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ウイルス性肝炎
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

ウイルス性肝炎の概要

ウイルス性肝炎とは、肝炎ウイルスによって肝臓に炎症を起こす疾患です。

肝臓は、栄養の代謝や毒素の分解、免疫機能の維持など、生命を維持する上で重要な機能を担っています。しかし、肝炎ウイルスに感染すると、肝臓の機能が低下して全身倦怠感や黄疸などの症状を呈することがあります。

ウイルス性肝炎の原因となるウイルスには、A型、B型、C型、D型、E型の5種類があります。A型肝炎とE型肝炎は主に食べ物から感染し、B型、C型、D型肝炎は血液を介して感染します。
中には自然治癒するものもありますが、B型・C型肝炎は慢性化する恐れがあります。

いずれの場合でも、無症状で経過して病状が進行し、やがて「肝硬変」や「肝がん」に移行するケースもあるため、注意が必要です。

ウイルス性肝炎の原因

A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスに感染することで発症します。それぞれのウイルスの感染経路は以下の通りです。

A型肝炎ウイルス

A型肝炎ウイルスは便中に排泄され、水や食物を通じて広がります。特に、飲料水が汚染されている地域や、衛生状態が整っていない地域での感染が多い傾向にあります。

B型肝炎ウイルス

B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して伝搬します。具体的には、感染者との性行為や注射器の共有、母子感染などによって感染することがあります。また、医療機関での不適切な処置が原因で感染するケースもあります。

C型肝炎ウイルス

C型肝炎ウイルスは主に血液を介して伝搬します。ウイルスで汚染された注射器の共有や不適切な医療器具の使用、輸血などが原因になることがあります。

D型肝炎ウイルス

D型肝炎は、B型肝炎ウイルスに感染している場合にのみ感染します。B型肝炎ウイルス感染中にD型肝炎ウイルスの感染者と性行為を行ったり、D型肝炎ウイルスで汚染された血液に触れたりすることで感染します。

E型肝炎ウイルス

E型肝炎ウイルスは、水や食品を介して広がります。特に、衛生状態が悪い地域での感染が多いほか、ウイルスを保有する動物の生肉を食べることでも感染することがあります。

ウイルス性肝炎の前兆や初期症状について

ウイルス性肝炎を発症しても無症状で経過することがあります。しかし、無症状で経過しても病状は進行するため、何らかの症状を認める時には既に肝機能の悪化が進行していることがあります。
初期症状は感染したウイルスの種類によっても異なり、主に以下のような症状がみられます。

A型肝炎の初期症状

2〜6週間の潜伏期間を経て以下のような症状が現れます。

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 食欲不振
  • 悪心・嘔吐
  • 腹痛
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)

これらの症状は、通常数週間から数ヶ月程度続くことがあります。しかし、多くの場合自然に軽快します。

B型肝炎の初期症状

2ヶ月〜5ヶ月の潜伏期間を経て以下のような症状が現れます。

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 黄疸
  • 関節痛
  • 皮膚のかゆみ

B型肝炎は、急性期を過ぎると症状が慢性化することがあります。慢性化すると肝臓が硬くなる「肝硬変」や肝臓がんの発症リスクが高まります。

C型肝炎の初期症状

2ヶ月〜6ヶ月の潜伏期間を経て以下のような症状が現れます。

  • 倦怠感
  • 食欲不振
  • 軽度の黄疸
  • 筋肉痛
  • 関節痛

C型肝炎は無症状で経過することもあります。しかし、慢性化のリスクがあり、肝硬変や肝がんに進展する恐れがあるため注意が必要です。

D型肝炎の初期症状

1ヶ月〜6ヶ月の潜伏期間を経て以下のような症状が現れます。

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 黄疸

D型肝炎は、B型肝炎と同時に感染したり、重複感染したりすることがあります。いずれの場合にも、B型肝炎単独の発症時よりも重症になる傾向があります。

E型肝炎の初期症状

2週間〜6週間の潜伏期間を経て以下のような症状が現れます。

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 食欲不振
  • 悪心・嘔吐
  • 黄疸
  • 腹痛

E型肝炎はA型肝炎と似た症状を呈することがあるものの、重症化したり致命的な状態に陥ったりすることもあります。特に妊娠後期の人が感染した場合には重症化するリスクが高く、命に関わることもあるため注意が必要です。

ウイルス性肝炎の検査・診断

肝炎ウイルスへの感染を特定したり肝機能を評価したりするため、血液検査や画像検査、肝生検などが行われます。

血液検査

血液検査では、ASTやALT、ビリルビン値などの肝機能を示す項目を確認します。また、
原因となるウイルスの抗体(HAV抗体、HBs抗原、HCV抗体など)を検出して感染の有無を確認するほか、血液中のウイルス量を測定して感染の程度を評価します。

画像診断

画像診断では、肝臓の状態を詳しく調べたり肝硬変や肝がんの評価をしたりするため、超音波検査やCT、MRI検査などが行われます。

肝生検

肝生検とは、肝臓の組織を一部採取して細胞の状態を顕微鏡で調べる検査です。ウイルス性肝炎の進行度や肝硬変、肝がんの評価などのために行われます。

ウイルス性肝炎の治療

原因となるウイルスの種類や症状の重さに応じた治療が行われます。

A型肝炎の治療

A型肝炎は多くの場合自然に軽快するものの、中には重症化するケースもあるため一般的には入院にて経過を観察します。入院中は安静にし、血液検査データを確認しながら重症化の有無を確認します。不快な症状がみられる場合には、症状を和らげるための薬物療法が行われます。

B型肝炎の治療

B型肝炎の治療では、入院のうえ薬物療法が行われます。薬物療法では、免疫によってウイルスの活動を抑える「インターフェロン」と、ウイルスの増殖を抑える「拡散アナログ製剤」が用いられます。

C型肝炎の治療

C型肝炎では、体内からウイルスを排除するための薬物療法が行われます。
従来はB型肝炎と同様インターフェロンが用いられていたものの、近年ではインターフェロンフリーの薬剤が広く用いられています。

D型肝炎の治療

D型肝炎の治療は、B型肝炎の治療に加えて行われます。主にインターフェロンが用いられるものの、治癒が困難であるほか、治療中止後に再発するリスクもあります。そのため、通常は長期間の治療を要します。

E型肝炎の治療

E型肝炎は通常自然に治癒するものの、重症の場合や妊娠中の場合は入院治療が必要なケースもあります。E型肝炎ウイルスに有効な薬剤は存在しないため、症状の管理が中心に行われます。

ウイルス性肝炎になりやすい人・予防の方法

以下に該当する人はウイルス性肝炎を発症するリスクがあるといえます。

  • 衛生状態の悪い地域への渡航歴がある
  • 医療従事者
  • 他人と注射器を共有している
  • 不特定多数のセックスパートナーがいる
  • 肝臓疾患の既往歴がある

A型・E型肝炎ウイルスは衛生管理の行き届いていない地域で経口感染する可能性があります。渡航中は不衛生な水を飲んだり生肉を食べたりしないよう注意し、手洗いなどの感染対策を行いましょう。

また、A型・B型肝炎ウイルスに対してはワクチン接種が有効であり、特に感染リスクの高い医療従事者や旅行者、重症化リスクの高い新生児への接種が推奨されています。

C型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染するため、不衛生な器具を使用しての入れ墨、ピアスの開通などは注意が必要です。

このほか、不特定多数のパートナーとの性行為を避け、適切にコンドームを使用することでB型・D型肝炎ウイルスの感染予防が期待できます。


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