妊娠中は血糖値が上がりやすい!? 「妊娠糖尿病」について知っておくべきこととは?

公開日:2020/05/08  更新日:2020/05/21

糖尿病といえば、膵臓のβ細胞というインスリンを作る場所が壊されることによって起こる1型糖尿病と、生活習慣の乱れが原因で起こる2型糖尿病がよく知られているところです。しかし、日本産科婦人科学会専門医の稲葉先生によると、妊娠が原因で発症する「妊娠糖尿病」もあるとのこと。「妊娠と血糖値にはどのような関係があるのか」、「赤ちゃんに影響するのか」、「出産すると治るのか」など、妊娠糖尿病の実態について取材しました。

稲葉 可奈子

監修医師
稲葉 可奈子(予防医療普及協会)

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医師・医学博士・日本産科婦人科学会専門医。予防医療普及協会 顧問。
2008年京都大学医学部卒業、京都大学医学部附属病院での初期研修ののち、産婦人科へ進路を決め、東京大学医学部附属病院、三井記念病院を経て、東京大学大学院にて医学博士号を取得。現在、関東中央病院産婦人科に勤務。

妊娠中は血糖値が上がりやすくなっている

妊娠中は血糖値が上がりやすくなっている
編集部編集部

妊娠中に、糖尿病を発症することがあると聞いたことがあるのですが、本当でしょうか?

稲葉先生稲葉先生

本当です。妊娠中は「妊娠糖尿病」という病名になり、みなさんがイメージしている「糖尿病」とは違います。妊娠すると、必ず血糖値の検査を行い、その結果で診断します。「妊娠糖尿病」とは、妊娠中に発症した軽い“糖代謝異常”です。

編集部編集部

一般的な糖尿病とは違うのですか?

稲葉先生稲葉先生

妊娠中にみつかった明らかな「糖尿病」と妊娠糖尿病は区別しています。“妊娠中にみつかった明らかな「糖尿病」”というのは、妊娠以前から「糖尿病」だったかもしれない、というケースです。

編集部編集部

詳しく教えてください。

稲葉先生稲葉先生

もともと「糖尿病」と診断されている人が妊娠した場合は、「糖尿病合併妊娠」といいます。自分が糖尿病であると気づかないまま妊娠したケースですね。妊娠前の状態を確認することはできませんが、診断されていないだけでもしかしたら妊娠前から糖尿病だったか、妊娠が原因で「妊娠糖尿病」になったかで区別するのです。

編集部編集部

違いについてわかりました。しかし、どうして「妊娠糖尿病」になるのですか?

稲葉先生稲葉先生

“糖代謝異常”というのは、血糖値の調節がうまくいかなくなった状態のことです。血糖を下げる“インスリン”の働きが、胎盤から分泌されるホルモンにより妨げられたり、胎盤からインスリンを壊す酵素が出たりするため、妊娠中はインスリンの働きが抑えられ、血糖値が上がりやすくなるのです。

編集部編集部

妊娠糖尿病は、出産後に治るのですか?

稲葉先生稲葉先生

妊娠糖尿病であれば、出産後は治ることが多いですね。産後6〜12週間後にもう一度検査をして、治っているかどうか確認します。ただ、妊娠糖尿病の方は、そうでない方に比べて、将来、「約7倍糖尿病になりやすい」といわれています。そのことを頭の片隅に覚えておいて、普段から食生活に気を使ったり、運動をしたりすることをおすすめします。

    

妊娠糖尿病は妊婦だけでなく、胎児や生まれてからの赤ちゃんにも影響が

妊娠糖尿病は妊婦だけでなく、胎児や生まれてからの赤ちゃんにも影響が
編集部編集部

妊娠糖尿病はどのような症状がありますか?

稲葉先生稲葉先生

自覚症状として感じることは、ほぼないですね。逆にいえば、検査しないと分かりません。しかし、赤ちゃんや胎児にも影響する可能性がありますので、妊娠したらちゃんと妊婦健診を受診するなど、必要な検査を受けるようにしましょう。

編集部編集部

それぞれの影響について教えてください。まずは胎児から。

稲葉先生稲葉先生

巨大児といい、お腹の中で赤ちゃんが大きくなりすぎてしまうことがあります。巨大児は、難産や帝王切開となるリスクがあり、お腹の中で赤ちゃんが亡くなってしまう子宮内胎児死亡のリスクも、妊娠糖尿病のない方に比べると高くなります。

編集部編集部

生まれてからの赤ちゃんへの影響はどうでしょう?

稲葉先生稲葉先生

出生時に低血糖となってしまう新生児低血糖や、呼吸が上手にできない新生児呼吸窮迫(きゅうはく)症候群などの可能性があります。また、将来の成長過程で肥満や糖尿病になる確率が高くなります。

編集部編集部

妊婦さんの影響についても教えてください。

稲葉先生稲葉先生

羊水が通常よりも増えることがあり、切迫早産となることがあります。また、妊娠高血圧症候群が合併することもあるので、血圧やむくみにも気をつけましょう。

編集部編集部

妊娠糖尿病になりやすい要因はありますか?

稲葉先生稲葉先生

家族(両親・兄弟・祖父母など)に糖尿病の方がいる場合」や「肥満の方」は注意が必要です。また、妊娠中に尿糖陽性が続く場合や、赤ちゃん(推定体重)がかなり大きい場合、羊水量が正常より多い場合は妊娠糖尿病を疑い、追加で検査を行います。

編集部編集部

妊娠糖尿病は予防することはできますか?

稲葉先生稲葉先生

先ほどお話しした妊娠糖尿病に特に注意が必要な方は、妊娠初期から糖質が控えめの食事を心がけることで、予防になると思います。

    

食事に気をつけて、できるだけ安全に赤ちゃんを迎えよう

食事に気をつけて、できるだけ安全に赤ちゃんを迎えよう
編集部編集部

妊娠糖尿病の治療方法について教えてください。

稲葉先生稲葉先生

通常の糖尿病だと、まず食事療法と運動療法となりますが、妊娠中はあまり運動できないので、食事療法と自己血糖測定を行なって、血糖値をコントロールしていきます。

編集部編集部

食事療法とは、いわゆる「食事制限」ですね?

稲葉先生稲葉先生

はい。血糖値をあげる食べ物は「糖質」だけなので、普段の食事から糖質を減らすことが肝要です。糖質というのは、いわゆる「炭水化物」のことで、ごはんやパン、麺類、芋類、粉もの、甘いものなどですね。完全に糖質を控える必要はないので、普段より減らすところから始めましょう。たとえば、ごはんを半分に減らしたりおやつをやめてみたりといった感じですね。

編集部編集部

ごはんやおやつを減らすのは大変そうですね……。

稲葉先生稲葉先生

そうですね。人によって、「白米だけはやめられない」、「チョコを食べないとストレスがたまる」、など、優先順位が違うと思います。お産まで続けないといけないので、無理のない範囲で、自分の中で優先順位の低い糖質から減らしてみましょう。大事なのは、カロリー制限ではなく、血糖値のコントロールなので、糖質を減らした分は、血糖値に影響しないお肉や魚、卵料理などタンパク質でお腹を満たしましょう。最近は、いろんな種類の低糖質食品(パンやスイーツなど)も売られているので、そういうのも試してみると楽しいと思います。

編集部編集部

自己血糖測定とは、文字通り自分で血糖を測ることですよね? それで何を調べるのでしょう?

稲葉先生

自分で血糖値を測定することで、なにをどのくらい食べたら、どの程度の血糖値になるかを把握できます。目標は、食前100mg/dlまで、食後2時間後120mg/dlまで。食事に気をつけても食後血糖が高い場合は、食事を、1日3食ではなく、4~6回の分割食にしてみることで、食後の血糖値の上昇をなだらかにしていきます。

編集部

食事だけで血糖値を抑えられない場合は、どうすればいいでしょう?

稲葉先生

食事を気をつけても血糖値がコントロールできない場合は、インスリンを使って血糖値を抑えます。産後は不要になることが多いですが、インスリン使用開始時には入院が必要となることもあり、低血糖にも注意が必要です。インスリンを使用せずにすむ方が妊婦さんも楽なので、なるべく食事療法で血糖値を抑えていけるようにしましょう。

編集部

妊娠中にインスリンを使用しても、大丈夫なのですか?

稲葉先生稲葉先生

大丈夫です。むしろ、妊娠中に使える糖尿病薬はインスリンだけなのです。もともと糖尿病で内服薬を使っている方は、妊活開始前に主治医の先生に必ず相談して、インスリンに変更してもらうようにしましょう。

編集部編集部

妊娠糖尿病と診断された際の注意点について教えてください。

稲葉先生稲葉先生

妊娠糖尿病は、約10%の方が診断されるので決して珍しいことではないですし、先ほどお話しした通り、妊娠中に血糖値があがりやすくなるのは誰のせいでもなく、致し方ないことです。ですので、あまりショックを受けずに、血糖値の上がらない食事に変えてみましょう。食事に気をつけるのはまずはお産までですので、赤ちゃんのためにも自分のためにも、がんばっていきましょう。

編集部編集部

最後に読者へメッセージをお願いします。

稲葉先生稲葉先生

妊娠・出産は幸せいっぱいのイベントですが、「命を授かりお腹の中でしっかり育てて産む」、というのは、本当に奇跡の連続です。その過程では、いろいろなトラブルがおこりえます。妊娠糖尿病に限らず、なにを診断されても、ネットで調べすぎたり心配しすぎたりせずに、主治医の先生の説明をよくきいて、元気な赤ちゃんに出会うためと思ってがんばりましょう。ママも少し努力が必要なこともありますが、旦那さんも、がんばるママのために、しっかりサポートしてあげてください。

    

編集部まとめ

まず、「糖尿病と妊娠糖尿病は別のもの」ということを理解しておきましょう。妊娠すると血糖値が上がりやすくなっているので、妊娠糖尿病と診断されてもあまり慌てず、食事療法で血糖値をコントロールしていくことが大切です。医師に相談しながら、両親で力を合わせて、赤ちゃんが安全に生まれてくるよう、努めましょう。

予防医療普及協会とは

2016年3月、経営者、医師、クリエイター、社会起業家などの有志を中心として発足。予防医療に関する正しい知見を集め、啓発や病気予防のためのアクションを様々な企業や団体と連携し、推進している。

これまでに胃がんの主な原因である「ピロリ菌」の検査・除菌啓発を目的とした“「ピ」プロジェクト”、大腸がん予防のための検査の重要性を伝える“「プ」プロジェクト”、子宮頸がん検査、HPVワクチンに関する正しい情報の発信、啓発を目的とした”「パ」プロジェクト”を実施。予防医療オンラインサロン「YOBO-LABO」はオープンから一年半で会員数270名を突破。 現在、「パ」、「ピ」、「プ」プロジェクトに引き続き、歯周病予防の「ペ」プロジェクト、糖尿病予防の「ポ」プロジェクトが進行中。

各診療科の専門医、歯科医などが集い、それぞれの専門領域を超え、活動をサポートしている。

一般社団法人 予防医療普及協会

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