監修医師:
伊藤 規絵(医師)
口角炎の概要
口角炎は、口唇の両端(口角)に生じる炎症性の病変で、発赤、腫れ、亀裂、びらん、潰瘍などの症状が見られます。
口角炎の原因は多岐にわたり、物理的刺激、栄養不足、感染症、アレルギー、免疫力の低下などが関与します。物理的刺激としては、乾燥や唇を舐める癖、義歯の不適合などが挙げられます。栄養不足では、特にビタミンB2やB6の欠乏が口角炎を引き起こしやすくなります。感染症では、細菌(特にカンジダ菌)やウイルス(ヘルペスウイルス)が原因となることが多いようです。
治療には、保湿剤やステロイド外用薬、抗菌薬や抗真菌薬の使用が一般的です。また、ビタミン補充や生活習慣の改善も重要です。
予防には、唇の保湿、ビタミンの適切な摂取、唇を舐める癖の改善、免疫力の維持が推奨されます。
口角炎の原因
唇の両端(口角)に生じる炎症性の病変で、さまざまな原因によって引き起こされます。以下に主要な原因を挙げます。
1)物理的・環境的要因
乾燥や機械的刺激によって引き起こされることが多いようです。冬季の乾燥した気候や、唇を繰り返し舐める癖、よだれ(流涎)などが原因で口角が乾燥しやすくなります。また、義歯の不適合や歯の噛み合わせの異常が口角に物理的な刺激を与え、炎症を引き起こすことがあります。
2)栄養不足
ビタミンB群、特にB2(リボフラビン)やB6(ピリドキシン)の不足も口角炎の一因となります。これらのビタミンは皮膚や粘膜の健康を維持するために必要で、不足すると皮膚が乾燥しやすくなります。
3)感染症
細菌感染や真菌(カンジダ菌)感染、ウイルス(ヘルペスウイルス)感染も口角炎の原因となります。特に、カンジダ菌による感染は口角が湿潤している場合に多く見られます。
4)その他の要因
アレルギー反応や免疫力の低下も口角炎の発症に寄与します。リップクリームや口紅などの化粧品によるアレルギー反応が口角炎を引き起こすことがあります。また、過度のストレスや疲労、睡眠不足などが免疫力を低下させ、口角炎を引き起こしやすくします。さらに、糖尿病や鉄欠乏性貧血などの全身性疾患が口角炎の原因となることもあります。
口角炎の前兆や初期症状について
口角炎の初期段階では、口角部に軽度の発赤や腫れが見られます。この段階では痛みやかゆみはほとんど感じられないことが多いようですが、口角の周囲に違和感を覚えることがあります。唇や口角が乾燥し始めると、皮膚が引っ張られて亀裂が生じることがあります。これにより、口を開け閉めする際に痛みを伴うことがあります。口角炎は唇を舐める癖や外気の乾燥によって悪化することが多いようです。
口角炎の病院探し
皮膚科や耳鼻咽喉科、一般内科の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。
口角炎の経過
初期症状から進行するにつれて変化します。初期には口角部に軽度の発赤や腫れが見られますが、口角の亀裂が進行すると、痛みが強くなり、びらん(浅い潰瘍)が形成されることがあります。これにより、食事や会話が困難になることがあります。亀裂やびらんが進行すると、出血が起こり、かさぶた(痂皮)が形成されることがあります。この痂皮は剥がれやすく、再度出血を繰り返すことがあります。適切な治療が行われない場合、慢性化しやすく、症状が長引くことがあります。
口角炎の検査・診断
主に臨床所見と患者さんの症状に基づいて行われます。以下のプロセスで診断を進めます。
1.病歴の聴取
口角炎の原因特定のため、患者さんの生活習慣、栄養状態、既往歴、服用中の薬剤などについて情報を収集します。特に、ビタミンB群の摂取状況や唇を舐める癖の有無などに注目します。
2.問診と視診
口角の状態を注意深く観察し、発赤、腫脹、亀裂、びらん、痂皮の有無などを確認します。同時に、患者さんの症状(痛み、かゆみ、乾燥感など)や発症時期、持続期間、悪化・改善要因について詳細な問診を行います。
3.微生物学的検査
感染性の口角炎が疑われる場合、口角部位から綿棒で検体を採取し、細菌培養検査や真菌検査を行います。特にカンジダ菌の検出は重要で、水酸化カリウム(KOH)溶液を用いて直接鏡検や培養検査が実施されます。
4.パッチテスト
アレルギー性の口角炎が疑われる場合、使用している化粧品や口紅などのアレルゲン検査としてパッチテストを行うことがあります。
5.血液検査
栄養状態の評価や全身疾患の有無を確認するため、必要に応じて血液検査を実施します。特にビタミンB2、B6、鉄、亜鉛などの栄養素の血中濃度測定が有用です
鑑別診断
類似した症状を呈する疾患との区別が重要です。
主な鑑別対象として、口唇ヘルペス、アフタ性口内炎、カンジダ性口内炎が挙げられます。
口唇ヘルペスは水疱形成が特徴的で、ウイルス検査が有用です。アフタ性口内炎は円形の浅い潰瘍を形成し、主に口腔粘膜に生じます。
カンジダ性口内炎は白色の偽膜を伴うことが多く、真菌検査で診断できます。
また、アレルギー性接触皮膚炎や薬疹なども考慮する必要があります。
適切な鑑別診断のためには、詳細な病歴聴取、視診、必要に応じて微生物学的検査やアレルギー検査を行うことが重要です。
口角炎の治療
口角炎の治療は原因に応じた多面的なアプローチが必要です。
保湿、抗炎症、抗菌・抗真菌治療、ビタミン補充、生活習慣の改善、アレルギー対策、内科的疾患の治療などが組み合わされます。
適切な診断と治療により、症状の改善が期待できます。
1.保湿と保護
初期段階では、口角部の乾燥を防ぐために保湿剤(例:ワセリン)を頻繁に塗布します。
これにより、外部刺激から皮膚を保護し、亀裂の進行を防ぎます。
2.抗炎症治療
炎症が強い場合、弱いステロイド外用薬(例:ヒドロコルチゾン)を使用して炎症を抑えます。
ステロイド外用薬は短期間の使用が推奨され、長期使用は避けるべきです。
3.抗菌・抗真菌治療
細菌感染や真菌感染が疑われる場合、抗菌薬や抗真菌薬の外用または内服が行われます。
例えば、カンジダ菌感染には抗真菌薬が使用されます。
4.ビタミン補充
特にビタミンB2やB6の欠乏が原因とされる場合、これらのビタミンを補充することが重要です。
ビタミンB群は皮膚や粘膜の健康維持に不可欠であり、サプリメントや食事からの摂取が推奨されます。
5.生活習慣の改善
口角炎の予防と治療には、生活習慣の見直しも重要です。唇を舐める癖をやめる、バランスの取れた食事を摂る、十分な睡眠を確保するなどが推奨されます。
6.アレルギー対策
アレルギーが原因の場合、アレルゲンの特定と回避が必要です。
リップクリームや口紅などの化粧品が原因となることがあるため、パッチテストを行い、原因物質を避けることが重要です。
7.内科的疾患の治療
糖尿病や鉄欠乏性貧血などの全身性疾患が口角炎の原因となることがあるため、これらの疾患の治療も同時に行います。
内科的疾患の管理が口角炎の改善に寄与することがあります。
口角炎になりやすい人・予防の方法
口角炎は、特定の条件や習慣を持つ人に発生しやすいようです。
特に、乾燥した環境にいる人、唇を頻繁に舐める癖がある人、ビタミンB2やB6の不足がある人、免疫力が低下している人、糖尿病や鉄欠乏性貧血などの全身性疾患を持つ人にリスクが高いようです。
口角炎の予防には、保湿(リップバームやリップクリームを使用して唇を保湿し、乾燥を防ぐ)やビタミン(ビタミンB2やB6を含む食品〜ヨーグルト、牛乳、レバーなど)を積極的に摂取する、唇を舐める癖の改善(唇を舐める癖をやめ、唇を保護する製品を使用する)、免疫力の維持(十分な睡眠を取り、ストレスを軽減することで免疫力を高める)などが挙げられます。