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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

褐色細胞腫の概要

褐色細胞腫は、アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコラミンを産生する腫瘍です。
厳密には副腎髄質から発生する腫瘍ですが、副腎以外に発生するものは副腎外褐色細胞腫もしくはパラガングリオーマと呼ばれ、広義には褐色細胞腫に含まれます。

2017年のWHO分類では「パラガングリオーマを含んだ全ての褐色細胞腫は転移の可能性がある悪性腫瘍である」と定義されており、適切な治療と経過観察が求められる病気です。

推定発症平均年齢は40~45歳ですが、幅広い年齢層で発症する可能性があります。
また、発症しやすさに男女差はありません。

正確な有病率は不明ですが、平成21年度に実施された全国疫学調査では、推定患者数は良性2,600例、悪性320例という報告があります。
高血圧の患者さんのうち1%未満が発症していると考えられていますが、最近は症状がなく副腎偶発腫瘍として見つかることも増えています。
副腎偶発腫瘍のうち約10%を占めており、発生頻度は低いとは言えません。

カテコラミン分泌の程度は個人差が大きく、症状も大きく異なるのが特徴です。症状がない場合もあれば、重症心不全などに至ることもあります。
同様に予後も個人差が大きく、発症後数ヵ月~数年で死亡する例から、治療による症状のコントロールを繰り返して10年以上生存する例もある、などさまざまです。

褐色細胞腫の原因

副腎髄質もしくは交感神経節に発生する腫瘍が原因です。

症例の約1/4にRET、VHL、SDHといった遺伝子の胚細胞変異が確認されており、腫瘍化に関わることが示されています。
これらの遺伝子胚細胞変異は遺伝することが確認されていますが、全ての例ではありません。
孤発例の方が多くを占めています。

褐色細胞腫の発症する病気としてMEN2型やvon Hippel Lindau病が昔から知られていますが、最近ではSDH(コハク酸脱水素酵素)サブユニットの変異が家族性パラガングリオーマの原因として報告されています。
その中でも注目されているのは、SDHBと呼ばれる遺伝子変異タイプの悪性度との関連の強さです。

褐色細胞腫の前兆や初期症状について

カテコラミンの作用で多くの症例が高血圧を呈し、褐色細胞腫の患者さんのうちの約65%を占めると考えられています。

高血圧に始まり、多彩な症状が見られます。
具体的には、動悸頻脈胸痛頭痛顔面蒼白発汗不安感便秘耐糖機能異常などです。また、食事、排尿、麻酔、薬物、腫瘍摘出などが誘因となり、予後不良の高血圧クリーゼを起こす可能性もあります。

一方で、血圧を含めて無症候性で偶然見つかる場合も少なくありません。
近年では、褐色細胞腫全例のうちの約25%が偶発的に発見されたものである、という報告もあります。

褐色細胞腫が疑われる場合は内分泌内科で診断・治療が行われます。
実際には最初にかかりつけの内科を受診し、必要な場合は専門の内分泌内科に紹介されるのが一般的です。

褐色細胞腫の検査・診断

褐色細胞腫の検査や診断には、以下のようなものがあります。
血液や尿検査によって褐色細胞腫やパラガングリオーマが疑われた場合、CTやMRIなどの画像診断を行って腫瘍の存在や転移の有無を調べます。
また、病理診断で悪性度や遺伝性か否かを診断し、遺伝子変異を検出するための遺伝子診断なども行われます。

カテコラミン測定

血漿中もしくは尿中のカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)濃度を測定します。褐色細胞腫やパラガングリオーマでは高値となりますが、生理的な変動が大きいため24時間畜尿中カテコラミン濃度測定も有用です。

メタネフリン分画測定

尿中に排泄されるカテコラミンの代謝物(メタネフリン、ノルメタネフリン)を測定します。
スクリーニング検査として有用で、随時尿による高値の場合は24時間畜尿中メタネフリン分画を測定して確定診断とします。

カテコールアミン分泌抑制試験

クロニジンの投与後にカテコールアミンの分泌が抑制されるかどうか調べます。
正常な場合は血中カテコラミン濃度が低下しますが、褐色細胞腫では自律的に分泌されているため変化しないのが特徴です。

CT

褐色細胞腫の有無を描出して大きさや形などを調べます。
褐色細胞腫には脂肪が含まれないのが特徴で、腫瘍内に脂肪の存在がないことを確認出来れば褐色細胞腫の可能性が高くなります。

MRI

CT画像と比較して、腫瘍に含まれている脂肪の有無を高感度で検出できます。特に頭頸部病変やSDH変異例にはMRIが優れていて、感度は85〜90%、特異度は約95% という報告があります。

123I-MIBG シンチグラフィ

神経内分泌腫瘍に特異的な画像診断法です。異常な集積が確認されれば褐色細胞腫の存在が疑われます。
悪性や遺伝性の褐色細胞腫・パラガングリオーマやSDH変異例では検出感度が低下することがあります。

18F-FDG-PET

腫瘍の代謝活動を反映し、褐色細胞腫・パラガングリオーマの診断に有用な検査です。
特に悪性腫瘍やSDH遺伝子変異例では18F-FDGの集積が高いため感度が優れています。
その一方で、褐色脂肪組織への取り込みによる偽陽性に注意が必要です。

病理診断

腫瘍細胞の大小不同や核異型は一般的に悪性度の指標となりますが、程度の違いはあるものの、ほとんどの褐色細胞腫・パラガングリオーマに見られます。
よって、単独では悪性と判断できません。転移の有無やGAPP分類、Ki67陽性率なども参考にして評価されます。

脂肪組織への腫瘍浸潤の有無やリンパ管侵入は、免疫染色などを用いて慎重な評価が必要です。
また、遺伝性のスクリーニングとしてSDHB免疫染色が有用です。

遺伝子解析

RET、VHL、SDHB、SDHD遺伝子変異は高頻度であり、臨床的に有用です。
遺伝子解析は患者さんの意志による判断と適切な遺伝カウンセリング後、質の担保された解析施設での実施が求められます。
また、遺伝子カウンセリングと遺伝子解析は、甲状腺髄様癌と合併する場合を除いて自由診療です。

褐色細胞腫の治療

褐色細胞腫の治療法には、以下のようなものがあります。
また、治療に並行して生涯に渡る経過観察が推奨されています。

手術療法

治療の第一選択は手術療法による切除です。治癒できない悪性褐色細胞腫・パラガングリオーマであっても、原発巣の切除によって生存期間延長が期待できると示唆されており、手術が勧められます。
腫瘍の大きさや悪性度によって開腹、腹腔鏡などの標準術式は変わります。
腫瘍の剥離操作などで起こるカテコラミン放出を防ぐため、腹腔鏡手術は腫瘍径が6cm以下の症例に対して適応とされています。
6cm以下であっても、悪性を疑う所見がある症例、周囲臓器への浸潤・癒着が疑われる症例などでは開腹手術が勧められます。
また、保険適用外ですが、ロボット支援腹腔鏡下手術も行われた例があります。

腫瘍周囲組織に新生血管の増殖を高頻度に伴うため、手術中の出血症が多い傾向にあります。
α遮断薬などによる十分な術前処置と厳重な術中管理は不可欠です。

薬物療法

手術療法を行わない場合、選択的α1遮断薬を第一選択薬として血圧管理と心血管系合併症の予防が行われます。
降圧効果が不十分な場合はCa拮抗薬を併用します。

また、頻脈・頻脈性不整脈、心筋障害、心不全、虚血性心疾患合併例でβ遮断薬を併用しますが、選択的α1遮断薬に先行するβ遮断薬の投与は禁忌です。

褐色細胞腫になりやすい人・予防の方法

家族性の遺伝子異常が確認されているため、血縁者に遺伝子異常を持つ人がいることがわかっている場合は発症リスクが高くなります。

有効な予防法は現在明らかにされていませんが、遺伝的なリスクが高い人は定期的に検査で確認し、時には遺伝子検査を行って早期発見・早期治療につなげることが大切です。

また、一般的ながんの予防に効果的な生活習慣として、禁煙節酒食生活身体活動適正体重の維持感染予防が挙げられます。


関連する病気

  • 多発性内分泌腫瘍症(MEN)
  • 神経線維腫症(Neurofibromatosis)
  • 遺伝性症候群(von Hippel-Lindau病)

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