監修歯科医師:
木下 裕貴(歯科医師)
外歯瘻の概要
外歯瘻(がいしろう)は、細菌の感染により歯に生じた炎症が顔の皮膚にまで広がり、皮膚に小さな穴(瘻孔)ができる病気です。穴からは膿や血液が混ざった液体が出てくることもあります。膿が顔の皮膚ではなく、口の中の粘膜や歯ぐきに出る場合は「内歯瘻」や「歯肉瘻」と呼ばれます。
外歯瘻は主に、長期間放置されたむし歯や歯周病から発症します。むし歯や歯周病によって細菌が歯の根本に感染し、炎症が徐々に広がって、最終的に顔の皮膚まで到達するのが特徴です。
多くの患者は最初、顔の皮膚の吹き出物のような症状に気づき、皮膚科や形成外科などを受診しますが、歯の感染症が原因であるため、本来は歯科の受診が必要です。
外歯瘻は放置すると、より重度の感染症に発展する可能性があり、皮膚に残る穴の跡によって見た目の問題が生じることもあるため、早めの治療が推奨されます。
外歯瘻の原因
外歯瘻の主な原因は、むし歯や歯周病などの歯性感染症です。むし歯や歯周病が進行すると、細菌が歯髄(歯の内側にある神経)に感染し、歯髄炎を引き起こします。さらに進行すると歯髄が壊死し、感染が歯の根の先端まで達して「根尖性歯周炎」が起こります。
根尖性歯周炎によって形成された膿瘍が、皮膚に向かって瘻孔をつくることで外歯瘻が発症します。発生部位としては、下の歯(下顎歯)が多いとされています。
外歯瘻の前兆や初期症状について
最初は顔の一部(主に頬や鼻の周り、顎の下など)が腫れて、押すと痛みを感じるようになります。初期段階では多くの場合、原因が歯にあると気付きにくく、必ずしも歯の痛みを伴わないことが特徴です。
腫れた部分は次第に硬くなり、やがて皮膚の表面が赤くなってきます。さらに、腫れた部分では膿がたまり、自然に破裂したり切開したりすることで、皮膚に小さな穴ができます。穴からは膿や血液が混ざった液体が出てきます。
膿が出ることで一時的に痛みは和らぎますが、原因となる歯の治療をしないまま放置すると、穴からの膿の排出が何度も繰り返されます。長期間症状が続くうちに、皮膚の一部が硬くなったり、周囲の組織に炎症が広がったりすることもあります。
また、皮膚の穴が外部と通じているため、新たな細菌が入り込んで感染が悪化するリスクがあります。そのため、症状に気づいたら早めに治療を始めることが重要です。
外歯瘻の検査・診断
外歯瘻はいくつかの検査を組み合わせて行い、検査結果を総合的に判断して診断します。
問診と視診
顔の腫れや痛みがいつから始まったか、歯の治療歴や外傷はあるか、以前に同じような症状があったかなどを確認します。顔の皮膚も観察し、腫れや発赤の状態、瘻孔の有無を調べます。
口腔内検査
歯ぐきの腫れや発赤、歯のぐらつき、打診痛などがないかを調べます。穴の近くの歯ぐきを触ったときに硬い管状のものが確認できた場合、膿が通る細い管「瘻管(ろうかん)」である可能性が高く、原因となる歯を特定する判断材料となります。
画像検査
レントゲンやCT、MRIなどの検査を行います。画像検査によって、歯の根の周りの骨に円形の影(骨の溶けた部分)を確認できることがあります。また、穴に細い棒や造影剤を入れてレントゲンを撮ると、瘻管の走行がわかり、原因となる歯の特定につながります。
血液検査
血液検査では、白血球数や炎症反応を調べることで、炎症の程度や全身への影響を確認します。外歯瘻の場合、これらの値は正常範囲内のことも多いですが、重症化すると高くなることがあります。
細菌培養検査
穴から出てくる膿を採取して培養検査を行うことで、感染に関わっている細菌の種類を調べます。抗菌薬による治療を行う際の参考になります。
外歯瘻の治療
外歯瘻の治療では原因となっている歯の根尖性歯周炎の治療が必要です。必要に応じて、抗菌薬による治療や皮膚の残った穴の治療も行います。
根尖性歯周炎の治療
原因となっている歯の根尖性歯周炎の治療を行い、感染源を取り除きます。症状が重い場合や歯を残すことが難しい場合には抜歯を行うこともあります。また、歯の根の先端を外科的に切除する場合もあります。
抗菌薬治療
炎症が強く、発熱や強い痛みなどが出ている場合は、抗菌薬を使用することがあります。
瘻孔の処置
皮膚の穴が目立つ場合やなかなか治らない場合は、形成外科での処置が必要になることもあります。基本的に皮膚にできた穴は、原因の歯を治療すれば、多くの場合自然に閉じていきます。
外歯瘻になりやすい人・予防の方法
外歯瘻は重症のむし歯や歯周病から発症する病気です。そのため、正しい歯磨きの習慣がない方や定期的に歯科検診を受けていない方は注意が必要です。
また、過去に重度のむし歯や歯周病の治療を受けたことがある方もリスクが高くなります。さらに、糖尿病などの全身疾患がある方は、歯性感染症が生じやすく、重症化しやすい傾向があります。
外歯瘻を予防するためには、毎日の丁寧な歯磨きと定期的な歯科検診が欠かせません。歯に痛みや違和感を感じた場合は、すぐに歯科を受診しましょう。また、過去に神経を治療した歯がある場合は、定期的な経過観察を続けることをおすすめします。
顔や顎の下に原因不明の腫れや穴ができた場合は、外歯瘻が起きている可能性があります。異変に気づいたらできるだけ早めに歯科を受診し、適切な治療を受けるようにしてください。