「産後うつ」にならないためには、どうすればいい?

公開日:2021/01/23  更新日:2021/06/25

単なる気分的な落ち込みにとどまらず、自殺のような事件へと発展しかねない「産後うつ」。個人でできる対処法はもちろん、社会的な受け皿も必要でしょう。孤立無援に陥りがちななか、どこへ「助け」を求めるべきか、「五十嵐レディースクリニック」の五十嵐先生に伺いました。

五十嵐 豪先生

監修医師
五十嵐 豪(五十嵐レディースクリニック 院長)

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聖マリアンナ医科大学卒業、聖マリアンナ医科大学大学院修了。聖マリアンナ医科大学病院での研修医を経て、聖マリアンナ医科大学産婦人科学講師・産科副部長などを歴任。2020年、「女性の美と健康を守り、すこやかな生活を支えていきたい」との思いから、神奈川県川崎市に「五十嵐レディースクリニック」開院。医学博士。母体保護法指定医、日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医・評議員・学会幹事。

「うつ」による事件化の防止が最優先

五十嵐レディースクリニックphoto

編集部編集部

「産後うつ」に明確な定義はあるのですか? どうやって自覚すればいいでしょう?

五十嵐 豪先生五十嵐先生

一般的には、「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」で9点以上の状態を指します。同質問票はインターネットなどで簡単に入手できますから、活用してみてください。産後の1カ月検診でも用いられています。

編集部編集部

自ら積極的にチェックしていかないと、検診まで1カ月の“空白”が生じますよね?

五十嵐 豪先生五十嵐先生

本来なら、空白期に自殺などへ発展しないよう、地域の行政が介入するべきでしょう。ただし、人員的にも予算的にも、可能な自治体とそうでない自治体があると思います。例えば長野市は先日、世界初となる産後女性の自殺予防対策プログラム「長野モデル」を開発したそうです。

編集部編集部

長野市以外の自治体では、どのような対応をしているのですか?

五十嵐 豪先生五十嵐先生

出産後、時に支援が必要と考えられる「特定妊婦」をピックアップし、フォローしています。ただし、保健師さんの観察力、引き受ける支援拠点の規模、公費負担などの点で、限界がありますよね。児童虐待と同様で、訪問先でママやパパに「ウチは大丈夫です」と言われてしまったら、強制介入できない側面もあります。

編集部編集部

なるほど。着目すべきは、産後うつによってどのような弊害が起きるかなんですね?

五十嵐 豪先生五十嵐先生

産後うつは、産婦人科を窓口に心療内科や精神科がある病院あるいは医院で治療ができます。また、特定妊婦の支援制度も存在しています。しかしながら残念なことに、現実に虐待や自殺は起きてしまっているのです。まだまだ囲い込み策が機能していないということでしょう。自分が何かおかしいと自覚した時や、「エジンバラ産後うつ病質問票」を出産直後からチェックして、9点近くのスコアが出たら、「医療機関や自治体に遠慮なく助けを求める」ようにしていただきたいです。

夫婦間の役割分担で、妊婦の負担を軽減

五十嵐レディースクリニックphoto

編集部編集部

「産後うつの人」というより、「その可能性のある人」も含めてケアしていく必要があるのですね?

五十嵐 豪先生五十嵐先生

その通りです。うつ傾向は妊娠前・出産前からある程度、把握できることもありますので、そのような場合には、早々に精神科の受診をお勧めしています。こうした患者さんには、産後うつになる可能性がほかの方よりも高いことを、妊娠・出産前から自覚しておいて頂く必要があります。心に変化が起きた時、すぐにお伝えいただくことで産婦人科と心療内科・精神科で迅速な対応ができるからです。

編集部編集部

「うつ」と診断される前から、自己申告で「うつっぽさ」を訴えてもいいのでしょうか?

五十嵐 豪先生五十嵐先生

もちろんです。自分とは異なる存在である赤ちゃんが、自分の意に沿わない時間や場所で“お構いなしに”様々な要求をするわけですから、精神的な負担はどうしたってあります。妊娠前とは違った感情が沸き起こってきたら、要注意のサインです。「この世からいなくなりたい」、「私はなんの役にもたたない」といった感情が湧いてくる前に、「このままだと、どうにかなりそう」という段階で、ぜひ、ご相談ください。

編集部編集部

でも、まず相談すべきは、パートナーや身内ですよね?

五十嵐 豪先生五十嵐先生

そうですね。ところが、ご主人のフォローがなかなか難しく、産後うつになってしまうこともあります。妊娠前からご主人に家事や育児を協力してもらう、覚えてもらうことも、産後うつの予防法になり得ます。家事・育児のの役割分担を「明確に」決めておくといいでしょう。予行演習を兼ねて、妊娠中から工夫してみてください。余裕があれば、ベビーシッターも検討しましょう。

編集部編集部

答えらしきものが見えてきましたね。「自分の代わり」を今から探しておくことが重要に感じます。

五十嵐 豪先生五十嵐先生

全部を自分でやろうとしないことが重要ですね。役割分担の項目のほか、気晴らしになるご褒美も、具体的にリストアップしておきましょう。例えば、たまにはベビーシッターやご両親に子どもを預け、高級レストランでおいしい料理を食べる、などです。ご主人やご両親と一緒に考えてみてください。

具体的にタスク化して、パートナーへ移譲する

五十嵐レディースクリニックphoto

編集部編集部

リストアップの相談窓口は産婦人科でいいのですか?

五十嵐 豪先生五十嵐先生

産婦人科で構いません。まだ妊娠していない段階から、身近にどのような産婦人科があって、どのような取り組みをしているのか調べてみましょう。「里帰り出産」を検討している場合は、帰省先の産婦人科も含まれてきます。

編集部編集部

インターネットで網羅してはいないですよね?

五十嵐 豪先生五十嵐先生

役所の「保健福祉センター」などを活用するのも方法です。少なくとも、地域の産婦人科一覧は得られるでしょう。その中から、ママ友の口コミやインターネットなどを参考にしてください。

編集部編集部

その際、判断の目安になる「キーワード」はありますか?

五十嵐 豪先生五十嵐先生

一例ですが、「乳房外来あるいは助産師外来」でしょうか。本来は授乳などのアドバイスや乳房トラブルに対応できる外来ですが、産後のトータルケアも相談できるはずです。孤独になりがちな新人ママのよき理解者になってくれますので助かるのと思います。近所で同じような悩みを持つ方と接する機会にもなりますので、新しいママ友ができるかもしれませんね。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

五十嵐 豪先生五十嵐先生

100%完璧なママを演じようとしない」、「心に余裕をもつ」ことです。子どもがちょっとくらいぐずっていてもいいや、洗濯物をたたんでないけどいいやなど、自分の「OKライン」を下げてみましょう。そしてご主人が、それを認めるとともに足りないところを補ってあげてください。ご主人の自主性に任せるのは難しいかもしれませんので、リストアップして「タスク化」してしまうのがいいと思います。もしご主人にタスク過剰が見られたら、育休を取ってお互いのタスクを統合、簡略化あるいは削除できるところを見つけ、再分配する。夫婦で協力して妊娠生活・子育てをクリアする。もはや、そういう時代にむかっていますので、発想を切り替えてみてください。でも、だめだと思ったらすぐに助けを求めてください。頑張らなくても大丈夫です。

編集部まとめ

「産後うつになったらどうするのか」の前に、「自分が壊れそうになってきたらどうするか」を心配しましょう。そのひとつの目安が、インターネットで入手できる「エジンバラ産後うつ病質問票」です。そして、日頃から産後の負担を減らすためには、夫婦間の分業体制が欠かせません。“なんとなく”や“できるだけ”とはせず、具体的にリスト化・タスク化するのがコツのようです。その際、ママさん目線で項目化して構いません。支援が必要なのは、ママさんなのですから。夫婦での相談が難しければいつでも医療機関含め、早めに相談しましょう。

倦怠感の症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。

医院情報

五十嵐レディースクリニック
所在地 〒214-0036 神奈川県川崎市多摩区南生田4-6-6 南生田医療モール1F
アクセス 小田急線 生田駅より車で8分
バス 15分
診療科目 婦人科 産婦人科