監修医師:
林 良典(医師)
血管肉腫の概要
血管肉腫は、稀な悪性腫瘍であり、血管の内側を覆う血管内皮細胞から発生します。血管肉腫は特に皮膚や軟部組織に発生することが多く、進行が早いのが特徴です。顔面や頭部など、外部からの紫外線や放射線の影響を受けやすい部位に発症しやすいことが知られています。特に高齢者に多く見られ、ほかの組織や臓器に転移しやすいことから、早期の診断と治療が重要です。血管肉腫は診断が難しく、発見時には進行している場合が多いことから、予後不良なケースが少なくありません。そのため、血管肉腫に関する正しい知識を持ち、早期発見と適切な治療を行うことが重要です。
血管肉腫の原因
血管肉腫の正確な原因はまだ解明されていませんが、いくつかのリスク要因が知られています。
放射線治療の既往
がん治療のために放射線療法を受けた部位に血管肉腫が発生することがあります。特に乳がんやリンパ腫の放射線治療を受けた後、数年から数十年後に発症することが報告されています。
リンパ浮腫
手術や放射線治療の影響でリンパ液の流れが障害され、リンパ浮腫が生じた場合、その部位に血管肉腫が発生するリスクが高まることがあります。特に、乳がん手術後に腕にリンパ浮腫が生じた場合、その腕に血管肉腫が発症することが知られています。
皮膚の慢性的な炎症や外傷
これらの部分に血管肉腫が発生するリスクが高まる可能性があります。
そのほかの発症危険因子として、高齢男性、紫外線曝露、腎移植後やHIV感染などの免疫抑制、遺伝性疾患(神経線維腫症1型、Maffucci症候群、色素性乾皮症)などが知られています。
血管肉腫の前兆や初期症状について
血管肉腫の初期症状は、ほかの皮膚疾患と似ていることが多く、見逃されやすい特徴があります。
赤紫色の皮膚変色
血管肉腫の初期段階では、皮膚に境界不明瞭な紅斑や出血斑、紫斑が現れます。これは打撲によるあざと間違われることがあり、初期のうちに病院を受診しないケースが少なくありません。リンパ浮腫に続発する血管肉腫では出血を伴う結節やしこりとして出現することがあります。
痛みやかゆみがないことが多い
血管肉腫は、初期には痛みやかゆみが伴わないことが多く、このため発見が遅れることがあります。
腫瘍の急速な拡大
しこりや斑点が急速に大きくなる場合は、血管肉腫の可能性を疑う必要があります。腫瘍が大きくなると、表面が破れて出血や潰瘍が生じることもあります。
血管肉腫の疑いがある場合、まずは皮膚科を受診することが推奨されます。特に皮膚の色調変化やしこりに気づいた際は、早めに皮膚の専門の医師の診察を受けることが重要です。
血管肉腫の検査・診断
血管肉腫の診断は、複数の検査を組み合わせて行われます。
視診・触診
まず、皮膚科医が患部を視診し、腫瘍の大きさや広がりを確認するために、必要に応じて触診を行います。
生検
腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で組織を詳しく調べる生検が行われます。これにより、腫瘍が悪性かどうかを確認し、最終的な診断が下されます。
画像診断
CTやMRI、PETスキャンなどの画像検査を用いて、腫瘍の大きさやほかの部位への転移の有無を確認します。特に内臓に発生した血管肉腫では、これらの画像診断が重要です。
血液検査
血液検査によって、体内の炎症状態や腫瘍マーカーの値を確認することもありますが、血管肉腫に特有の腫瘍マーカーは存在しないため、補助的な検査です。
血管肉腫の治療
血管肉腫の治療は、腫瘍の部位や進行度、患者さんの全身状態によって異なります。
外科手術
血管肉腫の治療の基本は外科手術による腫瘍の切除です。腫瘍が限局している場合は、周囲の正常組織を含めて広範囲に切除することが推奨されます。しかし、腫瘍が広範囲に広がっている場合や重要な臓器に発生している場合は、手術が難しいこともあります。
放射線療法
放射線療法は、手術が困難な場合や、手術後に残った腫瘍細胞を破壊するために使用されます。特に皮膚の血管肉腫では、放射線療法が有効であるとされています。
化学療法
血管肉腫が広範囲に広がっている場合や、ほかの部位に転移している場合は、化学療法が行われることがあります。ただし、血管肉腫は化学療法に対する反応が良くないことも多いため、治療の効果が限定的であることがあります。
分子標的療法
近年、分子標的療法が注目されており、血管肉腫に対する新しい治療選択肢となる可能性があります。具体的な薬剤としては、進行肉腫に対して保険適応となった分子標的薬や、抗VEGFヒト化モノクローナル抗体薬、免疫チェックポイント阻害薬などが研究されています。
血管肉腫になりやすい人・予防の方法
放射線治療を受けたことがある人
がんの治療で放射線療法を受けたことがある人は、その後、血管肉腫が発生するリスクがあるため、治療後も定期的な経過観察が重要です。
リンパ浮腫がある人
リンパ浮腫がある場合、その部位に血管肉腫が発生する可能性があるため、皮膚の変化や異常に注意を払い、必要に応じて早期に医師へ相談することが推奨されます。
紫外線に長期間さらされたことがある人
紫外線への長期間の曝露も血管肉腫の発症危険因子として知られています。皮膚が赤紫色に変化したり、出血したりした場合は医師への相談が必要です。
予防の方法
紫外線対策
紫外線は皮膚がん全般のリスク要因であり、血管肉腫もその例外ではありません。特に顔面や頭部に血管肉腫が発生しやすいことから、外出時には日焼け止めの使用や帽子、日傘などを活用し、紫外線から肌を保護することが推奨されます。
定期的な健康診断と皮膚の自己チェック
特にリスク要因を持つ人々は、定期的に健康診断を受けることが大切です。また、自分で皮膚の変化を観察する習慣をつけ、異常が見られた場合は早めに皮膚科を受診することが重要です。
リンパ浮腫の管理
リンパ浮腫の予防と管理は、血管肉腫の発症リスクを低減するために不可欠です。リンパ浮腫が生じた場合は、圧迫療法やリンパドレナージュといった専門的なケアを受けることが推奨されます。また、リンパ浮腫が発生しないよう、手術や放射線治療後のセルフケアも重要です。
関連する病気
- スチュワート・トレヴス症候群
- 慢性潰瘍
- 褥瘡
- 慢性皮膚炎
- HIV感染症
- リ・フラウメニ症候群
- フォン・ヒッペル・リンドウ病
参考文献