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監修医師:
林 良典(医師)
円錐角膜の概要
円錐角膜(えんすいかくまく)は角膜の非炎症性変性疾患で、目の角膜が徐々に薄くなり、眼圧で円錐状に突出するのが特徴です。横から見ると角膜が円錐形に突き出した形に変形するため、この名がつけられました。角膜は前眼部の外側にある組織で、網膜に光を集めるため適度に光を屈折させる働きがあります。しかし角膜が円錐型に変化すると、角膜の光の屈折が不規則になり、不正乱視など視力低下を引き起こします。
円錐角膜は両眼性の疾患で、片方の眼に症状が現れても、最終的には両眼に影響を及ぼすことが多いようです。思春期〜青年期から発病し、徐々に悪化します。一般的には30〜40代で症状が安定すると考えられています。しかし悪化して失明することもあり、角膜移植が必要なことがあります。円錐角膜は、本邦において角膜移植が必要な眼疾患の代表です。悪化するとデスメ膜(角膜の内側にある薄い膜)が破れ、眼内の房水(眼球内を満たす液体)が角膜内に流れ急性水腫などを発症することがあります。
円錐角膜は原因不明の疾患で完治はできません。しかし悪化を抑える「角膜クロスリンキング」という治療法があります。日本では2024年9月現在、保険治療が適用されませんが、悪化を抑える唯一の方法です。
円錐角膜の原因
円錐角膜の原因は全容が解明されていません。仮説では、角膜を構成するコラーゲンの構造異常、タンパク分解酵素の活性異常などが考えられます。
統計的にアトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎を発症する患者さんが少なくない傾向はありますが、これらの症状がなくても発症するケースもあります。
結膜炎などで目をこする習慣があるお子さんは、円錐角膜を起こすリスクがあると考えられています。遺伝性の可能性も示唆され、お子さんが円錐角膜を発症したら、兄弟児にも同様の症状が出ることがあります。しかし現在のところ明確な遺伝子の解明には至らず、遺伝的要因が直接的な原因かは不明です。遺伝性を疑われる症例は約6%です。
思春期から発病することから、性ホルモンの分泌などホルモンバランスの変化も原因の一つと示唆されています。
円錐角膜の前兆や初期症状について
円錐角膜の初期症状は、光がまぶしい、光に過敏になる、ものが二重、ゆがんで見えるなどの症状が起こります。乱視や近視が進むことも特徴です。始めは眼鏡やコンタクトレンズでも矯正できますが、角膜が変形するとやがてコンタクトレンズが角膜に当たって痛い、コンタクトレンズが外れやすいなどの症状が現れます。円錐角膜は進行すると強い不正乱視を起こすため、眼鏡やソフトコンタクトレンズでは矯正できません。「光がまぶしい」「眼鏡で矯正できない乱視」や「コンタクトレンズのトラブルが頻発する」場合は、ただちに眼科を受診しましょう。
症状が進行すると急性水腫を起こし、角膜が濁ることがあります。
円錐角膜は両眼性の疾患です。片方の眼だけに症状が現れても、最終的には両眼に影響することが大半です。両眼性ですが悪化のスピードは左右で異なることがあります。
円錐角膜の検査・診断
円錐角膜は問診、視力検査で疾患を疑います。
細隙灯顕微鏡検査で詳細を確認し、角膜形状解析にて確定診断を行います。
解析装置がない医療機関は、早急に専門性の高い医療施設への紹介が必要です。
問診、視力検査
問診では患者さんの年齢(思春期~青年期は発症リスクが高い)、アトピー性皮膚炎などアレルギー疾患、家族、親族に円錐角膜の患者さんがいるか確認します。目をこする習慣があるか、行動も確認しましょう。
細隙灯顕微鏡検査
細隙灯(さいげきとう)という拡大鏡で患者さんの瞳を観察します。
白内障、緑内障など目の疾患を見つけるために欠かせない検査ですが、円錐角膜疑いを発見することができます。
- 角膜が500mμ以下
- 角膜中央~下方の突出と菲薄化(初期は目視しにくい)
- デスメ膜の皺(Vogt’s striae)
- 角膜上皮下上皮下混濁(apical scar)
- ヘモジデリン沈着(Fleischer’s ring)
これらの特徴があれば、円錐角膜を強く疑います。
角膜形状検査
細隙灯顕微鏡検査では発見できない、微細な異常を発見することができます。自動的に角膜をマップ化し、確定診断を行います。
初期の円錐角膜は目視で発見することが難しいですが、角膜形状検査では判別できます。角膜中央部より、やや下方の角膜のカーブが強い場合は円錐角膜と診断します。
円錐角膜の治療
円錐角膜の根治は現時点ではできません。円錐角膜は「悪化を防ぐ」「視力を矯正する」「角膜移植を受ける」が主な対処法になります。
眼鏡、コンタクトの矯正
軽度のうちは眼鏡やソフトコンタクトレンズでも矯正が可能です。しかし症状が悪化すると角膜の変形が進み、これらでは矯正できません。
中等症の患者さんには、円錐角膜用特殊コンタクトレンズの作成が必要です。特殊コンタクトレンズはハードコンタクトレンズの一種で専門業者が取り扱うため、業者と提携する医療機関で制作を依頼します。
レンズ作成後にフィッティングを行い、装着に違和感があれば再加工して角膜のカーブに合わせます。
これらの治療法では視力の矯正ができますが、円錐角膜の進行を止めることはできません。
角膜クロスリンキング(自由診療)
2024年現在、科学的に証明されている唯一の予防法です。初期症状で行うと視力低下の進行を抑えることができます。リボフラビン(ビタミンB2製剤)を点眼し、長波長紫外線を照射する治療法です。角膜実質の強度を上げ、角膜の突出を予防します。
現時点では円錐角膜の悪化を防ぐ唯一の治療法で、初期円錐角膜の標準治療とする国もあります。
欠点は自由診療のため、費用が高額になることです。
角膜内リング(自由診療)
角膜実質の深層に特殊なリングを手術で埋め込みます。角膜をリングで引っ張ることで、円錐型の角膜が正常な形に近づきます。
裸眼の視力悪化の軽減、左右の視力差の改善、コンタクトレンズの装着感改善などの効果が期待できます。
有水晶体眼内レンズ(自由診療)
眼球の中に柔らかいレンズを埋め込む手術を行います。
眼鏡やコンタクトレンズで視力矯正ができる患者さんに適用される手術で、裸眼視力を大幅に改善します。
角膜移植
ほかの治療法で効果がない、重度の円錐角膜の患者さんは角膜移植が唯一の治療法になります。
円錐角膜移植は定着率が高く、移植の中では予後が良好なことが特徴です。しかし移植後は、生涯にわたって定期的な通院と薬物治療が必要です。移植後も視力が回復せず、コンタクトレンズの装着が必要なケースがあります。
アイバンクを通して、国内のドナーから角膜を供給される場合は保険適用されます。しかし国内ドナーは少ないため長期間待つことになります。海外から輸入した角膜を使用する場合は自由診療になります。
円錐角膜になりやすい人・予防の方法
円錐角膜は思春期~青年期に発症し、徐々に不正乱視が進行します。
統計的には、アトピー性皮膚炎、ダウン症候群、ターナー症候群、クルゾン病、ターナー症候群、エーラス・ダンロス症候群、ルファン症候群などの疾患を有する場合、円錐角膜を併発するリスクが高まります。確率は低いですが、遺伝性を疑われるケースもあります。
一度発症すると徐々に悪化しますが、悪化のスピードには個人差があります。数ヶ月で大きく悪化するケースもあれば、何十年経ってもほとんど進行しないケースもあります。たとえ進行がゆるやかでも、定期的な経過観察が必要であることを患者さんに伝えましょう。
保険治療の範囲内では経過観察、円錐角膜用特殊コンタクトレンズによる矯正と角膜移植しかできません。
自由診療になりますが、円錐角膜の進行を抑える有効な治療法として、角膜クロスリンキングがあります。長期間にわたり症状の悪化を抑える、現在唯一の予防法です。
関連する病気
- アトピー性皮膚炎
- アレルギー性結膜炎
- ダウン症候群
- マルファン症候群
- エーラス・ダンロス症候群
- 骨形成不全症
- 角膜ジストロフィー