監修医師:
五藤 良将(医師)
ミクリッツ病の概要
ミクリッツ病(Mikulicz病)は、口腔内の乾燥や、涙腺・唾液腺などの腫れを主な症状とする病気です。50歳から60歳くらいの方に多く見られ、男性よりも女性に発症者が多いとされています。
ミクリッツ病は、かつては「シェーグレン症候群」の類似疾患と考えられていましたが、現在は独立した疾患概念が確立され、IgG4関連疾患(IgG4-related disease, IgG4-RD)の一部とされています。
ミクリッツ病の初期症状としては、左右両側の頬が腫れてくることや、口腔内の乾燥などが挙げられます。頬が腫れる原因は涙腺や唾液腺が腫れるためであり、痛みは伴わないことが多いとされています。治療をおこなわなければ腫れは数か月以上続き、自然に治癒することは通常ありません。
ミクリッツ病は、適切な治療を受けることで、多くの場合すみやかな症状の改善が期待できます。ただし、唾液腺や涙腺だけでなく、膵臓や甲状腺、腎臓など、他の臓器にも影響が見られるケースがあり、全身状態の確認が必要です。
ミクリッツ病の詳しい発症原因や予防法は確立されていませんが、IgG4関連疾患など他の免疫系疾患との関連も指摘されているため、できるだけ早期発見が望まれる疾患です。
出典:難病情報センター「免疫系疾患分野|ミクリッツ病(平成22年度)」
ミクリッツ病の原因
ミクリッツ病の正確な原因は、解明されていません。
体内に存在する免疫抗体の1つである「IgG4」が増加してしまうことと関連があるとされています。
ミクリッツ病の発症原因については、まだ不明な点が多く、今後の研究による解明が期待されています。
ミクリッツ病の前兆や初期症状について
ミクリッツ病の自覚症状として最初に気づかれやすいのは、顔の腫れです。目の周りや頬の外側が少しずつ腫れてきます。腫れは痛みをともなわないことがほとんどで、左右同じようにあらわれるのが特徴です。治療をおこなわなければ腫れは数か月以上続き、自然に治癒することは通常ありません。
また、唾液腺や涙腺の機能の低下により、食事をしているときに口の中が乾く、涙が出にくいといった症状を訴える患者もいます。
こうした症状は、耳下腺・顎下腺・舌下腺といった腺でも同様にあらわれる可能性があり、耳の下や顎周辺など、顔の別の部位が腫れる例もあります。
さらに、発熱や倦怠感など、さまざまな全身性の症状が出るケースでは、IgG4関連疾患などの併発による他の臓器への影響が疑われます。
ミクリッツ病の検査・診断
ミクリッツ病の診断では、3ヶ月以上続く両頬の腫れなど、当疾患に特徴的な外見上の症状を確認したあと、血液検査、画像検査、生体検査などをおこなって、確定診断をおこないます。
類似する症状を認める場合がある他の疾患(リンパ腫やがんなど)との鑑別も重要です。
血液検査
血液中のIgG4が健康な人に比べて、高い数値かどうかを調べます。
また、他の病気と鑑別するために、白血球数など他の数値も確認します。
画像検査
腫れの状態を詳しく調べるために、CTやMRIによる検査をおこなうこともあります。画像検査は臓器の腫れを調べることもできるため、IgG4関連疾患の併発を疑うようなケースで役立ちます。
生体検査
似ている症状を引き起こす他の病気と鑑別するために、腫れている部分から組織を採取して顕微鏡で調べます。生体検査では、炎症を起こしている細胞の種類や数がわかります。
ミクリッツ病の治療
ミクリッツ病の治療は、ステロイド薬での治療が基本です。ステロイド薬は免疫反応を抑える働きがあり、腫れを改善する効果が高いことが知られています。多くの患者は、治療を始めてから数週間で症状が改善します。腫れが引いてくるだけでなく、涙や唾液の分泌などの腺機能も回復していきます。
症状が良くなってきたら、ゆっくりと薬の量を減らしていきます。ただし、急に薬を減らしたり中止したりすると、症状が再び悪化する可能性があります。そのため、時間をかけて少しずつ量を減らしていき、最終的に症状が安定する量を見つけます。人によって治療効果や必要な期間が異なりますので、担当医とよく相談しながら進めていきます。
ミクリッツ病の影響が他の臓器に及んでいるケースでも、ステロイド薬による治療効果を期待しますが、必要に応じて別の治療法が検討される場合もあります。
ミクリッツ病になりやすい人・予防の方法
ミクリッツ病は、誰にでも起こる可能性がありますが、50歳から60歳くらいの女性に多く見られることが知られています。また、ミクリッツ病の発症原因として、免疫異常やアレルギーが関わっている可能性があるため、花粉症やぜんそくなどのアレルギーがある方、他の自己免疫疾患(体の免疫システムが関係する病気)がある方は、注意が必要だと言えるでしょう。
現時点でミクリッツ病を確実に予防する方法はわかっていません。しかし、早めに気づいて治療を始めることで、症状をコントロールしやすくなるでしょう。
参考文献