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貧血(総論)
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

貧血の概要

貧血とは、血液中の赤血球やヘモグロビンの量が正常よりも少ない状態を指します。赤血球は酸素を身体の各部分に運ぶ役割を果たしており、ヘモグロビンはその中で酸素を運ぶタンパク質です。貧血になると、身体の各臓器に十分な酸素が行き渡らず、頭痛、倦怠感、息切れ、めまいなど、さまざまな症状が現れるようになります。

日常生活で貧血という場合、立ちくらみを起こして倒れる脳貧血を指していることが多い傾向ですが、これは医学的には起立性低血圧といい、本来の意味の貧血とは異なる病気です。

貧血の原因

貧血の原因は多岐にわたりますが、代表的な貧血の種類に以下のようなものがあります。

鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血は、ヘモグロビンの材料の鉄が体内で不足することで生じます。鉄が不足するとヘモグロビンが十分な量作れなくなり、貧血になります。
月経のある年代の女性では、およそ3人に1人が鉄欠乏状態で、鉄欠乏性貧血の患者数は同年代の25%にも及ぶとされています。

鉄欠乏性貧血になる背景に、胃潰瘍やがんなどによる消化管からの出血があることがあります。出血することで体内から鉄が流出し、食事で鉄を摂っても体内から出ていく鉄が多いため貧血になります。そのため、鉄欠乏性貧血の患者さんには上部・下部消化管内視鏡検査を行うことがあります。妊娠中や成長期など、普段より多くの鉄を必要としている場合は普段の食事摂取では鉄が不十分となり貧血を起こすこともあります。

ビタミンB12や葉酸の欠乏

いずれも不足すると赤血球を作るためのDNA合成がうまくできなくなるため、正常な赤血球が作れなくなり貧血になります。

胃を切除した患者さんはビタミンB12の吸収が悪くなるため貧血になります。アルコールは葉酸の吸収を妨げるだけでなく、尿中への排泄を促進し肝臓での葉酸代謝を阻害するため、大酒家では葉酸が欠乏しやすくなります。また、極端な偏食、たとえば肉や魚をまったく摂取しない食生活や極端なダイエットによって、ビタミンB12や葉酸が欠乏する場合もあります。

慢性腎臓病

腎臓から出るエリスロポエチンというホルモンは、骨髄に作用して赤血球の増殖を促します。慢性腎臓病の患者さんはエリスロポエチンが減少し貧血を生じます。

血液の病気

血液の病気はさまざまなものがありますが、代表的な疾患に以下のようなものがあります。

急性白血病
血液を作る骨髄中でがん細胞が増殖することで正常な赤血球を作れず貧血になります。
骨髄異形成症候群
骨髄で形のおかしな赤血球を作り、正常な赤血球が作られなくなる病気です。
再生不良性貧血
骨髄中の血液を作る細胞の機能が低下することで赤血球を作ることができなくなります。

貧血の前兆や初期症状について

貧血は、身体に十分な酸素がいきわたらなくなる状態です。その結果、体内の組織や臓器が酸素不足になり、以下のようなさまざまな症状が現れます。

息切れ
肺に十分酸素がいきわたらないため、軽い運動でも息切れを感じることがあります。進行するとごく軽度の動作でも息切れが生じることがあります。
頭痛
脳への酸素供給が不足することで頭痛が生じることがあります。
手足の冷え
血液の循環が悪くなるため、手足の末梢部分まで十分な血液が届かずに冷えを感じることがあります。
動悸
身体の酸素不足を反映して、心臓がより多くの血液を送り出そうとして心拍数が上昇します。その結果、動悸を感じることがあります。

貧血の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、内科です。貧血は血液中の赤血球数が低下する状態であり、内科での診断と治療が必要です。

貧血の検査・診断

貧血の検査や診断は以下のようなものがあります。

血液検査
赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値を確認します。ここからMCVという赤血球の大きさを計算し、貧血原因を推測します。MCVが低ければ鉄欠乏性貧血が疑われます。反対に、MCVが大きければビタミンB12や葉酸欠乏が疑われます。
赤血球の材料の検査
赤血球の材料となる鉄、ビタミンB12、葉酸の値を確認します。鉄は体内の鉄の貯蔵量を反映するフェリチンを測定して、鉄が十分足りているかを確認します。
なお、赤血球数やヘモグロビン値が正常であっても、フェリチンが低い場合があります。これは潜在性鉄欠乏性症といい、放置すると貧血に進行するおそれのある状態です。
骨髄検査
血液疾患が疑われる場合、血液の細胞を作っている骨髄の状態を確認するために骨髄検査を行います。骨髄で赤血球の元となる細胞が十分にあるかを確認します。
上部・下部消化管内視鏡検査
血液検査で鉄欠乏性貧血と診断された患者さんで消化管出血が疑われた場合は、出血の有無を確認するために上部・下部内視鏡検査を行います。
婦人科検査
生理のある年代の女性で鉄欠乏性貧血と診断された場合は、子宮筋腫などの婦人科系の病気の有無を調べるため、婦人科診察を行う場合があります。

貧血の治療

各種検査で貧血の原因が判明したら、それに対する治療を行います。

鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血と診断されたら、鉄剤の内服を行います。程度がひどければ注射製剤を使用したり、輸血を行ったりする場合もあります。内服薬の鉄剤による副作用で嘔気や胃の不快感が出ることがあり、その際も点滴で鉄を補充することがあります。

普段の食事では鉄分の多い食事を心がけていただきますが、貧血がある場合は食事のみでは不十分なことも多く、鉄剤による補充が行われます。鉄剤は貧血が改善するだけでなく、体内の鉄の貯蔵量を反映するフェリチンが十分上昇するまで長期間補充を行います。

上部・下部消化管内視鏡検査や婦人科検査で鉄欠乏性貧血の原因が判明している場合は、鉄剤補充と同時に治療を行います。もちろん、ただ鉄剤補充を行うだけでなく、原因の治療を行うことが重要です。

ビタミンB12や葉酸欠乏性貧血

血液検査で不足しているものがわかった場合、不足している成分の補充を行います。胃切除後の患者さんのビタミンB12欠乏性貧血は吸収が悪いことで発症するため、基本的に筋肉注射でビタミンB12を補充します。アルコール多飲による葉酸欠乏性貧血の患者さんは、禁酒をした上で、葉酸の補充を行います。

輸血

貧血が極端に進行し呼吸苦が強い、血圧低下などが起こり重症な状態で早急に貧血を改善する必要がある場合は、赤血球輸血を行うことがあります。

化学療法

血液の病気と診断がついた場合、必要に応じて化学療法を行うことがあります。

貧血になりやすい人・予防の方法

貧血になりやすい人

成長期や妊娠中は鉄の需要が増加するため、鉄欠乏性貧血になりやすいため普段より多くの鉄の摂取を必要とします。
月経のある女性は月経による出血で鉄を喪失します。1回の月経でおよそ10〜70mgの鉄分の喪失があるとされています。そのため、鉄欠乏性貧血が起こりやすくなります。
また、スポーツ、特に激しい運動を行うアスリートも鉄欠乏性貧血になりやすいことが知られています。

赤血球を作るには鉄だけでなくビタミンB12、葉酸、そのほかにもさまざまな材料が必要です。そのため、肉や魚をまったく摂取しない食生活や極端なダイエットなどといった偏食で貧血になることがあります。

貧血の予防法

ここでは、鉄欠乏性貧血の予防法について詳しく解説します。鉄欠乏性貧血の予防には、鉄を十分量摂取することが大切です。

鉄分には、肉や魚などの動物性食品に多く含まれるヘム鉄と、野菜や海藻、穀物に多く含まれる非ヘム鉄の2種類があります。
ヘム鉄のほうが非ヘム鉄より吸収率が5〜6倍高いことが知られていますが、日本人が食事から摂取する鉄のほとんどは非ヘム鉄です。非ヘム鉄の吸収率を高めるには、ビタミンCを一緒に摂ることで吸収率を高めることができます。
推奨される摂取量は年齢や性別によって異なりますが、たとえば月経のある女性では、1日に約10〜10.5mg程度の鉄を摂取することが推奨されています。

また、ゆっくりと貧血が進行すると、貧血になっていても自覚症状がない場合があります。そのため、定期的に健康診断を受けることで早期発見と早期治療が期待できます。

貧血の多くは鉄欠乏による貧血です。鉄欠乏性貧血の原因は上述のとおりさまざまです。また、鉄欠乏性貧血以外にも貧血の原因は多岐にわたります。そのため、貧血と思われる症状を自覚した場合、病院を受診し検査を受け、適切な治療を受けることが大切です。

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