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成長期の膝の痛み、もしかしたら「オスグッド病」かも?

 更新日:2023/03/27

小中学生の、とくに男子にみられる「オスグッド病」は、膝の下に顕著な痛みを伴います。原因は膝のお皿や関節の損傷なのでしょうか。なぜ、若い世代に固有なのかも含めて、その原因と対策を「所沢あかだ整形外科」の朱田尚徳先生に伺いました。

朱田尚徳

監修医師
朱田 尚徳(所沢あかだ整形外科 院長)

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富山医科薬科大学医学部医学科卒業。国内外の整形外科病院勤務ほか、Jリーグのチームドクターなどを歴任。2020年、埼玉県所沢市に「所沢あかだ整形外科」開院。理学療法士や鍼灸師とともに、チーム医療に務めている。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本体育協会公認スポーツドクター、義肢装具等適合判定医。

太ももの大きな筋肉が、膝の下につながっている

太ももの大きな筋肉が、膝の下につながっている

編集部編集部

一般に有酸素運動は「病気を遠ざける」と聞きます。

朱田尚徳朱田先生

たしかに、生活習慣病のような内臓疾患の予防には、スポーツが有効でしょう。血行が促進され、病気の原因とされる老廃物や活性酸素などを効率的に排出してくれるからです。しかし、運動器に限っていえば、運動を原因とする病気や機能不全もあります。

編集部編集部

例えば、どのような病気ですか?

朱田尚徳朱田先生

成長期の男の子に多いのが、「オスグッド病」と呼ばれる病気です。自覚症状としては、膝の少し下あたりが痛みます。太ももを動かす筋肉の下端は、膝を通り越して、すねの骨の上部に付いているのです。

編集部編集部

膝の下に大きな力が加わっているのですね?

朱田尚徳朱田先生

その通りです。例えば中学校の部活動では、小学校を卒業したばかりの中学1年生と、高校生の一歩手前である中学3年生が、部活などで同じ運動量をこなすわけです。身体のバランス感覚も十分に育っていない時期ですから、年少のお子さんほど無理がたたります。運動感覚が成熟していない場合に、運動時に要求される負荷に体を動かすタイミングがうまく合わないことで障害が起こることになります。大袈裟なイメージとしては、スマホに集中して階段を踏み外しているような運動内容といえるでしょうか。

編集部編集部

階段を踏み外すとは、どういうことでしょうか?

朱田尚徳朱田先生

我々は運動するとき、視覚や筋肉に伝わる感覚などを使いながら、無意識に身体コントロールをしています。しかし、これらの感覚が十分に発達していないと、バランスの乱れによって運動器を痛めかねません。例えば視覚が奪われると、階段を踏み外してしまいますよね。スマホの例は極端かもしれませんが、感覚が未発達な状態だと、ミニマムなレベルで同じような動作をしているのです。

編集部編集部

お年寄りの、いわゆる「膝関節の痛み」と同じですか?

朱田尚徳朱田先生

それとは少し違います。お年寄りの膝の痛みは運動感覚の低下だけでなく、膝の構造そのものが変化したことによって生じます。関節のパーツ全体が摩耗しているので、不安定にグラつくのです。このグラつきを痛みとして感じます。一方、オスグッド病の場合、パーツ全体の変化はそれほど起きていません。筋肉の付いている部分に限った炎症と考えられます。構造というより、部分的な機能障害に近いですね。

次第に増幅していく「痛かった記憶」

次第に増幅していく「痛かった記憶」

編集部編集部

オスグッド病を防ぐことはできるのでしょうか?

朱田尚徳朱田先生

可能です。着地などから受ける刺激のタイミングや方向を的確に予測できるようになれば防げます。そのためには、視覚、耳の平衡感覚、筋肉などの固有感覚、皮膚から得られる表在感覚の4感覚を総合的に高める練習が欠かせません。筋肉を付けるだけでは、バランス感覚が得られないのです。安全で効率のいい運動のためにも、これら4つの感覚を養うことも大切です。

編集部編集部

自覚症状は、膝の下の痛みですよね?

朱田尚徳朱田先生

そうです。しかし、構造的にはっきりした損傷がない場合には、周囲の理解が得にくいかもしれません。競技スポーツほど精神論や根性論が根強いこともあり、「多少の痛みでもガンバル」や「とにかく試合に出たい」といった論調が散見されます。指導者側からも「サボリの口実ではないか」といった疑いをもたれることもあるでしょう。しかし、痛みは体が発信する何らかの異常のサインですから、無理せずに整形外科などを受診してください。

編集部編集部

放置していると、歩けなくなったりしますか?

朱田尚徳朱田先生

治療を受ける前提なら、生活ができないほどの事態には至りません。しかし注意点として、痛みは「記憶として蓄積されていく」ものと考えてください。繰り返し痛みを感じ続けることで、同じ衝撃でも、前回より痛く感じてしまう傾向にあります。さらに痛みを感じることで動作への不安が強くなり、その結果運動感覚がさらに悪化する悪循環にはまることがあります。いわゆる「腰痛持ち」の方って、痛まないように、そろりそろりと歩いていたりしますよね。オスグッド病にも同じことが言えるでしょう。

編集部編集部

絶対的な「休養期間」が必要ですか?

朱田尚徳朱田先生

担当医がどこまでそのスポーツ競技を理解しているかですね。「スポーツ医」や「スポーツドクター」などの有資格者なら、スポーツを継続できる方法を検討してくれると思います。競技内容やポジションといった要素も加味してくださるはずです。しかし、一般的な医師は治療を優先するでしょう。いわゆる「ドクターストップ」がかかるかもしれません。

意外なことに、痛みは「心」が生みだす

意外なことに、痛みは「心」が生みだす

編集部編集部

とりあえず治まったとしても、再発する可能性がありますよね?

朱田尚徳朱田先生

初回の治療内容によるでしょう。痛みの緩和を目的とした湿布薬などの処方だけでは、前述したバランス感覚が養えません。そのような場合には原因となる部分が改善しないため、再発しても不思議はありません。4感覚を総合的に高める練習が適切にできていれば、早々に再発はしないと思います。

編集部編集部

重篤化や長期化した場合はどうするのでしょうか?

朱田尚徳朱田先生

刺激の程度は一緒でも、痛みは足し算で蓄積されていきますから、あらためて「引き算」が必要になってきます。根本的な治療と併せて、心因的なリハビリも同時におこなうこともあります。「思ったより痛くなかった」という成功体験を積み重ねていくことを考えます。なお、稀なケースとして膝の骨が大きく突出してしまった場合などは、手術を検討します。

編集部編集部

指導者側の接し方も難しいですよね?

朱田尚徳朱田先生

中学生くらいの年代を対象とするなら、痛みを感じる原因が「どこかに隠れている」と考えましょう。睡眠、食事、チームメイトとの仲、暑さや寒さ、家庭環境など、その内容は多彩です。単純に運動の質を見直すだけでは改善しない場合が往々にしてあります。指導者の手に負えないようなら、遠慮なくスポーツ医やスポーツドクターに相談してみてはいかがでしょうか。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

朱田尚徳朱田先生

オスグッド病に限らず長引く痛みがあったら、自分の置かれている環境を見直してみましょう。膝だけに注目するのではなく、自分のこと、学校のこと、家族のこと、友だちのことなど、幅広い視野をもってください。痛みは体の問題だけでなく、心にある原因からの警告かもしれません。ご不明な点については、スポーツに詳しい整形外科医にぜひご相談ください。

編集部まとめ

どうやら、「スポーツをしているとオスグッド病にかかりやすい」とは言えなさそうです。筋肉量の増加とあわせて、4つの感覚も養っていけば、十分に防げるでしょう。それよりも、若い世代の痛みが「心から発せられている」ことに驚きました。たしかに痛みは、脳の中にだけ存在します。形があって、取り出せるものではありません。中学生時代はナイーブな世代だけに、心身双方のケアが求められると思いました。

医院情報

所沢あかだ整形外科

所沢あかだ整形外科
所在地 〒359-0037 埼玉県所沢市くすのき台3丁目18-2 マルナカビレッジ壱番館 2階
アクセス 西武新宿線、西武池袋線「所沢駅」東口 徒歩3分
診療科目 整形外科、リハビリテーション科

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