~新型コロナ闘病体験記~ 感染症対策に“十分”はない、これだけ気をつけていても新型コロナウイルスは防げなかった!

公開日:2021/07/11  更新日:2021/07/09

約1年半という長い闘いを強いられている「新型コロナウイルス感染症」。もしかしたら、「こうすれば十分に防げる」という手応えを感じはじめている読者が、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。その一方、感染経路不明の発症が起きているのも事実です。今回、取材に応じてくださったのは、感染経路に心当たりがないという田中さん(仮称)。発症の経緯とその後の暮らしについて語っていただきました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年5月取材。

田中さん

体験者プロフィール:
田中さん(仮称)

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群馬県在住、1990年生まれ。食品製造企業に勤め、医療従事者の配偶者と2人暮らし。唾液検査により新型コロナウイルスへの感染が疑われたのは、2021年の1月末。陽性発覚の直後から味覚や嗅覚を失う。当時、保健所の指示によりホテル療養が続いたものの、現在は症状や合併症も治まり、発症以前と変わりない生活を取り戻せている。

堀野 哲也

監修医師
堀野 哲也(東京慈恵会医科大学附属病院感染症科 診療医長、感染症専門医)

※堀野先生は監修医師であり、田中さんの担当医ではありません。

考えられる可能性は「マスク越し」の商談か

考えられる可能性は「マスク越し」の商談か

編集部編集部

さっそくですが、新型コロナウイルスへの感染が判明した経緯について聞かせてください。

田中さん田中さん

仕事柄、同行することの多かった方から「感染したようだ」という連絡が入ったのがきっかけです。そこで、念のため会社に報告したうえで、自分で探したドライブスルー型の唾液検査を受けました。なお、“同行”といっても、常日頃から一緒にいたわけではありません。「顔を合わせる機会が多かった」という程度でしょうか。

編集部編集部

唾液検査の結果、陽性反応が出たということですね?

田中さん田中さん

はい。検査の翌日、知らせが来ました。検査結果は行政と共有されるらしく、すぐに保健所からも連絡が入ってくるんですね。それによると、医師の正式な診断を受けずにそのままホテル療養に入るそうで、2日間の自宅待機後、宿泊先が指定されてきました。ちなみに持病はなく、新しく赴任して間もないということもあり、かかりつけ医をもっていませんでした。

編集部編集部

外出頻度は公私含め、どれくらいの頻度だったのですか?

田中さん田中さん

まず業務面では、会社から外出自粛の指示が出ていたため、直接の面談は月に1回程度で、普段はWebを利用したリモートでの商談です。また、通勤時ですが、自宅から自家用車で移動していたので、満員電車のような人と密着する機会はほとんどありませんでした。プライベートでいうと、コンビニは週3、スーパーが週1、加えて月に1回ほど妻と外食していたくらいでしょうか。外食する際は、「完全個室があること」と「感染対策をしっかりしていること」が大前提で、店内の様子を把握できている「行きつけの店」しか選びませんでした。

編集部編集部

当然、マスクや手指衛生などはしていたのですよね?

田中さん田中さん

もちろんです。予防効果が高いとされる不織布マスクを使っていましたし、日をまたぐ使い回しはしていません。また、除菌用のウェットティッシュを常備していました。帰宅後も、石けんでの手洗いとアルコール除菌液を併用していたので、感染防止に一通りの配慮はしていた自覚があります。

編集部編集部

福井県の発表によると、感染者の約85%が「マスクを外した会話」をしていたとのことですが、その点はいかがでしょうか?

田中さん田中さん

妻を除けば、心当たりはありませんね。やむなく出勤した日も外出そのものが怖く、早く帰りたかったので、ランチを食べずに仕事していました。そのため、終始マスクは装着したままです。それに、会社が率先してパーテーションなどを各所に設けていました。ですから感染したタイミングは、仕事の同行者と月1程度で会っていた「マスク越しの商談」くらいしか考えられないのです。

編集部編集部

奥さんから感染した可能性は?

田中さん田中さん

落ち着いたタイミングで妻にも検査をしてもらったところ、感染は確認されませんでした。ちなみに、同行者から連絡をいただいた直後、自宅内での隔離生活をはじめました。妻は医療従事者なので、感染症対策の知識をもっていますし、最も感染させてはいけない職業です。自分の検査結果が陰性だったら隔離を解けばいいだけなので、念には念を入れました。

本人のみならず、各自治体の対応も求められる

本人のみならず、各自治体の対応も求められる

編集部編集部

話を戻します。陽性反応が確認されてからはどうされましたか?

田中さん田中さん

群馬県のルールでは、陽性確認から「10日間」の隔離が必要です。そのうち2日間は自宅待機でしたから、残り8日間のホテル療養を強いられました。感染症の自覚症状として感じたのは、せきや熱というより、「味覚の喪失」ですね。ホテルに入るタイミングと前後して戻ってきたのですが、それまで、食べ物の味や香りは全く感じられませんでした。舌触りや歯触りだけがあるという、不思議な感覚です。

編集部編集部

大変でしたね。人によっては味覚の喪失が続くようですが?

田中さん田中さん

将来的な不安は、あまり感じなかったです。「感染被害を個人の範囲でとどめたい」と思うと、意識が目前の“行動”に向くんですよね。一挙手一投足を「これでいいのかな」と確認しながら生活していました。ですから、「このままだったらどうしよう」と、将来を考えられる余裕はなかったです。

編集部編集部

ホテル療養が終わるときは、陰性確認を2回おこなうと聞きます。

田中さん田中さん

保健所のパンフレットによるとその通りなのですが、症状のない患者に対しては、「10日間が経過したこと」をもって自宅へ戻していたようです。また、あくまで私の場合ですが、薬などは処方されていません。

編集部編集部

ちなみに、なにが一番つらかったですか?

田中さん田中さん

やはり、味覚がなくなったときに「驚いた」ことでしょうか。職場の病気への理解はあった方です。以前にも陽性反応者が1人いましたし、むしろその経験から厳しい感染対策を講じていたくらいです。一方のご近所付き合いですが、幸いにも引っ越して間もなかったので、「噂になるほど関心が向けられていない」状態でした。私が約1週間不在にしていたことすら、知られていないのではないでしょうか。

編集部編集部

逆に、世間からの孤立感はありませんでしたか?

田中さん田中さん

保健所の対応がかなりしっかりしていて、ホテル療養に入る前の「自宅での諸注意」などを、事細かに電話などで教えてくれました。トイレやお風呂などの共有部分の掃除の仕方や食事の出し方、隔離の具体的な方法などですね。今後の流れも的確に指示していただけたので、「孤立による迷い」のような心象はなかったです。それに、妻が医療従事者でしたからね。

いち早い終息を願ったうえで伝えたいこと

いち早い終息を願ったうえで伝えたいこと

編集部編集部

ご自身なりに、感染ルートが不明ということでしたが?

田中さん田中さん

考えられるとしたら「マスク越しの商談」なのですが、実質、「心当たりがない」印象です。個人的に感染対策を徹底していたつもりだったので、「ここまでやっても、かかるときはかかる」というのが実感ですね。それと同時に、いつ再感染してもおかしくないという気付きがありました。

編集部編集部

100%の感染予防は不可能だと?

田中さん田中さん

よく「100%はない」というようなことがマスコミで報じられているものの、改めてそう思います。まだ感染していない人でも、「1年以上闘ってこられたので、このやり方で十分」という過信はしないようにお願いしたいですね。気を常に張り続けて生活していくしかないでしょう。

編集部編集部

出口があるとしたら、ワクチン接種ですか?

田中さん田中さん

どうでしょう。「100%はない」という意味では、同じことかもしれないですよね。加えて、新型株への効果が十分に検証されていないようです。総じて、「これをやったら安全だ」という発想が逆効果なのでしょう。常に「これをやっても大丈夫か」という問いかけを続けていくしかないように思います。ワクチンが「絶対の安心材料になるか」というと、私にとっては疑問です。

編集部編集部

この機に、医療従事者へ望むことはありますか?

田中さん田中さん

逆に医療従事者に対して、我々が少しでもご迷惑を与えてはならないのでしょう。個人的には、「医療従事者に対して申し訳なかったな」という反省をしています。ですから、望むことがあるとすれば、気の緩みがちな一般人に対してですよね。ウイルスがなにかをするのではなく、「我々がどこでまき、どう拾ってくるか」に尽きます。まかずに拾わなければ、感染拡大しないはずです。

編集部編集部

若い世代の発症者数が多いことについても一言お願いします。

田中さん田中さん

緊急事態宣言が発せられて、生活のしづらさを感じていると思いますが、それも「まく人と拾ってくる人がいるから」なんですよね。自身の快楽や欲求を、今だけは切り捨ててほしいと願います。自身の快楽や欲求が、他人の人生や将来を左右しているわけですよね。「感染症のせいで、仕事を辞める人がいる」ということを、他人事ではなく、リアルに受け止めてほしいです。自分への被害がないから「飲み会に行ってもいいだろう」という言い訳は、社会への被害が生じているため通じないと思っています。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

田中さん田中さん

気持ちのうえでは「いつ感染してもおかしくない」意識でしたが、いざ感染してみるとビックリでした。自分なりに注意していたのに、「これ以上、なにをすればよかったのか」と動揺しましたよね。それだけに、市中感染への脅威を感じます。国民一人ひとりが、もっと意識を“高め続けていく”しかないのでしょう。私の経験が、その一助になればなによりです。

堀野先生

監修医師からのコメント:
堀野先生(東京慈恵会医科大学附属病院感染症科 診療医長、感染症専門医)

お元気になられて本当によかったです。実際に診療していますと、田中さんのように感染したタイミングが見当たらない方もいらっしゃいます。時々、感染してしまった方への心ない言葉や対応があったと聞くことがありますが、感染対策をしていても感染しうることを知っておかなければなりません。感染を100%防ぐことはできませんが、マスクの着用、手指衛生、換気などの感染対策を遵守し、多くの方がワクチン接種を受けることで感染する可能性を下げることはできますので、根気よく続けることが重要です。

編集部まとめ

取材を通じての感想として、田中さんの感染症対策は、平均よりも高い印象を受けました。ご自身でも「他人に迷惑をかけることが嫌だ」と仰っているように、心とマスクの隙は“ごくごくわずか”であったようです。にもかかわらず、ウイルスはそのわずかな隙から侵入します。そして、そういう闘いをしているのだということを、改めて感じさせられました。この教訓を悲観的に捉えるのではなく、終息まで生き抜くヒントとして活用することが大切です。

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