監修医師:
林 良典(医師)
目次 -INDEX-
くも状血管腫の概要
くも状血管腫(spider angioma)は、皮膚表面に見られる小さな血管の拡張によって形成される血管異常であり、しばしば蜘蛛の巣のような形状をとることからこの名前がつけられています。中心部に赤い小さな点(中心動脈)があり、そこから放射状に拡張した毛細血管が広がっているのが特徴です。くも状血管腫は、顔、首、上肢、胸部など血流が豊富な場所に好発しますが、全身のどの部分にも生じる可能性があります。
くも状血管腫は肝機能の低下による内分泌異常や、エストロゲンと呼ばれるいわゆる女性ホルモンの異常によって引き起こされることが知られています。このため、特に妊婦をはじめとする成人女性や肝疾患の中でも進行した状態である肝硬変をお持ちの方に多くみられます。基本的には良性であり、臨床的な問題を引き起こすことは稀ですが、美容的な問題や基礎疾患のサインとして現れることがあるため、放置せずに医療機関での診察が勧められます。
くも状血管腫の原因
くも状血管腫の発生には様々な要因が関与しており、その原因は大きく自然な生理的な反応である生理的要因と何らかの疾患による病的要因に分けることができます。
1. 生理的要因
特に女性に多くみられる傾向があり、ホルモンの変動が関与していると考えられます。妊娠中やピルの使用時には、エストロゲンの増加により血管の拡張が促進され、くも状血管腫が出現することがあります。また、成長期の子どもにも一時的に発生することがありますが、これらは自然に消退することが多いです。
2. 病的要因
くも状血管腫は肝疾患、特に肝硬変や慢性肝炎の患者さんにおいてよく見られます。肝機能が低下することで、体内のホルモンバランスが乱れ、特にエストロゲンが代謝されにくくなることが原因です。このため、男性でも肝障害が進行するとくも状血管腫が現れることがあります。また、血管拡張を引き起こす全身的な循環不全や慢性的なアルコール摂取も発症リスクを高める要因とされています。
くも状血管腫の前兆や初期症状について
くも状血管腫は主に皮膚上に視覚的に確認できる症状であり、早期発見が可能です。初期には小さな赤い斑点が現れ、その後、中心から放射状に広がる毛細血管が拡張することで典型的な蜘蛛の巣状の形態が形成されます。症状が見られたら皮膚科を受診しましょう。
くも状血管腫の検査・診断
診断は主に視診によって行われます。くも状血管腫は特徴的な形状を持つため、皮膚科医や内科医は肉眼での診察によって容易に診断することができます。加えて、くも状血管腫が複数存在する場合や、肝疾患を示唆する他の症状(黄疸、腹水、疲労感など)がある場合には、より詳しい検査を行います。検査の内容は以下のとおりです。
血液検査
肝機能の評価を行います。肝障害を伴うくも状血管腫では、肝機能マーカーであるAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)やALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、アルブミン、ビリルビン値の上昇が認められることがあります。
腹部エコー
肝臓の形態や性状や内部に異常な病変がないかを調べることができます。
CTやMRIなどの画像検査
より詳細に肝臓の状態を評価するために行います。造影剤を静脈から注射することでさらに詳しい検査を行うことができます。
くも状血管腫の治療
くも状血管腫の治療は、原因に基づいて異なります。良性ではありますが、美容的な理由から除去を希望される方もおられ、その場合は以下の方法が用いられます。
1. レーザー治療
最も一般的な治療法はレーザー療法です。特に、パルス染料レーザー(PDL)やNd:YAGレーザーが効果的とされています。レーザーは血管内のヘモグロビンに吸収されることで、血管を破壊し、血管腫を縮小・消失させます。この治療法は局所麻酔が不要で、痛みも少なく、治療後の回復も早いのが特徴です。
2. 電気焼灼療法
電気針を用いて血管を焼灼する治療法で、くも状血管腫が小さい場合に効果的です。しかし、レーザー治療に比べて治療後の瘢痕形成のリスクが高いことが難点です。
3. 原因疾患の治療
くも状血管腫が肝疾患や他の基礎疾患に関連している場合、その疾患の治療が優先されます。肝硬変や慢性肝炎の治療を進めることで、くも状血管腫が自然に消退することもあります。したがって、肝疾患が疑われる場合には、専門医による総合的な治療が求められます。
くも状血管腫になりやすい人・予防の方法
くも状血管腫は、以下の方に多く見られる傾向があります。
1. 女性
特に妊娠中やホルモン治療を受けている女性は、エストロゲンの増加によりくも状血管腫が発生しやすくなります。エストロゲンは血管を拡張させる作用があるため、妊娠中の女性では一時的に複数のくも状血管腫が出現することがありますが、産後には自然に消退する場合が多いです。
2. 肝疾患のある人
肝硬変や慢性肝炎などの肝障害を有する患者さんでは、くも状血管腫が頻繁に見られます。肝臓がエストロゲンを代謝する役割を担っているため、肝機能が低下するとエストロゲンが蓄積し、血管拡張が生じます。このため、肝疾患の予防や早期治療がくも状血管腫の発生予防にもつながります。
3. 慢性的なアルコール摂取者
アルコールの過剰摂取は肝臓に負担をかけ、肝硬変や慢性肝炎の原因となり、結果としてくも状血管腫が現れることがあります。したがって、適度な飲酒を心がけ、アルコールの過剰摂取を避けることが予防策として有効です。
また、これらのほかに小児でも見られることがありますが、はっきりとした原因はわかっていません。
予防の方法
くも状血管腫そのものを直接的に予防する方法は限られていますが、以下の対策が予防に寄与する可能性があります。くも状血管腫自体は重篤な状態になりにくくはありますが、隠れている肝臓の病気やホルモン異常がみつかるきっかけになります。
適度な飲酒習慣の維持
飲酒による肝臓の負担を減らすことが、くも状血管腫の予防に役立つ可能性があります。特に、慢性アルコール性肝疾患の予防が重要です。
健康的な生活習慣
適度な運動、バランスの取れた食事、規則正しい生活を心がけることで、肝機能に負担をかけないことがくも状血管腫の予防に繋がります。
定期的な健康診断
肝疾患の早期発見・治療のためには、定期的に血液検査を行い、肝機能の状態をチェックすることが重要です。特に、くも状血管腫が複数現れた場合は、肝疾患のサインとして内科的な精査を受けることが勧められます。
関連する病気
- 肝硬変
- 慢性肝炎
- アルコール性肝障害
- エストロゲン過剰症
- 甲状腺機能亢進症
- 右心不全
- 動静脈奇形
- エーラス・ダンロス症候群
- 血小板減少性紫斑病
参考文献