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思春期早発症
白井 沙良子

監修医師
白井 沙良子(医師)

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小児科医(日本小児科学会専門医)。慶應義塾大学医学部卒業。総合病院にて研修を修了し、現在はクリニックにて、様々な感染症やアレルギー疾患の診療、乳幼児健診、育児相談などを担当。オンライン医療相談、医療記事の執筆・監修、企業向けセミナーなども通じて「エビデンスに基づいた育児情報」を発信している。

思春期早発症の概要

思春期早発症は、通常の年齢よりも早い時期に思春期の変化が始まる病気です。
思春期とは子どもが大人へ成長する過程のなかで、心身が変化し始める時期のことです。
思春期が始まる時期になると、脳の視床下部からゴナドトロピン放出ホルモンがはたらき始め、脳の下垂体に命令して性腺刺激ホルモン(黄体形成ホルモンや卵胞刺激ホルモン)を分泌させます。
性腺刺激ホルモンが分泌されると、精巣や卵巣が命令を受けて性ホルモン(男の子:テストステロン、女の子:エストロゲン)を分泌します。

性ホルモンの分泌量が増えると、男の子・女の子それぞれに特有の心身の変化が生じます。
男の子は精巣の発育や、陰毛やひげの出現、声変わり、女の子は乳房の発達や、陰毛の出現、初経などです。
通常は男の子は12歳ごろ、女の子は10歳ごろから思春期による心身の変化がでてきますが、思春期早発症ではそれよりも2〜3年以上早くみられます。

思春期早発症が起こると3つの問題が起こります。
1つ目は低年齢で体が成熟するため、小柄なまま身長が止まる可能性があります。
一時的に身長が伸びたときに骨の成熟も早急に進行して骨端線が閉鎖するため、大人になっても低身長のままになります。
2つ目は心理的な葛藤です。
女の子の場合は小学校低〜中学年で乳房が発達する、陰毛が生える、月経が始まるなどの症状がでるため、本人が戸惑ったり、周りとの付き合いのなかで違和感を持たれることがあります。
3つ目はまれに脳腫瘍が原因で起きている可能性があることです。
脳腫瘍が潜んでいるケースでは、早めに発見して治療を受けなければ生死に関わります。

思春期早発症の原因

思春期早発症の原因は、視床下部からゴナドトロピン放出ホルモンが正常よりも早く分泌するケースと、副腎や性腺などの病気によって起こるケースにわかれます。

ゴナドトロピン放出ホルモンの早期分泌

多くの思春期早発症は、視床下部からゴナドトロピン放出ホルモンが早い段階で分泌されることで起こります。
これを中枢性思春期早発症といい、脳の病気によるもの(器質性)と原因不明のもの(特発性)にわかれます。
特発性中枢性思春期早発症は、女の子に多いことがわかっています。

副腎や性腺などの病気

思春期早発症は、副腎腫瘍や精巣腫瘍、卵巣腫瘍、先天性副腎皮質過形成症などが原因で、性ホルモンが早期に分泌されて起こることもあります。
性ホルモンは副腎からも生成されるため、腫瘍などによって副腎や精巣、卵巣が刺激を受けると性ホルモンが分泌されやすくなるからです。
この症状を末梢性思春期早発症ともいい、黄体形成ホルモンや卵胞刺激ホルモンが分泌される所見は認められません。

思春期早発症の前兆や初期症状について

思春期早発症の初期症状として、男の子の場合は9歳までに精巣が発育する、女の子の場合は7歳6ヶ月までに乳房がふくらんでくることがあります。

思春期早発症の検査・診断

思春期早発症は、男の子と女の子で以下の症状がでているか確かめます。

  • 男の子
  • ①9歳までに精巣(睾丸)の大きさが4mL以上になる
    ②10歳までに陰毛が生える
    ③11歳までにわき毛やひげが生えたり、声変わりが起こる

  • 女の子
  • ①7歳6ヶ月までに乳房がふくらんでくる
    ②8歳までにわき毛や陰毛が生える
    ③10歳6ヶ月までに生理が始まる

これらの症状が2つ以上存在する、もしくは1つしか該当しなくても、年齢に適していない身長の大幅な伸びや、骨成熟の明らかな進行などがある場合に診断されます。 
それに加え、ホルモン値や腫瘍の有無などを調べて、中枢性思春期早発症と末梢性思春期早発症を区別します。

ホルモン値の測定

黄体形成ホルモンや卵胞刺激ホルモン、テストステロン(男の子)、エストロゲン(女の子)のホルモン値を血液検査で調べます。
中枢性思春期早発症と末梢性思春期早発症では、テストステロンやとエストロゲンの値がどちらも基準値より亢進しますが、末梢性思春期早発症では黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンの値は亢進しません。

画像検査

頭部や腹部に対し、超音波検査やMRI画像診断を使用して、脳や副腎、精巣、卵巣の腫瘍がないか調べます。
手や手首の骨端線をX線検査で確認して、骨の成熟を見ることもあります。

思春期早発症の治療

思春期早発症の治療では、大人になったときの低身長を避ける、本人が精神的苦痛を受けないことを目的に、思春期の進行を抑えます。
原因に応じて、黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンの分泌抑制や病気に対する治療をおこないます。

特発性中枢性思春期早発症

特発性中枢性思春期早発症では、LH-RHアナログという薬を4週に1回注射して、黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンの分泌を抑制し、性ホルモンの分泌を抑えます。
性ホルモンの分泌が抑えられることで、思春期の進行を緩徐にする効果があります。

LH-RHアナログは、副作用として1回目の注射後の5日目〜14日目に月経のような出血が認められることがあります。
治療が終わるまで投与のために月1回通院する必要がありますが、生活上で気をつけることはありません。

器質性中枢性思春期早発症

脳腫瘍が原因で起きている場合は、手術によって腫瘍を摘出します。
腫瘍の摘出が難しいケースでは、放射線治療や化学療法で腫瘍を小さくすることもあります。
脳炎の後遺症や水頭症、過誤腫(かごしゅ)の場合は、腫瘍によって脳が過度に圧迫されていなければ、手術よりLH-RHアナログによる薬物療法を優先します。

末梢性思春期早発症

副腎腫瘍や精巣腫瘍、卵巣腫瘍が原因の場合は、手術によって腫瘍を摘出します。
先天性副腎皮質過形成症の起きているケースでは、副腎皮質ホルモン治療をおこなうこともあります。

思春期早発症になりやすい人・予防の方法

思春期早発症になりやすい人や予防の方法はわかっていません。
しかし、早期発見と治療を心がけて、将来の発育に影響させないことが重要なので、症状が見られた場合ははやめに医療機関を受診するようにしてください。


関連する病気

  • 中枢性思春期早発症
  • 末梢性思春期早発症
  • 特発性中枢性思春期早発症
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  • 副腎腫瘍
  • 脳炎
  • 水頭症
  • 先天性副腎皮質過形成症

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