監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
胆嚢摘出後症候群の概要
胆嚢(たんのう)摘出術を施行した後に、術前と同じ症状が持続したり、術前になかった消化器系の症状が出現したりする状態を「胆嚢摘出後症候群」と呼びます。
胆嚢摘出術は、胆石で持続的な腹痛が続く場合や、胆嚢炎の合併症が発症している場合などに適応されます。
胆嚢は腹部の右上、肝臓の奥に位置する臓器です。
肝臓でつくられた胆汁を貯蔵し、食事のときに放出させて、脂肪の吸収や消化を助けます。
胆嚢を摘出すると胆嚢疾患に関連する症状は改善しますが、乳頭括約筋(十二指腸の乳頭部にある胆汁の流れを調節する筋肉)の機能が低下したり、胆汁の代謝が変化したりすることがあります。
これらの異常により、胆汁の流れが阻害され、胆管や総胆管(胆嚢から十二指腸に胆汁を流す管)の内圧が上昇し、下痢や吐き気、腹痛、腹部膨満感、黄疸などの症状が現れることがあります。
胆嚢摘出後症候群の症状は、術後3〜4割の患者に発症し、そのうち約半数が追加の治療を必要とすることがわかっています。
診断には、血液検査による炎症反応や肝臓の機能などの評価、超音波検査やCTスキャンなどの画像診断、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)による胆道内圧の測定などがおこなわれます。
時間の経過とともに自然に治るケースもありますが、症状の原因や重症度に応じて薬物療法や内視鏡的乳頭括約筋切開術が検討されることもあります。
(出典:一般財団法人 日本消化器病学会 「胆石症診療ガイドライン2021(改定第3版)」)
胆嚢摘出後症候群の原因
胆嚢摘出後症候群の主な原因は、胆嚢摘出術後に乳頭括約筋の機能低下(乳頭括約筋不全)や胆汁の代謝変化が起こることです。
乳頭括約筋不全は、胆嚢摘出術によって胆嚢からの神経伝達が阻害され、筋肉の攣縮(一時的に筋肉が縮むこと)が起こることによって生じます。
胆汁の代謝変化は、胆嚢による胆汁の貯蔵機能が失われることにより生じます。
その他、手術による胆管損傷や腹腔内への胆石の落下、腹壁瘢痕ヘルニア、総胆管などの胆石残存、新たな胆石形成なども原因になることがあります。
胆嚢摘出後症候群の前兆や初期症状について
胆嚢摘出後症候群の初期症状は、下痢や吐き気、腹痛、腹部膨満感、黄疸(皮膚や粘膜が黄色くなる症状)などです。
乳頭括約筋不全が起きている場合は、右上腹部の痛みが生じることがあります。
胆汁の十二指腸への流入が適切に調節されないことで、持続的な胆汁の流入や胆管での停留が起こり、消化不良を引き起こします。
消化不良が続くと、胃炎や逆流性食道炎、消化性潰瘍などの症状が二次的に現れることがあります。
これらの症状は脂肪分が多い食事の後に起こりやすいです。
胆嚢摘出後症候群の検査・診断
胆嚢摘出後症候群の診断は主に術後の症状の経過によっておこなわれます。
術後の症状に応じて血液検査や画像検査、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)などをおこないます。
胃炎や逆流性食道炎、消化性潰瘍などの二次的症状が疑われる場合は、それぞれの疾患に応じた検査を追加することもあります。
血液検査
血液検査では、炎症所見や肝臓・膵臓の機能を評価するために、CRP、白血球、AST、ALT、ビリルビン、アルカリフォスファターゼ、γ-GTP、アミラーゼ、リパーゼなどの値を測定します。
乳頭括約筋不全が起きている場合は、肝臓や膵臓のマーカーが異常値を示す可能性があります。
画像検査
画像検査では超音波検査やCT検査、MRI検査によって、胆嚢周辺の臓器や器官の状態を詳細に観察します。
胆石の残存や落石、腹壁瘢痕ヘルニアなどの有無や、胆管や周辺組織の形態的な異常を確認します。
内視鏡的逆行性胆道膵管造影
内視鏡的逆行性胆道膵管造影はより詳細な胆道系の評価をおこなうための検査です。
口から通した細いカテーテルを胆管や膵管に挿入し、造影剤を注入してレントゲン写真を撮影します。
胆管や膵管の損傷、内圧の異常などを詳しく調べることが可能です。
胆嚢摘出後症候群の治療
胆嚢摘出後症候群の症状は、時間の経過とともに自然に軽快することもありますが、右上腹部の痛みが持続する場合などは再治療が必要になる可能性があります。
治療法は症状の原因や程度によって異なりますが、主に薬物療法と内視鏡的治療が選択されます。
二次的症状が生じている場合は、疾患に対する治療もおこないます。
胆石溶解療法
胆石が残存している場合、「ウルソデオキシコール酸」という薬剤を用いた胆石溶解療法がおこなわれることがあります。
胆石溶解療法は胆石を徐々に溶かしていく治療で、完全に消失するまで数年かかる可能性があります。
非侵襲的であるため患者の負担は少ないという利点があります。
内視鏡的乳頭括約筋切開術
乳頭括約筋不全により狭窄が生じている場合、内視鏡的乳頭括約筋切開術が有効です。
内視鏡的乳頭括約筋切開術は内視鏡を十二指腸まで挿入し、乳頭括約筋を切開することで、胆汁の流出を促します。
胆汁の停留が改善されるため、症状の改善が期待できます。
胆嚢摘出後症候群になりやすい人・予防の方法
胆嚢摘出後症候群になりやすい人は明らかになっていません。
胆嚢摘出後症候群の症状を予防するには、術後の食生活の管理が重要です。
脂肪の多い食事は消化酵素によって完全に処理できない可能性があります。揚げ物や脂肪分の多い肉類、スナック菓子などの摂取は控えるようにしましょう。
また、カフェインを含む飲料や刺激の強い食品も避けるべきです。
海藻類やきのこ類などの食物繊維を多く含む食品は腸内環境を整える働きがあるため、下痢や吐き気、嘔吐などの症状を和らげる効果が期待できます。
バランスの取れた低脂肪の食事と適度な運動を心がけ、規則正しい生活リズムを維持することが、胆嚢摘出後の体調管理に役立ちます。
気になる症状がある場合は、早めに医師に相談することも大切です。
参考文献