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障害者歯科では、治療やサポートでどういった取り組みをおこなっているの?

 更新日:2023/03/27

なかなか知る機会の少ない障害者歯科の実態。しかし、就業機会拡大をめざした法制度が整うにつれ、障害者は身近な存在となってきました。そこで、知っておいたほうが「社会を豊かにできる」観点について、「マリコ歯科クリニック」の渡邊先生を取材しました。もちろん、我々の心がけや注意点も含まれます。

渡邊先生

監修歯科医師
渡邊 麻里子(マリコ歯科クリニック 院長)

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日本歯科大学新潟生命歯学部卒業。東京医科歯科大学歯学部附属病院にて障害者・有病者・歯科恐怖症を専門に臨床を重ねる。2012年、東京都渋谷区に「マリコ歯科クリニック」開院。「楽しく、心地よく」をモットーとし、コミュニケーション重視の診療に努めている。東京都内でも笑気麻酔や静脈内鎮静法の保険適用ができる珍しい歯科医院。日本障害者歯科学会認定医。歯科恐怖症学会理事長。日本笑い学会、筒井塾咬合療法研究会、青山歯科研究会、渋谷区歯科医師会の各会員。

素直な反面、想定外の事態を吸収するのが苦手

素直な反面、想定外の事態を吸収するのが苦手

編集部編集部

先生は、障害者歯科を専門としているのですよね?

渡邊先生渡邊マリコ先生

はい。身体的障害者に限らず、精神的障害者や歯科に対する恐怖症を抱えた方も含まれます。端的に言うと、「歯科治療を受けにくい方」に治療機会を広げる活動をしています。

編集部編集部

その場合、どういった観点が求められるのでしょう?

渡邊先生渡邊マリコ先生

言葉によるコミュニケーションが難しく、言い方次第では反発を招きかねないので、「説明力」は重要になってくるのではないでしょうか。あくまで一例ですが、これからおこなう手順の「1から10まで」を事前に示しておかないと、不安を感じてしまう場合があります。普通の方なら「3」で済む話が、「10」必要になるんですね。

編集部編集部

なるほど。言葉以外の疎通がしにくいと?

渡邊先生渡邊マリコ先生

それだけではないですれどね。逆に、障害者の方は“うそやごまかし”を言わないので、ツボさえ押さえられれば、診療しやすい側面もあります。むしろ、一般の方ほど、体裁や見栄を気にしますよね。そうされると、正しい治療へ結びつけられません。

編集部編集部

とはいえ、治療途中に暴れられたりしないのですか?

渡邊先生渡邊マリコ先生

治療時間が長くかかりそうな場合は、全身麻酔の併用を検討します。ただし、施設要件や麻酔専門医などの人的要件が不十分な医療機関で施術するケースも少なくありません。やはり、麻酔を要するような大がかりな治療は、大きな病院でしていただきたいですね。その後の細かなフォローを町の医院でケアするのが理想的です。

編集部編集部

歯科医院の規模による「役割分担」のようなものが求められると?

渡邊先生渡邊マリコ先生

地区レベルの医療機関や支援センターは「広く浅く」、専門性の高い高度医療機関は「狭く深く」ですね。一般の方にも言えることですが、障害者の場合、より明確な“すみ分け”が求められると思います。その交通整理を、私たち専門家がおこなっています。

全体の路線図が見えないから不安になる

全体の路線図が見えないから不安になる

編集部編集部

専門家に任せきりにするのではなく、周囲のサポートも当然にして求められますよね?

渡邊先生渡邊マリコ先生

そうですね。障害者の方は、「決められたことに沿っていない」と、パニックを起こしがちです。なにごとにも順番を決めて、一度決めたら、その通りにおこなうことが重要でしょう。そのために、「1から10」まで説明しているわけです。日頃からケアをしているスタッフに、ぜひ知っておいていただきたいポイントですね。

編集部編集部

具体的な例を教えていただけますか?

渡邊先生渡邊マリコ先生

例えば、「エプロンを取ったら治療は終わり」という“見えるルール”を明確につくっておくことです。終わりを決めておかないと、いつまで続くか不安になり、途中で逃げ出してしまうかもしれません。そうなったら、再び診察台に座らせるまで、数カ月は必要でしょう。終わりを示していないから、エンドレスに感じてしまうのです。

編集部編集部

あやふやな余地を残して進めるより、むしろ厳格なレールを敷くイメージですか?

渡邊先生渡邊マリコ先生

そうかもしれないですね。「大丈夫だから」などという曖昧な言葉は、むしろ逆効果です。始まりと終わりを決めて、「なにごとも明確なルール・手順に沿って進めること」こそが、ある種のコツかもしれませんね。ルールに沿っていれば、障害者の方は、大人しく治療を受け入れてくれます。

編集部編集部

そうしたルールって、専門家が一方的に決めるのですか?

渡邊先生渡邊マリコ先生

そんなことはありません。ご家族やスタッフなどと相談して決めます。理想的なのは、「ここまでならできるだろうな」という段階の、もう1歩上を行くことでしょう。「ウチの子には無理」という発想は、ぜひ、改めていただきたいと思います。

我々の心構えが、今後の在り方を決めていく

我々の心構えが、今後の在り方を決めていく

編集部編集部

社会が多様性を受容していくとなると、国や自治体の工夫も求められますよね?

渡邊先生渡邊マリコ先生

「心身障害児者歯科診療」や「障害者の医療費助成」など、利用できる制度が整ってきました。ただし、該当指定が決まっていたり、障害レベルの制限が課せられたりしていますので、各市町村の保険年金課へ問い合わせてみてください。

編集部編集部

今後、どういった取り組みが必要でしょうか?

渡邊先生渡邊マリコ先生

「こうしたハンディキャップを負っている人がいるんだ」という周知は、パラリンピックの盛り上がりなどをきっかけにして、進んでいるように思います。障害者雇用促進法の制定もそうですよね。みなさんの通っている歯科医院に障害者の方が来院するのは、もはや、当たり前のことなんです。

編集部編集部

我々の意識改革も重要であると?

渡邊先生渡邊マリコ先生

とくにお願いしたいのは予約時間の厳守ですね。予約時間も1つのルールなので、医師が自ら決め事を破るわけにはいきません。しかし、みなさんの来院が遅れてズレこむと、障害者の診察を予定どおり開始できないのです。先ほどお話しした「始まりと終わり」ルールが崩壊してしまいます。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

渡邊先生渡邊マリコ先生

「エプロンを外したら終わり」というルールにしても、予約時間の厳守にしても、考えてみれば「当たり前のこと」なんですよね。ただし、当たり前のことが多少崩れている前提で、世の中は回っています。障害者が社会へ参画していくためには、この「多少崩れている前提」を正す必要があるでしょう。なにも難しいことではありません。正しいことをしていけば、おのずと正しい社会になると、心から期待しています。

編集部まとめ

ごまかさない、決まり事をきちんと守る、正しいと思うことをする。障害者の方にとって理想的な社会は、回り回って我々にも恩恵をもたらすようです。この発想は意外であるとともに、驚きでした。一般人の特性とは、もしかしたら妥協やごまかしを吸収できる能力なのかもしれません。それに甘えることなく、豊かで正しい社会を構築していきましょう。障害者との関わりは、人ごとではなく自分ごとです。

医院情報

マリコ歯科クリニック

マリコ歯科クリニック
所在地 〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-23-2 藤原建設ビル2F
アクセス JR「代々木駅」 徒歩1分

診療科目 歯科、口腔外科、矯正歯科

この記事の監修歯科医師