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顕微鏡的多発血管炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

顕微鏡的多発血管炎の概要

顕微鏡的多発血管炎は、自己免疫疾患の一つと考えられており、特に全身の小さな血管がダメージを受ける病気です。初期症状は発熱や倦怠感、体重減少といった非特異的なものが多いですが、病気が進むにつれて腎臓や呼吸器、神経の症状が出てきます (参考文献 1, 2) 。
診断のためには血液検査や尿検査、生検、画像検査をしますが、「患者さん自身にどのような症状が出ているか」という情報が一番重要です。
免疫抑制剤を使って治療していきますが、特に初めは専門の機関での集中的な治療が必要とされます。
診断が難しい一方で、放置すれば命にかかわる病気です。発熱などの風邪に似た症状が続き、経過の中で他にも症状が出てくるような場合には、すぐにかかりつけの医療機関を受診してください。

顕微鏡的多発血管炎の原因

顕微鏡的多発血管炎の原因はよくわかっていません。顕微鏡的多発血管炎の患者さんでは MPO-ANCA とよばれる自己抗体がよく検出されるので、関節リウマチや全身性エリテマトーデス (SLE) のような自己免疫疾患の側面があるのではないかと考えられてはいます (参考文献 1)。
「自己免疫疾患」に関してもう少し踏み込んで説明します。人の体には外から入ってきた病原体を倒したり、老いて寿命を迎えた細胞やがん細胞を除去するための免疫システムがあります。通常であれば免疫システムは自分の健康な細胞を攻撃しないようになっているのですが、様々な原因によって自分の体が自分の免疫システムによって攻撃されてしまい、疾患として問題になる病気をまとめて自己免疫疾患とよんでいます。
顕微鏡的多発血管炎の場合には主に血管が自分の免疫によって攻撃されてしまっているのではないだろうかと考えられているわけです。

顕微鏡的多発血管炎の前兆や初期症状について

初期症状は発熱や体重減少、食欲不振、疲労感、関節痛などの非特異的な物が多いとされています (参考文献 1, 2)。
「風邪かな?」と思ってしまう人も多いでしょう。これらの初期症状が数週間から数カ月続きますが、はじめから顕微鏡的多発血管炎と診断することは難しく、感染症や悪性腫瘍、他の炎症性疾患と間違われることがあります (参考文献 2) 。
病気が進行してくると、徐々に病気の影響を受けた体の部位に特徴的な症状が出てきます。代表的な症状には次のようなものです (参考文献 1, 2) 。

  • 尿関連の症状
    腎臓がダメージを受けることにより尿にも異常が出てきます。患者さん自身が自覚できるものとしては血尿、検診などで気付かれることにはタンパク尿があります。
  • 身体がむくむ
    腎臓がダメージを受けることにより効率的に尿を作れなくなり、体がむくんでしまいます。
  • 高血圧
    これも腎臓がダメージを受けることによる症状です。
  • 皮膚の異常
    皮膚に血液を送る血管がダメージを受けることによって、特に下肢に紫色の皮疹ができることがあります。
  • 呼吸器の症状
    肺や他の気道がダメージを受けることによる症状で、咳や息苦しさ、胸の痛み、喀血 (咳をしたときに血が出る) といった症状が出ることがあります。
  • しびれ
    末梢神経に血液を送る血管がダメージを受けることによる症状です。
  • 顕微鏡的多発血管炎は診断の難しい病気です。診断は難しいですが、放置しておくと色々な臓器が侵されていき、命にかかわる病気でもあります。最初は風邪と思われてもしかたないような症状がメインですが、だんだんと色々な症状が出てきます。「この症状は関係ないから言わなくてもいいか」と考えずに、気になる症状がでてきたら、お近くの内科を受診して相談してみてください。

    顕微鏡的多発血管炎の検査・診断

    症状と血液・尿検査のデータ、生検での組織診断、画像所見の組み合わせで診断していきます (参考文献 1)。
    診断基準を細かくここで説明することはしませんが、患者さんに知っていてほしいのは、顕微鏡的多発血管炎の診断において「どの症状がでているか」は最も重要な項目であるということです。
    「この症状は関係ないかな…?」と考えて医療スタッフに伝えなかった症状が、顕微鏡的多発血管炎の症状として知られていた場合、伝えなかったことで診断が遅れたり、重症度の評価が正確ではなくなってしまう可能性があります。
    些細な症状でも伝えるようにしてください。

    顕微鏡的多発血管炎の治療

    治療の目的は以下の2つです。

    • 今ある炎症をおさえて、これ以上の臓器障害を防ぐこと (寛解導入治療)
    • 炎症が抑えられた状態を維持すること (寛解維持治療)
    • 寛解導入治療ではステロイドシクロホスファミドとよばれる免疫抑制剤を高容量で用いて、炎症を沈めていきます (参考文献 1) 。高容量での治療は副作用リスクも比較的高く、その人にあった種類の薬剤の選択と容量の設定をすることが重要なため、知識と経験のある医師のもとで治療をする必要があり、場合によっては専門の医療機関に転院しての治療になります。
      寛解維持治療では長期間使えるような製剤をつかって、長期にわたる疾患のコントロールをします。定期的な診察を勧められることがほとんどかと思いますが、これは疾患再燃の徴候や薬剤の効果の判定をしなければいけないためです。一時期より良くなったからといって自己判断で通院を止めることはせず、根気強く治療していきましょう。

      顕微鏡的多発血管炎になりやすい人・予防の方法

      日本における年間の発症率は、100万人あたり18人程度とされており、欧米の方と比べて多いです (参考文献 1) 。患者さんの男女比はおおよそ 1:1 で性別による差はなく、一般に高齢の方に多い疾患とされています (参考文献 1) 。
      一部遺伝性の背景が知られているため、血縁者のなかに発症したことが分かっている人がいれば、他の人よりは発症しやすいかもしれません。原因がよくわかっていない疾患ですし、発症予防という観点でははっきりしたことが言えません。しかしながら重症化予防という観点からいえば、放置すれば命にかかわる顕微鏡的多発血管炎の早期発見には価値があります。
      先ほど紹介したような症状があれば、我慢せずにかかりつけ医に相談し、新しく出てきた症状も言うようにしましょう。


      関連する病気

      • 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
      • ウェゲナー肉芽腫症
      • ANCA関連血管炎
      • 多発性動脈炎
      • 慢性腎疾患

      参考文献

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