風しんの被害者は「胎児」 加害者は62~78年度生まれの「おじさん世代」 ―それでもあなたは、ワクチン接種をせずに過ごせますか?

公開日:2020/02/04  更新日:2020/06/16

発疹や発熱などを伴う風しん。その影響は自身の健康だけでなく、妊娠中の胎児にも及びかねないことをご存じでしょうか。それが、生まれつきの障がいを抱えてしまう「先天性風しん症候群」です。WHO(世界保健機関)が「2020年までに麻疹と風疹を撲滅」しようと呼びかけるなか、日本の風しん患者は毎年2000人を下りません。もし、流行の原因に、特定の年代の男性が関わっているとしたら。詳しい話を「ナビタスクリニック」の久住先生に伺いました。

久住英二(ナビタスクリニック理事長)

監修医師:
久住 英二(ナビタスクリニック理事長)

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新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科勤務、東京大学医科学研究所勤務を経た2008年、「ナビタスクリニック立川」開院。2014年には法人化により、医療法人鉄医会理事長就任。現在、新宿・立川・川崎の三院で、駅に直結した「通いやすい」医療を心がけている。

風しんとはなにか、なぜ「怖い病気」とされているのか

風しんとはなにか、なぜ「怖い病気」とされているのか

編集部編集部

風しんの流行が、いまだ続いているようですね?

久住先生久住先生

そうですね。風しんとは風しんウイルスによって起こる急性の発疹性感染症で、2週間から3週間前後の潜伏期があり、主に①発疹、②軽い発熱、③リンパ節の腫れといった3つの症状を伴います。このうち、顕著なのは発疹で、発熱などを伴わないケースもあります。各症状は3日から1週間程度で治まるものの、有効な治療法が確立されていない感染症です。

編集部編集部

症状が発疹だけだと、皮膚科を受診したくなってきます。皮膚科を受診すればいいのでしょうか?

久住先生久住先生

風しんはウイルスが原因なので内科領域ですが、皮膚科を受診しても構いません。ただし、血液検査を経て風しんと診断されるのは、初診からおおむね1週間後です。すでに症状が治まりかけていてもおかしくありませんよね。したがって、「初診時に一見して“風しんかもしれない”と見分けられるドクター」に診てもらうことが肝要です。医療機関のサイトがあれば、受診項目などを参照にしてみてください。

編集部編集部

風しんはどのように感染していくのですか?

久住先生久住先生

風しん患者の咳やくしゃみで飛び散ったウイルスを吸い込むことによる飛沫感染や、風しん患者と直接触れることによる接触感染が主な感染経路になります。

編集部編集部

合併症・後遺症などはあるのでしょうか?

久住先生久住先生

最も怖いのは、風しんウイルスに免疫のない女性が妊娠初期に感染することです。風しんウイルスが胎児に感染すると、出生時に「先天性風しん症候群(CRS)」という障がいを残しかねません。そのリスクは妊娠初期であるほど高く、「生理がこないけど、もしかして……」といった段階、つまり妊娠4週から6週が怖いですね。一般的に、妊娠20週までに妊婦が風しんに感染すると、何らかの障害が残るとされています。

風しんとはなにか、なぜ「怖い病気」とされているのか

編集部編集部

CRSの障がいは、どのようなものがありますか?

久住先生久住先生

多岐に渡ります。妊娠初期は、胎児の体のいろいろなパーツができてくる時期です。このときにウイルスが悪さをすると、正常なパーツに育たないんですね。耳なら難聴目なら白内障や緑内障心臓なら心疾患などの可能性が高まります。おおむね妊娠20週を過ぎれば、これらの臓器が一通りそろうので、CRSのリスクも低減していきます。

編集部編集部

風しんが3日で治るなら、感覚的には風邪に近いですね。

久住先生久住先生

だから問題なんです。風しんは「母子感染」の代表格と言ってもよく、次世代に悪影響を及ぼしかねない重大な病気です。また、重篤化や長期化の恐れも十分にあります。他方、症状がまったく出ない方も15%ほどいらっしゃいますよ。風しんにかかっている自覚がなくてウイルスを運搬、拡散しているのですから、むしろ大ごとですよね。

編集部編集部

風しんは、「はしか」とも違うんですよね?

久住先生久住先生

風しんは風しんウイルスはしかは麻疹ウイルスが引き起こす、それぞれ別の病気です。症状としては似ていますが、ウイルスが異なるため、はしかを経験していても風しんにはかかりますし、逆も同じです。「自分が双方の免疫を持っている」と勘違いされている方も多いのではないでしょうか。風しんのことを「3日はしか」と呼ぶ風潮も、この混乱を加速させています。

編集部編集部

ちなみに風しんの治療方法は?

久住先生久住先生

CRSも含め、風しんウイルスを減らすような特効薬は、いまのところありません。十分な休養を取り、自己免疫力で退治するしかないのです。発疹や発熱などの症状を抑える方法はあるにしても、かえって自然な防御反応をとどめてしまいますから、なかなかにやっかいです。

風しんを流行らせている原因は、ワクチン接種の回数にあり

風しんを流行らせている原因は、ワクチン接種の回数にあり

編集部編集部

流行の話題へ戻します。有効な予防法は?

久住先生久住先生

うがい・手洗いの励行のほか、2回のワクチン接種が有効です。厚生労働省によると、2回の接種で「95%以上の人」が風しんウイルスに対する免疫を獲得するそうです。1回だけの接種で免疫を獲得する割合は、おおむね90%といわれています。

編集部編集部

90%以上で免疫を獲得できるのであれば、ここまで流行らないのでは?

久住先生久住先生

そんなことはありません。「風しんワクチンの谷間世代」といういまだ1回も接種を受けていない世代が存在するのです。具体的には1962(昭和37)年4月2日生まれから1979(昭和54)年4月1日生まれの“男性”になりますね。

編集部編集部

なぜそのような谷間世代が生まれてしまったのでしょう?

久住先生久住先生

国のワクチン政策は段階的に整ってきたため、1回も集団でワクチン接種を行っていない世代が存在してしまうのです。そこで、国は2019年からの約3年間、谷間世代を対象に、原則無料での血液検査をおこなっています。ただ、実効性については、疑問が残るところですよね。

編集部編集部

どうしてでしょう? 1回もワクチン接種を受けていないなら多くの人が受けるのでは?

久住先生久住先生

谷間世代の方でも、「自分はワクチン接種を受けている」と思っている人も多いのではないかと思います。昔自分が受けたワクチンの内容を覚えている人は稀ですからね。

編集部編集部

他に谷間世代がワクチンを接種しない理由として考えられるものはありますか?

久住先生久住先生

ワクチン接種まで時間がかかるのも問題です。初診で血液検査、1週間後に検査結果の報告と次回の予約、3回目の受診でワクチン接種をしたとしましょう。それぞれ移動や待ち時間などで4時間かかったとすると、合計で12時間、接種が2回の場合は16時間かかります。忙しい人はそれで尻込みしてしまうでしょう。実際、現時点で無料の対象者の受診率は10%台といったところ。政策として機能していないですよね。

風しんを流行らせている原因は、ワクチン接種の回数にあり

編集部編集部

なるほど。では先生だったらどのように対応しますか?

久住先生久住先生

無料の血液検査をパスして、自費で初診からワクチン接種を行います。過去にワクチン接種をしたかどうかは気にしません。1回目でも2回目でも、免疫をもっていない可能性は依然としてあるわけですから。「受けたかどうか不安だったら接種しておく」。これに尽きます。

編集部編集部

風しんの抗体保有率はどれくらいなのでしょう?

久住先生久住先生

国立感染症研究所が、2017年度の「感染症流行予測調査報告書」を出しています。それによると、風しんの抗体保有率は国内平均で90%以上となっていますが、「母集団をどこから抽出したのか」によって前後する数値でしょう。街頭で無作為に調査すれば低くなりますし、医療関係者を対象とすれば高くなります。少なくとも、30代から50代の男性の抗体保有率が低いことと、日本で風しんが撲滅されていないことだけは確かです。現に1年で約2000人の罹患者がいらっしゃいますし、推定患者となるとそれ以上でしょう。

予防接種の重要性

       

予防接種の重要性

編集部編集部

いままでのお話を効くと、怖い風しんが野放しにされている印象です。

久住先生久住先生

WHO(世界保健機関)は、「2020年までにはしかと風しんを撲滅する」という目標を立てています。海外旅行を気軽にできる時代ですから、どこか1ヶ国がルーズなだけで、撲滅には至らないですよね。ちなみに、どうしてインフルエンザが自動的に収束するかご存じですか?

編集部編集部

なぜでしょう? ぜひ、教えてください。

久住先生久住先生

インフルエンザウイルスが一通り感染し、それ以上、誰にもうつせなくなるからです。せきや発熱といった症状が出るかどうかは別として、毎年、私たちのほぼ全員が“かかっています”。そして、私たち全員が抗体をもったところで、やっと収束します。つまり、ワクチン接種をしていれば、このプロセスが社会的に早められるということなのです。

編集部編集部

日本のワクチン接種全体における意識って、どうなのでしょう?

久住先生久住先生

残念ながら、先進国では日本がダントツで最下位なんですよ。この意識差はイギリスの科学雑誌『ネイチャー』も取りあげていて、日本は先進国なのにワクチン不信が多いと槍玉に上げられています。

編集部編集部

つまり、日本が「風しん撲滅を阻害している犯人」に見られるかもしれないと?

久住先生久住先生

日本だけに限りませんけどね。ちなみに意識の高い妊婦さんがワクチン接種したとしても、感染を100%とどめることはできません。妊娠にすら気づいていない女性もいらっしゃいます。したがって、風しんウイルスを社会に“存在させない”ような工夫・努力が求められるのです。風しんの場合、人口の約85%の人が抗体をもてば、「流行らない」とされています。CRSも同様で、例えばアメリカでは、この環境が実現されています。

編集部編集部

風しんを流行らせないための施策や動きはないのですか?

久住先生久住先生

先ほど話した、谷間世代を対象にする血液検査の無料化は厚生労働省による「#止めるぞ_風しん」というプロジェクトの一環ですね。また、医師を中心に、風しん撲滅活動を行っている「風しんゼロチャレンジ」というプロジェクトもあります。

参照:厚生労働省 「#止めるぞ_風しん」
https://www.mhlw.go.jp/content/000536925.pdf

参照:「風しんゼロチャレンジ ~医師2020人の会〜」
https://www.carenet.com/lp/zero_challe/cg002499/index.html?utm_source=gougai&utm_medium=email&utm_campaign=2019111450&fbclid=IwAR3tBH2inMg9BlRMNXd8GsllJ6XnaQDW_POVBBQidddoNH_PyHQHxFwPqSw

編集部編集部

先ほど、「一部無料とする施策が十分に機能していない」とのことでしたが?

久住先生久住先生

ワクチン接種となんらかの利益を結びつける、インセンティブ型の施策が望まれますよね。企業などに協力を求めてもいいのですが、組織に属していない方が取り残されてしまいます。義務化や罰則化すると人権に関わりかねないので、接種費用を医療費控除に含めるとか、低所得者にクーポンを発行するとか、そういう具体策を検討する段階にさしかかっているでしょう。

編集部編集部

なるほど。ちなみに、受診フローはどうなっているのですか?

久住先生久住先生

初回は血液検査による抗体検査です。ワクチン接種に限らず、既往歴などから抗体をもっていらっしゃる方もいらっしゃいますからね。1週間ほどを経た検査結果で「抗体がない」とわかれば、1回目のワクチン接種です。ここまでは、費用助成が受けられます。その後、任意で2回目を受けるときは、自費になります。ただし、私が個人的に推奨する方法は、「血液検査をパスして、初回から接種」ですけどね。

編集部編集部

さきほども、そうおっしゃっていましたね?

久住先生久住先生

日本のワクチンは、「風しんとはしか」がセットになっています。他方、風しんを目的とした血液検査では、風しんしかチェックしません。つまり“はしか”がスルーされてしまうということです。すると、「風しんの抗体はあるから、注射しなくていいですよ」と診断された結果、はしかにかかってしまう恐れがある。だったら「初回から接種」で、両方の抗体をもっておいたほうが効率的ではないですか。1回目の血液検査が、そんなに意味をもたないんですよね。

編集部編集部

最後に、読者へ向けたメッセージをお願いします。

久住先生久住先生

「誰かのためにやっていることが、まわりまわって自分のメリットになる」。それが社会の仕組みだと考えます。次世代の子どもたちのためにワクチン接種することで、結果として、自分が煩わしい病気にかからなくなるでしょう。ぜひ、世界から称賛される「クールジャパン」をめざしませんか。行政や政治に頼らなくても、私たちでできることがあります。

次世代の子どもたちのためにワクチン接種することで、結果として、自分が煩わしい病気にかからなくなるでしょう。

「谷間世代」が実際に抗体検査・予防接種を受ける

平瀬 智樹(株式会社GENOVA 代表取締役)

被験者:平瀬 智樹(株式会社GENOVA 代表取締役)
1978年生まれ。自身が風しんワクチンを接種していない「谷間世代」であることから、抗体検査を受診。

1日目 抗体検査

はじめに、血液検査による抗体検査を行う。検査結果が出るまで、採血から大体1週間ほどかかる。

1日目 抗体検査

1週間後 ワクチン接種

血液検査の結果、抗体を持っていなかったので、ワクチン接種を行う。2回目の接種を行う場合は、1ヶ月ほど間隔を空ける。

2日目 ワクチン接種

編集部まとめ

感染症の中で、風しんがとりわけ注目されているのは、次世代への悪影響を残しかねないからでした。まず、この点を念頭に置いておきましょう。続いて知っておくべきは、撲滅できる感染症であるということです。もし、インフルエンザがこの世からなくなれば、かなり快適な生活を送れます。インフルエンザウイルスは年ごとに形を変えてしまうのでやっかいですが、風しんなら、私たちの心がけ次第で撲滅できます。また、先進国の多くが達成できていることです。「日本へ旅行したら風しんをお土産にもらってしまった。二度と行きたくない」「お父さんたちの世代のせいで、障がい児が生まれた」などと非難されることのないよう、社会的かつ世界的な視点で、未来の環境を変えていきましょう。

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