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高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

バージャー病の概要

バージャー病は、抹消の細い動脈が炎症によって塞がってしまう病気です。「ビュルガー病」「閉塞性血栓血管炎」「特発性脱疽」と別名で呼ばれることもあります。病名は、バージャー病発見者であるレオ・バージャーの名前から取ったものです。抹消血管が閉塞されることで手足の指先が低酸素状態となり、チアノーゼや強い痛みを生じさせます。適切な治療が行われない場合、壊死が進行し、最悪の場合切断に至ることもあります。

バージャー病は、国から難病として指定されている原因不明の病気です。国内において約7,000人の患者さんが治療を受けています。男女比では8:2と圧倒的に男性が多く、発症年齢は30歳代から40歳代が中心です。患者数が少なく、職業歴や生活環境との関連性ははっきりしていません。この病気の最大の危険因子は喫煙になります。血流に異常を生じさせないよう禁煙することが大切です。

指定難病

バージャー病は、国に指定難病として登録されている病気です。原因は不明ですが、四肢末梢血管の炎症に起因する病気だと考えられています。指定難病は、長期の療養を必要とすることで大きな経済的負担を強いる病気になります。バージャー病は国が「難病の患者に対する医療等に関する法律」に定められる基準に基づいて医療費助成制度の対象としています。

バージャー病の原因

バージャー病の原因は明確になっていません。特定の遺伝的素因に何らかの刺激が加わることで発症するのではないかと考えられています。明確に遺伝性が証明された病気ではありませんが、何らかの遺伝的素因を持った人に多いと報告されています。親族にバージャー病患者さんがいる場合は注意が必要です。発症には喫煙が強く関与していると考えられており、実際に患者さんのほとんどで喫煙歴が認められます。近年、女性喫煙者の増加が影響してか、女性患者さんの割合が増加しています。歯周病とバージャー病との関連も疑われており、継続して研究が行われています。

日常生活での注意

バージャー病において最も注意しなければならないのが喫煙です。患者さんは必ず禁煙をしなければなりません。また、末梢循環が不良になるため、傷の治りが遅くなります。些細な傷でも潰瘍や壊死など大きな障害につながる可能性があるため、手足の清潔維持や傷を負わない生活を心掛ける必要があります。バージャー病を発症したとしても生命に関わる合併症を起こすことはほとんどありません。生命予後も同年代の健常人と同程度です。ただし、適切に治療を受けていなければ手足の痺れや痛み・歩行障害・下肢切断などでQOLが著しく低下します。

バージャー病の前兆や初期症状について

バージャー病は、手足の指先に十分な血液が流れなくなることで組織の酸素不足が生じてさまざまな症状が現れます。症状の重症度は、手足の軽い痺れから細胞の壊死まであり、なるべく早期に治療を受ける必要があります。特殊な症例を除けば、基本的に手足の動脈の病変のみです。

  • 軽度の症状:手足の冷え・しびれ感・レイノー症状
  • 重度の症状:間欠性跛行・潰瘍・壊死

気になる症状がみられる場合は、循環器科・血管内科・血管外科で検査を受けることができます。

レイノー症状

レイノー症状は、寒いところなどで指先が白または紫に変色する症状のことです。血管が一時的に収縮して指先の血流が少なくなるために起こります。発現と同時に、指先に軽い痛みや痺れなどが生じることがあります。

間欠性跛行

間欠性跛行は、しばらく歩くと足に痺れや痛みが生じ、しばらく休まないと再び歩くことができないほどの症状が現れます。歩き続けていると次第に痛みや疲労感が生じ、足を引きずるような歩き方になるのが特徴です。

バージャー病の検査・診断

バージャー病の疑いがある場合は、視診による血管症状の確認が基本になります。バージャー病と似たような症状を呈する疾患がいくつかあるため、ほかの病気の可能性を排除するための検査が重要です。虚血症状が認められると、足ではドップラー血流計を用いて足関節上腕血圧比・足趾上腕血圧比が計測され、手では分節的血圧測定が行われます。加えて、動脈の状態を見るために超音波検査・CTA(CT血管造影)・MRA(磁気共鳴血管造影)などの画像検査から閉塞部や閉塞パターンを確認します。すでに重度の症状がある場合には、皮膚灌流圧や経皮酸素分圧を測定し血流状態も評価します。

診断基準

日本循環器学会が公開しているバージャー病の診断基準は以下の通りです。

診断に必要な症状

  • 四肢の冷感、しびれ感、色調変化、チアノーゼ、レイノー現象
  • 間欠性跛行
  • 指趾の安静時疼痛
  • 指趾の潰瘍、壊死

検査所見(血管画像診断所見)

  • 四肢末梢動脈病変に、動脈硬化性の壁不整がない(虫食い像、石灰化沈着など)
  • 多発的分節的閉塞
  • 二次血栓の延長による慢性閉塞の像
  • 閉塞が途絶状・先細り状
  • コイル状、樹根状、ブリッジ状の側副血行路

「診断に必要な症状」のうち1項目以上、「検査所見」のうち診断に必要な症状を含む2項目以上を満たした場合にバージャー病と診断されます。

バージャー病の重症度分類

バージャー病は症状によって、1度から5度に分けて重症度を判定しています。重症度分類を用いて3度以上の症状がある場合に医療費助成の対象になります。

1度

患肢皮膚温の低下、しびれ、冷感、皮膚色調変化(蒼白、虚血性紅潮など)を呈する患者であるが、禁煙も含む日常のケア、又は薬物療法などで社会生活・日常生活に支障のないもの。

2度

1度の症状と同時に間欠性跛行(主として足底筋群、足部、 下腿筋)を有する患者で、薬物療法などにより、社会生活・日常生活上の障害が許容範囲内にあるもの。

3度

指趾の色調変化(蒼白、チアノーゼ) と限局性の小潰瘍や壊死又は3度以上の間欠性跛行を伴う患者。通常の保存的療法のみでは、 社会生活に許容範囲を超える支障があり、 外科療法の相対的適応となる。

4度

指趾の潰瘍形成により疼痛(安静時疼痛)が強く、社会生活・日常生活に著しく支障をきたす。 薬物療法は相対的適応となる。 したがって入院加療を要することもある。

5度

激しい安静時疼痛とともに、壊死、潰瘍が増悪し、入院加療にて強力な内科的、外科的治療を必要とするもの(入院加療:点滴、鎮痛、包帯交換、外科的処置など)。

鑑別診断

バージャー病は以下の疾患を鑑別します。
閉塞性動脈硬化症・外傷性動脈血栓症・膝窩動脈捕捉症候群・膝窩動脈外膜嚢腫・膠原病および類縁疾患・血管ベーチェット病・胸郭出口症候群・塞栓症(心原性など)

バージャー病の治療

バージャー病治療の基本は受動喫煙を含めた禁煙です。加えて、抗凝固薬・抗血小板薬・血流改善薬を用いた薬物療法が用いられます。薬は静脈注射によって投与し、血液循環の改善効果を図ります。抗凝固薬は血液を固まりにくくする効果で血液循環に作用します。抗血小板薬・血流改善薬から得られるのは血管を拡張させる効果です。強い症状が生じていなければ、適度な運動は効果的と報告されています。ただし、手足のケガには注意が必要です。将来的に動脈硬化が起こってしまうと予後が悪くなる可能性が高いため、飲食・運動と生活習慣には注意をはらう必要があります。重症化している場合には、外科的療法として血行再建手術が行われます。また、近年では遺伝子治療や骨髄細胞移植治療によって、新しい血管を生成し取り替えるという先進的な治療の研究が進んできています。

血行再建手術(バイパス手術)

外科治療としてバイパス手術も選択肢となりますが、Buerger病の患者においては一般的に有効ではないとされ、閉塞が末梢の小動脈で生じるため成功率が低いです。治療の第一選択は禁煙であり、血行再建手術は慎重に検討されます。効果が乏しい場合、交感神経節ブロックや高気圧酸素療法が追加の治療法として試みられることがありますが、効果には個人差があります。

バージャー病になりやすい人・予防の方法

喫煙習慣のある人は、バージャー病の発症に注意する必要があります。詳細な発症メカニズムは解明されていませんが、発症・増悪共に喫煙との関係性が強い病気です。受動喫煙でもタバコの成分が体内に入る可能性があるため、喫煙者の多い環境へ行くのはなるべく避けるようにしましょう。日常生活で特に気をつけなければならないのが出血を伴うような怪我です。手足の指先の循環不良から、一度怪我をしてしまうと回復に時間がかかってしまいます。また、傷口からの感染症にも注意を払わなければなりません。手足はいつも清潔にして、寒い時期はなるべく保温し血液循環に配慮しましょう。


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