の角膜潰瘍を引き起こす可能性もあります。

コンタクトレンズを適切に使用することは角膜潰瘍を予防する上でとても重要です。併せて眼科で定期検査を受けることも、大切です。アレルギー性結膜炎やドライアイなどの状態を放置し、定期検査での治療を怠ると、角膜に傷ができやすくなります。傷などの外傷は角膜潰瘍を引き起こす可能性を高めます。

コンタクトレンズを安全に使用するためにも、装着時間や取り扱い方法などを正しく守り、眼科で定期検査を受けましょう。


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参考文献

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