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ANCA関連血管炎
副島 裕太郎

監修医師
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)

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2011年佐賀大学医学部医学科卒業。2021年横浜市立大学大学院医学研究科修了。リウマチ・膠原病および感染症の診療・研究に従事している。日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医・評議員、日本リウマチ財団 リウマチ登録医、日本アレルギー学会 アレルギー専門医、日本母性内科学会 母性内科診療プロバイダー、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医、日本温泉気候物理医学会 温泉療法医、博士(医学)。

ANCA関連血管炎の概要

ANCA関連血管炎は、血管の炎症を引き起こす病気です。主に、体のさまざまな臓器にある小さい血管や中くらいの大きさの血管が影響を受けます。ANCA関連血管炎には、顕微鏡的多発血管炎(MPA)多発血管炎性肉芽腫症(GPA)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の3つのタイプがあります。

ANCA関連血管炎の原因

ANCA関連血管炎の原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、免疫システムが自分の体の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患の一種だと考えられています。ANCA関連血管炎を発症するリスクを高めると考えられている要因としては、以下のようなものがあります。

遺伝的要因
特定の遺伝子を持っている人は、ANCA関連血管炎を発症するリスクが高くなることがあります。最も確立した遺伝素因はヒト白血球抗原(HLA)遺伝子です。ゲノムワイド関連解析(GWAS)でもHLA領域に最も強い関連が検出されており、日本におけるMPAの疾患感受性アリルはHLA-DRB1*09:01です。
環境要因
結晶性シリカへの曝露は、ANCA関連血管炎のリスクを高めると考えられています。
感染症
特定の細菌感染症、特に黄色ブドウ球菌の鼻腔内保菌は、GPAの再発リスクを高める可能性があります。
薬剤
プロピルチオウラシル(抗甲状腺薬)、ヒドララジン(降圧薬)、ミノサイクリン(抗菌薬)、レバミゾール(抗寄生虫薬)で汚染されたコカインなどの薬剤の使用は、ANCA関連血管炎を引き起こす可能性があります。

ANCA関連血管炎の前兆や初期症状について

ANCA関連血管炎の症状は、どの血管が炎症を起こしているか、またどの臓器が影響を受けているかによって大きく異なります。一般的な初期症状としては、発熱、疲労感、体重減少、食欲不振などの全身症状があります。また、関節痛や筋肉痛もよく見られます。 その他、ANCA関連血管炎でよく見られる症状としては、以下のようなものがあります。

耳や鼻・副鼻腔の症状
耳の痛み、耳の聞こえづらさ、鼻づまり、鼻水、鼻出血、鞍鼻(鼻の軟骨が病気が原因で破壊されて鼻筋が凹むような状態)、嗅覚障害など
肺の症状
咳、息切れ、血痰など
腎臓の症状
血尿、顔や手足のむくみなど
皮膚の症状
紫斑(皮膚に紫色の点々ができる)、潰瘍(皮膚がえぐれる)など
神経の症状
しびれる、手足の感覚が変、力が入りにくいなど
眼の症状
ものの見えにくさ、眼が痛む、眼が赤い、複視(ものが二重に見える)など

これらの症状はほかの病気でも起こる可能性があります。ANCA関連血管炎は、比較的稀な病気であるため、これらの症状が出たからといって、必ずしもANCA関連血管炎であるとは限りません。しかし、これらの症状が続く場合や、悪化する場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。ANCA関連血管炎の症状は多岐にわたるため、最初にどの診療科を受診すればよいか迷うかもしれません。まずは、かかりつけ医または内科を受診しましょう。診察・検査結果に応じて、リウマチ膠原病内科、腎臓内科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、脳神経内科、眼科などの専門医を紹介してもらうことがあります。

ANCA関連血管炎の検査・診断

ANCA関連血管炎の診断には、以下の検査が行われます。

血液検査

ANCA(抗好中球細胞質抗体)
ANCA関連血管炎の診断に重要な検査で、以下の2種類があります

  • PR3-ANCA
  • MPO-ANCA

炎症反応
CRP、赤沈などの項目は全身の炎症を反映します

腎機能
腎臓の機能が低下すると「クレアチニン」という血液検査の数値が上昇します、これが急激に上昇している場合は注意が必要です
好酸球
EGPAでは「好酸球」というアレルギーに関係した白血球が非常に増えることが多いです
尿検査
血尿や蛋白尿がないか、細胞性円柱と呼ばれる成分がないかを確認します

画像検査

レントゲン検査やCT検査
肺病変や副鼻腔炎の有無や詳細を確認します。
MRI検査
脳神経に異常を疑う場合には脳のMRIを撮影することもあります

生検

確定診断のために、障害が起こっていそうな臓器の組織を採取して、顕微鏡で観察します。

ANCA関連血管炎の治療

治療の目標は、病気の活動を抑え、寛解状態を維持することです。治療には、主に以下の薬剤が用いられます。

ステロイド(グルココルチコイド)

炎症や炎症や免疫の異常を抑える薬剤です。
治療の初期に多い量を使用して病気を抑え込み、その後減量していくような使い方をすることが多いです。

免疫抑制薬

これも免疫システムの働きを抑え、炎症を抑える効果があります。
ステロイドを減量するために、これらの薬剤を併用することが多いです。ANCA関連血管炎では、以下の薬剤を使用することが多いです。

  • シクロホスファミド
  • アザチオプリン
  • メトトレキサート
  • ミコフェノール酸モフェチル

生物学的製剤

特定の免疫反応を抑制する薬剤です。ANCA関連血管炎では、「リツキシマブ」という薬剤を使うことが多いです。
これはB細胞というANCA関連血管炎の病態の中心となっている免疫細胞に働く薬剤です。

選択的C5a受容体拮抗薬

最近ANCA関連血管炎に使用できるようになった「アバコパン」という新薬があります。これはANCA関連血管炎の病態に関係している免疫物質である補体(C5a)が白血球にくっつく部分(C5a受容体)を抑えることで、ANCA関連血管炎の症状を改善する薬剤です。

血漿交換療法

血液中からANCAなどの原因物質を取り除く治療法です。肺胞出血(肺から血が出て呼吸の状態が悪くなる)や急速進行性糸球体腎炎(腎臓に炎症が起こりその機能がどんどん低下する)といった重症例で行うことがあります。

透析療法

ANCA関連血管炎の影響で腎臓の機能が低下した場合は、透析を行うこともあります。

ANCA関連血管炎になりやすい人・予防の方法

ANCA関連血管炎はどの年齢でも発症する可能性がありますが、高齢者にも多い病気です。MPAは50-70代、GPAは男性30-60代/女性50-60代、EGPAは40-70代に多いといわれています。ANCA関連血管炎の予防法は確立されていません。しかし、ANCA関連血管炎のリスクを高めると考えられている要因を避けるように心がけることが重要です。
原因となる物質への暴露を避ける
結晶性シリカへの曝職を避ける

薬剤が原因になりそうな薬剤を避けるコカインはANCA関連血管炎を引き起こす可能性があります。
感染症予防
細菌やウイルスの感染がANCA関連血管炎発症のきっかけになることもあるので注意が必要です。

ANCA関連血管炎は、国の指定難病に指定されているように、原因不明で治療が難しく、長期経過をたどる病気です。しかし、医学の進歩により、早期に発見し、適切な治療を受けることで、多くの人が寛解状態(病気による影響がほとんどない状態)を維持し、日常生活を送ることができるようになっています。ANCA関連血管炎は、患者さん本人だけでなく、そのご家族にとっても大きな負担となる病気です。信頼できる医師とよく相談し、適切な治療法を選択していくことが大切です。


関連する病気

  • 全身性エリテマトーデス(SLE)
  • 顕微鏡的多発血管炎(MPA)
  • 多発血管炎性肉芽腫症(グランロマトーシス)
  • 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA
  • チャーグ・ストラウス症候群)
  • 抗リン脂質抗体症候群(APS)

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