「ホリエモン×峰宗太郎医師」オンライン対談(後編) 新型コロナ収束へ進むべき道

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の発令からおよそ1か月。5月に入り新規感染者の数は減少傾向にあるものの、いまだ終息への道筋は見えず、外出自粛や営業自粛が求められるなど、多くの人が厳しい生活を強いられています。
このような状況が続くなか、4月末に実業家の堀江貴文氏とウイルス学を専門にされている米国研究機関の峰宗太郎氏によるオンライン対談が実現し、治療薬の効果や終息のタイミング、取るべき政策などについて議論が交わされました。
※この記事は対談後編となります。前編は下記よりご覧いただけます。

実業家
堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)

米国研究機関 博士研究員
峰 宗太郎(みね・そうたろう)
医師の目から見たCOVID-19対策
堀江
知人の病院経営者から、COVID-19の患者さん以外は、病院に来なくなったという話を聞きました。開店休業状態の病院を新型コロナウイルス専門病院にするような施策は必要だと思いますか?
峰
感染対策はなかなか難しいものなのですが、COVID-19を診療する病院、病棟は分けた方がいいですね。
堀江
医師であれば、専門外でも感染症に対応できるものなのでしょうか?
峰
今回のCOVID-19のように、感染症の集団感染が起こる事例は、訓練していないと難しいと思います。病院内に感染者を隔離出来る病室・病棟も必要ですし、医師の他にも、感染症に精通した看護師がいるということも重要なポイントです。そう考えると、すべての病院で対応するのは難しいでしょうね。
堀江
医療崩壊を防ぐために、さまざまな国でロックダウンや自粛が行われていますが、医療のリソースを増やす現実的な方法はありますか?
峰
ニューヨークやロンドンのように野営病院、コロナ専用病院を作り、患者を一箇所に集約してしまうのは一つの手ですね。東京は、今はまだ大丈夫かもしれませんが、今後感染爆発が起きた場合には、施設を確保する必要が出てきますし。
堀江
都内のホテルをCOVID-19軽症患者向けに使う方針のようですが、この辺はいかがでしょうか?
峰
最近は、自宅隔離で、家族に感染させてしまうケースが増えているそうです。施設を確保して、患者の病状経過を追うこと、さらにはこれ以上感染を広げないために施設を作るというのは、感染拡大防止に有効だと思います。
堀江
最近、過剰な自粛ムードや誤った情報拡散が見られます。新型コロナウイルスとの長期戦の様相を呈してきていますが、どのような感染対策をすればいいのですか?
峰
感染症対策の基本的な原理を守るのは大切ですが、しっかりと線を引くことは難しいですよね。感染症対策をやりすぎると経済が止まってしまいますし、自粛生活が続くと、メンタルに悪影響を及ぼしてしまうこともあります。一方で、感染症対策を緩くすると、感染者が増えてしまう。さじ加減は難しいですよね。多くの人がどこまで自粛をすればいいかわかってくるという状況が整うことは必要ですよね。
堀江
ベトナムやマカオでは、新規感染者がゼロになりました。ロックダウン解除の動きも出てきています。一方、日本の病院では、COVID-19の症状がない患者さんにPCR検査をしたところ、無症状だけど感染しているというケースもあったそうです。いま、感染が増えている状況があるなかで、感染者ゼロというのは実現可能なのでしょうか?
峰
もう新規の感染者をゼロに収めるのは無理です。考えられないですよね。感染が広がること自体は、ある程度許容しつつ、感染爆発が起こらない状態を持続させる。医療崩壊を招かないようにするというのが、現実的な目標でしょうか。
ベトナムとかマカオの感染が収まったのは、人の動きが止まっていて、国のなかではうまく統制が取れたということが大きいと思います。しかし、現時点では上手くいっていても、国際的なやり取りや人の移動が増えていくと、また感染者が増えてしまう可能性もあるので、ウイルスに対する警戒は今後も必要になると思います。
集団免疫? ワクチン? 新型コロナウイルス騒動収束へ進むべき道
堀江
新型コロナウイルスの感染が広まってきていますが、免疫を獲得して抗体ができるメカニズムも、わかっていないんですよね?
峰
ある程度、抗体が出来ることはわかってきました。しかし、できた抗体が症状を防御できる「中和抗体」ができるか、免疫が十分な量で、すべての人に出来るのかどうか、また、抗体がどのくらいの期間維持されるのかなどについては、まだまったくわかっていません。
堀江
十分な抗体量が体内にできていないのに、ウイルスがなくなるというのはどういうことですか?
峰
抗体は、B細胞が担う抗体の「液性免疫」によって生まれるのですが、それとは別に、ウイルスを排除するT細胞が、ウイルス細胞の増殖を防いだり、破壊して病原体を排除する「細胞性免疫」という反応もあります。なので、「抗体」だけが病原体を排除するわけではありません。私達の身体内にあるさまざまな免疫反応が作用して、病原体が排除されます。
堀江
感染者のうち一定程度の人には抗体もできている。しかしその一方で、ウイルスを排除していても、抗体が出来ていない人もいるかもしれないということですかね?
峰
そうですね。それぞれの割合はわかりませんが、可能性はありますね。
堀江
インフルエンザウイルスと比較したときに、新型コロナウイルスはどのような特徴がありますか?
峰
インフルエンザは変異が早く、タイプもたくさんある難しいウイルスです。さまざまなインフルエンザウイルスがあるので、抗体が対応できないケースもありますね。
このような変異は、新型コロナウイルスでも起こる可能性もあり、まだ注意しながら研究を続けているという段階です。
堀江
新型コロナウイルスのスパイクタンパク質が、インフルエンザより変異しにくいのではないかというお話もありましたが?
峰
その通りです。スパイクタンパク質がレセプターという相手とくっつく場所(RBD)があるのですが、変わりにくい方が、ウイルスにとっても都合がいいんです。将来的にはRBDに対する免疫反応によって中和抗体が出来て、ウイルスの変異に強い有効な抗体であると証明されていく可能性もありますね。
堀江
ウイルス感染を収束させる方法の一つには、集団免疫の獲得があると思います。でも、新型コロナウイルスでは感染したにもかかわらず、免疫がないという方もいる。皆さんが不安を抱えられているこの状況の収束を,どのように評価すれば良いのでしょうか?
峰
集団免疫だけで収束させる場合には、既感染患者が全人口の6〜7割になり免疫を持っている状態が必要だと言われています。
堀江
この新型コロナウイルスに対する免疫が出来るか、そしてどのくらいの期間持ち続けられるかが今後の課題ですね。
峰
実は、風邪のような症状が出る「旧型の」コロナウイルスで、抗体を持っている期間を測る実験が1990年代に実施されたことがあるのですが、その結果は、7〜8ヶ月でした。
これはインフルエンザのように、毎年感染を予防するために予防接種をしないといけない状態。旧型コロナウイルスの実験結果を見ると、自然感染だけで集団免疫を獲得できるかどうかについては、疑問が生じますね。
堀江
そうなると、毎年ワクチンを開発することが必要になるのでしょうか? それまでは収束が難しい?
峰
そうですね。ワクチンも集団免疫と同様に、感染を抑えるための方法ですね。集団免疫の6〜7割という数値だけではなく、持続可能な対策かどうかということも含めて、検討していくことが必要になります。
堀江
つまり、当面は先行きが不透明な状況が続くということですか?
峰
そのとおりです。「サイエンス」という雑誌にもハーバード大学の研究チームの見解が掲載されましたが、ワクチンが開発されないと、2022年頃までは、今推し進めている「ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)」のような、人同士が距離を保つ社会が続くと予想されています。
堀江
そんなに長い期間、このままの社会を維持するのは難しいですよね。「2年間誰とも会うな」と言うのは、刑務所に入るのと似たようなものですし、一般の人には辛いと思います。
峰
おっしゃるとおりですね。現在のような強度の対策を続けていくのは難しいです。結局のところ、どのくらい感染爆発を抑えるか。現在のような強度の政策で爆発的な感染を抑えた後に、何をしていくか。今後の方針をきちんと考えないといけないと思います。
もし今後、医療崩壊が起こった場合、一番困るのはCOVID-19以外の病気にかかっている患者さんです。現在、COVID-19の拡大により、手術が延期になっている患者さんもいらっしゃいますからね。集団感染やクラスターを抑えていくことがまずは大切ですが、感染患者をいきなりゼロにすることは難しいと思います。ワクチンが開発されるまでは、根拠を示しながら、医療現場、社会・経済の舵取りをし、感染対策をしていく。それが大事だと思います。
堀江
今の日本には、「新型コロナウイルスに感染したら『村八分』にされるから、絶対感染できない」とお話されている方もいます。でも、社会生活を送る以上、どうやっても感染リスクをゼロには出来ないと思います。どう情報を伝えればいいと思いますか?
峰
病気の怖さを伝えすぎても、過剰反応によって社会が持たないと思います。なので、多くの人に正しく病気を理解していただいて、病気を抑えることが大切かなと思います。
堀江
いまの日本のマスメディアの現状だと、「今日は感染者が何人です」とか、「残念ながら有名人がお亡くなりになりました」といったような、パニックになるニュースばかりが放送されています。この状況を見ていると、社会が落ち着くのにはまだまだ時間かかるかなと思うんですが。
峰
現段階では、感染してしまった後に重症化、もしくは死亡する可能性については、「運」のような要素があります。高齢者が比較的重症化しやすいと言われていますが、年齢が若くても重症化してしまう人もいる。まずは重症化を防ぐ方法を見つけられるかどうか。あとは開発途上の薬や予防ワクチンの開発です。こればかりは、実験結果や開発を待ちつつ、現時点で出来る感染対策を考える必要がありますね。
堀江
日本でも緊急事態宣言が出されています。社会が動かない状況は、5月以降も続く必要があるのですか?
峰
そうですね。やっと感染患者数がフラットになりつつある米国も、少なくともあと1ヶ月間はシャットダウンが続く状況ですし、感染者の減少傾向が見えていない日本でも、当分は社会が閉じている状況が続くという認識を持っていただく必要はありますよね。
堀江
アルバイトやフリーランスの方など、来月の生活が想像できていないような状況にいらっしゃる方も多いですし、問題ですよね?
峰
相手が人ではなくてウイルスとの戦いなので、政府が主導となって、社会が出来ることをやるということしかないと思います。
堀江
わかりました。先生、今回も貴重なお話ありがとうございます。皆さんの役に立っていると思いますので、引き続き宜しくお願いします。
峰
ありがとうございました。
編集後記
今回の取材で最も印象的だったのは、堀江氏の社会に対する洞察力。日頃TwitterなどのSNSを駆使したコメントが度々話題になっている堀江氏だが、その言葉の裏にある社会全体を鋭く冷静に見つめる視線が垣間見えました。
新型コロナウイルス感染症対策と経済政策。今後も相反する2つの要素をふまえた難しい舵取りが、日本には求められることになるでしょう。特効薬やワクチン開発にも期待を寄せつつも、正しい知識を持ちながら新しい社会のあり方を模索していかなければならない時期に来ているのかもしれません。
前編>>治療薬の最新動向と感染拡大の理由
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