がんを撲滅するために、元気で働く世代が考えるべきこと[Vol.1 ~日本の予防医療は、異常なほど遅れている]

Introduction

日本の医療制度は、遠からず破綻を迎えかねない。多大な医療費負担が、もはや限界を迎えているからだ。その一方、国立病院機構函館病院の間部克裕医師によれば、主要ながんの多くは未然に防止することができるという。いわゆる「がん検診」の有効活用だ。しかし、がん検診の受診率は1割前後と低迷し、本来の機能を十全していない。いったい、どこに原因があるのだろう。医療界の現実と最新事情について、過日、都内でおこなわれた間部先生の医療関係者に向けた講演を収録した。

Profile

間部 克裕先生

監修医師 間部 克裕(予防医療普及協会)

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山形大学医学部卒業、山形大学大学院卒業医学博士課程修了。山形県立中央病院内科医長、KKR札幌医療センター消化器科医長、北海道大学大学院がん予防内科特任講師などを歴任後、現在では、国立病院機構函館病院消化器病・がん予防センターの各センター長と消化器部長に就任。消化管疾患の診療とがん予防に関する活動・研究を続けている。医学博士。日本内科学会認定内科医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・学術評議員、日本消化器病学会専門医、日本消化管学会・専門医・指導医、日本消化器がん検診学会認定医、日本ヘリコバクター学会Hp感染症認定医。

死亡者数が一向に減らない消化器系がんの謎

監修医師 間部 克裕(予防医療普及協会)

医療崩壊は、すでに始まっている

きょうは、主にがんの予防についてお話しさせていただこうと思います。北海道の医療現場へ10年以上携わっていて感じるのは、「医療崩壊が現実に起こっている」ということです。北海道の二次医療圏のうち、札幌市周辺と旭川市周辺だけが全国平均と同等以上の医師数で、そのほかの地域では、大幅に少なく十分な医療が提供できていません。

 

また、高齢化社会による医療費の増加も大きな問題です。日本の医療費は2017年の段階で42.2兆円。同年の税収は57.7兆円ですから、「医療費が税収の7割以上を越えている」という異常な姿なんですね。社会福祉費も含めて考えると、消費税を2%上げたところでたかだか知れています。このままではいまの「国民皆保険制度」は維持できないでしょう。

医療費の増加 予防の充実必須

「国民皆保険制度」が素晴らしい制度であることは間違いありません。ただ、同制度があるために、そこへ甘えすぎている側面もあるのではないでしょうか。がんに関して言えば、「症状のないうちに守る」という意識が、国民の間に根付いていません。症状が出てから受診し、進行した状態で発見され手遅れになり医療費も高額になってしまう。この状態が続いてしまっている。

韓国の医療実態と比較して見えてきた視点

先日、たまたま韓国で講演の依頼があり、日本の予防医療が異常なほど遅れていることに気づかされました。韓国は内視鏡検診で世界トップクラスの実績を誇ります。それだけ成功していてもまだ充実させたいということで、ピロリ菌対策などについて話してきました。

 

詳しい内容は後述しますが、医療を必要最低限なポイントに集中すべきではないかと感じています。まずは予防と福祉の充実で医療費を削減し、あわせてセルフメディケーション(※1)やポリファーマシー(※2)の在り方を是正していく必要があるでしょう。

 

医療というと高齢者に着目されがちで、現役世代の「心の問題も含めた健康」をサポートする仕組みが足りていません。もっと医療をコンパクトにして、健康な人が健康で笑顔でいられる、そのための健康サポートを広げることが必要とされているように思います。

編集部注
(※1)セルフメディケーション
2017年1月から施行された「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」の適用薬品。OTC医薬品とも呼ばれる。従来の控除額とは異なり、年間購入額が「合計1万2000円」を超えた場合に医療費控除が受けられる。

(※2)ポリファーマシー
薬の多剤や併用のこと。近年、処方された薬がのみきれず大量に残される事態や、薬ののみあわせによる弊害などが問題視されている。

“データ”を検証できない、日本の医療制度のゆがみ

日本はがんのみならず、ワクチンで予防できる病気の対策も遅れています。その原因は、主に3点あると考えています。

 

1点目は、「ナショナルデータが整備されていないこと」。検診やワクチンを受けた人の医療費が削減されているのか、あるいは本当に病気やがん、それによって亡くなる人が減っているのかといった効果を追えないのです。

 

2点目は、「専門的な理想を追いすぎるため規則や決まり事が多く、ワクチン接種率や検診受診率そのものを低くしていること」。広く普及させることで効果があるワクチンや検診の目的が消え、プロセスの中身に終始していないでしょうか。結果、日本独自のガラパゴス検診やガラパゴスワクチンになってしまっています。

 

3点目は、「こうした世界標準とのズレが世の中に周知されていないこと」。専門家だけが知っていて議論しても仕方がないですよね。こうした点から、日本の予防医療が“うまく機能していない”と感じています。

なぜ、がんによる死亡者は減らないのか

そもそも、がん検診があるということは、受診すれば防げるがんがあるということです。とくに胃がんと大腸がんは、早期に発見できれば全員が助かる病気と言っても過言ではありません。

 

ところが、胃がんと大腸がんの死亡者数を見ると、2014年の段階で合計約10万人です。ほかのがんによる死亡者をあわせると、年を追って右肩上がりとなっています。これだけ多額な医療費が使われているということです。

胃がん死亡、大腸がん死亡で毎年10万人!

胃がんと大腸がんは「内視鏡で早期発見をすれば、ほぼ全員が助かる」とされています。なのに、大腸がんの死亡者数は、ここ50年で10倍に増えました。欧米では減少に転じているのにです。

 

がんに限らないことですが、予防は一次予防と二次予防の2種類にわけられます。一次予防とは「病気にさせない予防」のこと。食事や運動といった生活習慣の改善が典型ですが、これはなかなか難しい。また、一次予防で100%防げるわけではありません。

 

二次予防は、「早期発見と早期治療開始による予防」のこと。発症は避けられなくても早期発見ができれば助かるという考え方です。二次予防は本来、症状がない段階で受けるものです。ところが日本では、症状が出ないと病院へ行きません。この意識差が、根本の問題ではないでしょうか。

がんの予防

ここにショッキングなデータがあるのでご紹介しましょう。通常、先進国であれば、感染症によるがんは全体の1割を切ります。ところが日本の場合、約4分の1が感染症によるがんです。官公庁には、がんの専門部署も感染症の専門部署もそれぞれあります。しかし、感染症によるがん対策をする部署がない。これが問題です。

がんの原因

もう1点。みなさん、北海道でB型肝炎にかかったことがある方、あるいはかかったと疑われる方がどれくらいいると思いますか。実は5割を超えています(会場から「エーっ」と驚きの声)。このうち多くは、肝炎は治っていますが、それでも発がんリスクは残ります。

 

また、抗がん剤や免疫抑制剤、ステロイド剤などを使うことでB型肝炎ウイルスが再活性化し肝炎が悪化し、希には劇症肝炎になることもあります。WHO(世界保健機関)が肝がん発症を抑えるためにB型肝炎のユニバーサルワクチン接種を全世界に勧告したのは1991年。日本が開始したのは2016年。実に25年も遅れているのです。

 

感染症の対策を怠ると、5割を超える感染率、こういう事態になっていくのです。放置は非常に危険だという危機感が足りないように感じます。

ごく少数の人にしか利用されていない、がん検診の実態

感染症によるがんについてですが、とくにピロリ菌の東アジア株は世界最悪といわれ、発がん性が高いことで知られています。日本人が世界へ進出していくと、それだけ当該地域のがん発症率を上げてしまいかねないのです。WHOは2014年に東アジアを想定して胃がん予防としてピロリ菌検査と除菌を検討するよう勧告しています。

 

なぜ日本はWHOの勧告をこんなにも無視できるのでしょうか。おそらく、専門家にたよった議論に終始し、勧告に対して真剣に議論しているところが少ないからではないでしょうか。感染症対策は世界レベルでおこなうものです。国内の在り方を問うレベルではありません。

二次予防=がん検診

この表は、がん検診がきちんとおこなわれているかというデータです。この数字も分母は「就業者を除いた住民の検診のみ」であるのに対して、分子には「就業者」が含まれていて、見かけ上受診率が高くなる数値です。それでも胃がん検診の受診率は10%そこそこ、大腸がんでも2割を切ります。しかも受けた方が固定化していて毎年受診しているという実態です。

 

一方、厚労省の発表した国民生活基礎調査を見ると、がん検診の受診率について3割以上高いデータが出ています。がん対策基本法により具体的な受診率が法律に規制されたため、見かけ上受診率が高い、自記式のサンプリング調査の内容にすり替えたのです。

 

繰り返しになりますが、毎年5万人の胃がん死亡者は減らないし、大腸がんに至っては増えている。対策として十分な役割を果たしているとは言えず、方法などの検証方法もあきらかではない。ここからさらに、がんの種別ごとの予防治療を見ていきます。

予防医療普及協会とは

2016年3月、経営者、医師、クリエイター、社会起業家などの有志を中心として発足。予防医療に関する正しい知見を集め、啓発や病気予防のためのアクションをさまざまな企業や団体と連携し、推進している。

これまでに胃がんの主な原因である「ピロリ菌」の検査・除菌啓発を目的とした“「ピ」プロジェクト”や、大腸がん予防のための検査の重要性を伝える“「プ」プロジェクト”を実施したほか、病気予防のための自己管理サービス「YOBO(ヨボウ)」をリリース。各診療科の専門医、歯科医など診療科や研究の専門領域を横断した医師団が集い、活動をサポートしている。

今後、「ピ」、「プ」プロジェクトに引き続き、子宮頸がん検査、HPVワクチンに関する正しい情報の発信、普及啓発を目的とした「パ」プロジェクトを実施予定。

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