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膵臓がん
岡本 彩那

監修医師
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)

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兵庫医科大学医学部医学科卒業後、沖縄県浦添総合病院にて2年間研修 / 兵庫医科大学救命センターで3年半三次救命に従事、近大病院消化器内科にて勤務 /その後、現在は淀川キリスト教病院消化器内科に勤務 / 専門は消化器内科胆膵分野

膵臓がんの概要

膵臓がんとは膵臓にできるがんの病気です。膵臓は胃の後ろにある細長い形をした臓器で、右側から膵頭部・膵体部・膵尾部で構成されています。また、膵臓全体には膵管と呼ばれる細い管が通っています。
膵臓がんは一般的に膵臓の膵管にできるがんです。膵臓では食べ物の消化を助ける膵液・血糖値を下げるインスリンと呼ばれるホルモンを分泌し、作られた膵液は膵管を通って、隣接している十二指腸に注がれます。そのため膵臓がんになると、膵臓の機能が低下し血糖値や消化吸収に影響を及ぼします。
一般的にがんは腫瘍が大きくなってから転移しやすくなりますが、膵臓がんは腫瘍が小さくても膵臓周辺のリンパ節や肝臓に転移しやすいため注意が必要です。また、初期の段階では症状が出にくく早期発見が難しいといわれています。進行すると食欲不振・腹部膨満感・背中や腰の痛みなどの症状が現れるほか、糖尿病を発症する場合もあります。
膵臓がんは手術ができても5年生存率は約10〜30%と、治療が難しい病気です。日本で発症する膵臓がんは増加傾向にあり、年間約3万人が膵臓がんで亡くなっているといわれています。また、60代や男性の方が発症しやすい傾向にあります。

膵臓がんの原因

膵臓がんの原因は糖尿病や肥満などの生活習慣病、飲酒や喫煙などが挙げられます。

また、慢性膵炎や膵管内乳頭粘液性腫瘍を発症したことがある、ご家族に膵臓がんを患った方がいる場合は膵臓がんのリスクが高いといわれています。

膵臓がんの前兆や初期症状について

膵臓がんは発症してもすぐに症状が現れにくく早期発見が難しいとされています。進行すると以下のような症状が現れます。

  • 腹痛
  • 食欲不振・体重減少
  • 黄疸
  • 糖尿病

それぞれの症状を確認し、症状があった場合には消化器内科を受診しましょう。

腹痛

膵臓がんは発症すると、膵液が集まる膵管が詰まり拡張してしまいます。膵管が拡張すると、内部の圧力が上昇し膵臓に炎症が起こり腹痛や発熱が生じます。

食欲不振・体重減少

また、食欲不振や体重減少も膵臓がんの症状の1つです。膵管の拡張により周辺の臓器が圧迫され食欲不振となり、食事が摂れなくなり体重減少を招いてしまいます。膵管が詰まってしまうことで、膵液が分泌されず消化吸収能力が低下します。そのため、栄養素が十分に取り込めず体重減少につながるケースもあるでしょう。

黄疸

膵管の拡張は肝臓で作られた胆汁を十二指腸に運ぶ胆管にも影響を及ぼし、黄疸が生じるケースも少なくありません。黄疸は血液中のビリルビンが増加して、皮膚や目が黄色くなる状態です。ビリルビンは赤血球の黄色い成分で、赤血球が古くなるとビリルビンが出て肝臓で処理され胆汁として排出されます。胆管が圧迫されると胆汁の流れがさまたげられ、排出されず全身が黄色くなってしまいます。尿や目の色が黄色くなったら早めに医療機関を受診しましょう。

糖尿病

膵臓がんになると膵臓の機能が低下し、糖尿病の発症や悪化を招くことがあるため、注意が必要です。膵臓は血糖値を下げるインスリンを分泌しています。しかし、機能が低下するとインスリンが分泌されにくくなり、血糖値が不安定になったり血糖値が上昇したりする場合も少なくないとされています。

膵臓がんの検査・診断の検査・診断

膵臓がんを発症していると疑われる場合は、以下のような検査を行い診断します。

  • 血液検査
  • 超音波検査
  • CT検査
  • MRI検査
  • 超音波内視鏡検査
  • 内視鏡的逆行性胆管膵管造影
  • 病理検査
  • PET検査
  • 審査腹腔鏡

まず、血液検査や超音波検査の結果から膵臓がんが疑われる場合は、CT検査・MRI検査・超音波内視鏡検査を行います。これらの検査でも診断ができない場合は、内視鏡的逆行性胆管膵管造影や病理検査を行います。

内視鏡的逆行性胆管膵管造影とは、膵管と胆管の出口になる十二指腸乳頭に造影剤を注入し、膵管や胆管をX線撮影する検査です。

また、がんの進行程度を診断するのに、ブドウ糖を使用して検査するPET検査、腹腔鏡を挿入してお腹のなかを観察する審査腹腔鏡を行うことがあります。

膵臓がんの治療

膵臓がんの治療は、がんの進行程度や体の状態など患者さん1人ひとりに合わせて、治療法を選択します。膵臓がんの治療法には以下の方法があります。

  • 手術
  • 薬物療法
  • 放射線治療
  • 緩和ケア

膵臓がんでは手術が可能かどうかを調べます。手術が可能であれば、手術のみもしくは手術と薬物療法を組み合わせて行うことが少なくありません。

手術ができない場合は、薬物療法や放射線治療を行います。また、必要に応じて緩和ケアも行います。それぞれの治療法を詳しく以下で確認しておきましょう。

手術

手術は膵臓がんを完治させるのが期待できる治療法です。膵頭十二指腸切除術・膵体尾部切除術・膵全摘術があります。膵頭十二指腸切除術は、膵頭部中心にがんがある場合に十二指腸、胆管、胆のうを含めて膵頭部を切除する手術です。切除後は、膵液が小腸に流れるように残った膵臓と小腸をつなぎ合わせます。膵体尾部切除術は、体の左側に位置する膵体尾部にがんがある場合に行う手術です。膵体尾部だけではなく、隣接している脾臓も一緒に切除します。また、膵全摘術はがんが膵臓全体に広がっている場合に行う手術です。膵臓がなくなるため、インスリンなどのホルモンや消化酵素が分泌されなくなり糖尿病や消化吸収障害などが起こります。そのため、インスリンや消化剤を服用する必要があります。

薬物療法

膵臓がんの薬物療法では、主に細胞障害性抗がん薬を使用します。細胞障害性抗がん薬とは、細胞が増殖する仕組みを抑制してがん細胞を攻撃する薬です。がん細胞だけではなく正常の細胞も攻撃してしまうため、吐き気や脱毛などの副作用が生じます。また、状態によってはたんぱく質を標的としてがんを攻撃する分子標的薬、免疫ががんを攻撃する力を保つ免疫チェックポイント阻害薬を使用する場合があります。それぞれの薬によって副作用があるため、治療する前に担当医師に確認しましょう。

放射線治療

放射線治療とは、がんの部分に放射線を当てて治療する方法です。膵臓がんの放射線治療には、薬物療法を組み合わせて行う化学放射線療法、手術ができず転移がある場合に痛みを和らげるのに行う治療があります。薬物療法と同じく副作用があるため注意が必要です。副作用の症状や程度は個人差がありますが、一般的に吐き気や食欲不振などが挙げられます。

緩和ケア

膵臓がんの治療では緩和ケアも欠かせません。膵臓がんをはじめ、がんになると、将来の不安や治療の辛さなどメンタルにも影響を及ぼします。このような精神的な辛さや副作用を緩和させるために行う治療が緩和ケアです。具体的には痛みがある場合は鎮痛薬を服用する、がんによって消化管が狭くなった場合はステントと呼ばれる器具を入れて通りやすくするなどを行います。緩和ケアは病院だけではなく自宅でも受けることが可能です。がんになったことによる辛さは個人差があります。1人で抱え込まずに担当医師などに相談しましょう。

膵臓がんになりやすい人・予防の方法

膵臓がんになりやすいのは、家族で膵臓がんになった人がいることや、糖尿病や慢性膵炎を発症していることがリスク要因として挙げられます。

また、喫煙や飲酒なども膵臓がんのリスクを高めるといわれています。そのため、普段から喫煙している方や飲酒習慣がある方は膵臓がんになりやすいでしょう。

膵臓がんだけではなくがん全般にいえることですが、予防するためにはバランスのよい食事・禁煙・節度ある飲酒などが大切です。特に喫煙している男性は禁煙が効果的とされます。

また、定期的な検診を受けることで早期発見につながります。少しでも気になる症状があれば医療機関を受診しましょう。


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