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歯周病と唾液の関係〜唾液の働き〜

 更新日:2023/03/27

こんにちは。メープルデンタルクリニック大久保の剣持正浩(日本歯周病学会認定医)と申します。
患者様から、「最近、唾液がすくなくなってきた気がするのですが、なにか問題はありますか?」、「唾液が減ると歯周病にかかりやすくなりますか?」と質問を受けることがあります。
質問に答えるならば、唾液が少ないのは、口の中の環境としてはあまり好ましくはありません。それはなぜでしょうか?
そこで今回は、実は口の中で大活躍している唾液についてお話しさせていただきます。

 唾液の働き

みなさん、ご存知でしょうか?
1日にでる唾液の量は、およそ1〜1.5リットルと言われています。500ミリリットルのペットボトルが2〜3本と考えると相当な量の唾液がでているのがわかります。食事などによる明らかな刺激によって出る唾液を刺激唾液といい、とくに明らかな刺激がなくても出る唾液を安静時唾液といいます。しかし、寝ている間はわずかしか唾液はでておらず、およそ20ミリリットル程度です。だから、朝起きた時は口の中が乾燥している状態になります。
また、口の中に貯まった唾液を全唾液(混合唾液)といい、これに対して、唾液腺から出るものを純粋唾液といいます。
唾液がどんな役割を担っているのかを考えたり、自分で調べたりしたことがある方はいらっしゃるでしょうか。自分も歯科医師でなかったら、小さい頃に祖母や祖父に言われた「足や手を擦りむいたら、つばをつければ治る」ぐらいのイメージしかなかったかもしれません。
しかし、口の中に貯まった唾液は口腔内環境液として、たえず歯および歯周組織と接触し、虫歯や歯周病の発症や予防に大きく関与しています。
つまり、唾液は人知れず口の中や歯を守ってくれる、いろんな作用があるのです。
では、唾液の口の中における主な働きについてみていきましょう。
 

  • 潤滑作用

歯ぐきや歯や粘膜を潤し傷つかないようにしたり、咀嚼・嚥下・発音を円滑にする作用です。
 

  • 粘膜保護作用

唾液の成分の中にあるムチンと呼ばれる糖タンパクが、粘膜を刺激から保護します。
 

  • 歯の保護作用

唾液内の糖タンパクにより歯の表面に形成されるペリクルによって、歯を保護します。
 

  • 洗浄作用

食べカスを洗い流すことで、口の中に停滞するのを防ぎます。つまり、唾液が少ないと虫歯の発生率はあがります。
 

  • 緩衝・希釈作用

食事などによる口の中の酸やアルカリを中和し、pH値を正常に保つことにより、歯が溶けるのを防ぎます。また、低温や高音などの食べ物の希釈作用もあります。
 

  • 殺菌・抗菌作用

唾液には分泌型免疫抗体などによる殺菌・抗菌作用があります。
 

  • 消化作用

唾液中のアミラーゼといわれる消化酵素が、食物に含まれるデンプンを糖に変えます。
 

  • 凝集作用

唾液に含まれるタンパクで細菌を集めます。
 

  • 排泄作用

体内に取り込まれた薬物や化学物質などが唾液中に排泄されます。
 

  • その他

内分泌作用や体液量の調節など
 
以上のように、唾液は非常に重要な働きをしているのがわかります。
では、どこから唾液は出ているのでしょうか?
 

 唾液はどこから?

大唾液腺と呼ばれる耳下腺・顎下腺・舌下腺と小唾液腺から唾液が分泌されます。
 

  • 耳下腺

耳の前下方に位置していて、上顎第一大臼歯または第二大臼歯の高さの頬粘膜乳頭部から唾液を分泌します。もっとも大きい唾液腺で、唾液の分泌量は2番目に多く、さらさらした漿液性の唾液を分泌します。
 

  • 顎下腺

顎二腹筋と下顎骨に囲まれ、顎舌骨筋を床とする顎下三角に位置していて、舌小帯の舌下小丘上の乳頭部から唾液を分泌します。2番目に大きい唾液腺で、唾液の分泌量がもっとも多く、漿液性の唾液とネバネバした粘液性の唾液を分泌します。
 

  • 舌下腺

顎舌骨筋上で下顎骨内面に位置して、舌下ヒダから唾液を分泌します。大きさも分泌量も一番少なく、漿液性よりも粘液性の唾液を分泌します。
 

  • 小唾液腺

小唾液線は歯ぐきや硬口蓋を除くすべての口腔粘膜に分布していて、口唇腺・頬腺・臼歯腺・口蓋腺・舌腺がある。
 
口の中には唾液がでる出口がいたるところに多くあることがわかります。
唾液自体は口の中で大活躍しているのですが、唾液の出口がある下顎の前歯の裏側(顎下腺や舌下腺の開口部)と上顎の奥歯の表側(耳下腺開口部)には、歯の表面に歯石ができやすいです。歯石は、唾液中のカルシウムやリンなどの成分とプラークが結びつくことによって、石のように固くなってしまった状態です。歯石は細菌のすみかになって、虫歯や歯周病を引き起こします。唾液腺開口部に近いところは、歯石ができやすいため注意しましょう。
 

 唾液とう蝕(虫歯)

唾液の量が減少すると、洗浄作用が少なくなり、食べ物が口の中にとどまりやすくなります。また、飲食物によりpH値が低くなった(酸性に傾いた)状態を中和させる作用が弱くなり、元の状態に戻らなくなってしまい、歯の表面が溶け出す状態(エナメル質の脱灰)が進んでいきます。さらに、唾液が減少するということは、抗菌物質や唾液中の糖タンパク質が減少することになります。糖タンパク質が減少すると歯の表層のエナメル質にあるハイドロキシアパタイトと結合することによってできる歯を保護するペリクルも形成されにくくなることで、口の中の環境は菌に弱くなります。
つまり、唾液には洗浄作用や殺菌・抗菌作用、緩衝作用などがあり、虫歯の発生を防止するのに大きく役立ってはいます。唾液分泌量が減少してしまうシェーグレン症候群では、上記の効果は著しく減少してしまい、虫歯は発生しやすくなります。
 

 唾液と歯周病

歯周病の発生は、歯石の沈着と大きく関係しています。歯石は、唾液中のカルシウムやリンなどの成分とプラークが結びつくことによって、石のように固くなってしまった状態です。特に唾液の開口部付近は、プラークが付着していると歯石ができやすいため、日々のブラッシングが大変重要です。
また、唾液中の免疫グロブリンであるIgAは、病原体の歯肉粘膜への付着を防止し、歯周疾患の発症を防止します。
虫歯と同様に、唾液が減少すれば、洗浄作用が少なくなり、食べ物が口の中にとどまりやすくなります。そうなると歯周病の主な原因であるプラークができやすくなります。

 まとめ

実は口の中で大活躍している唾液についてお話しさせていただきました。唾液の減少は、虫歯や歯周病の発症リスクを高めますので、「口の中がよく乾く」などの自覚症状があれば、一度、専門知識のある歯周病専門医や認定医がいる歯科医院を受診してみましょう。

この記事の監修歯科医師