酒は「百薬の長」か「万病の元」か 肝臓専門医に聞く“お酒との上手な付き合い方”

お酒は上手に付き合えば「百薬の長」といわれ、さまざまな病気のリスクが減り、死亡率も低くなるとされます。されど、飲みすぎれば「万病の元」なのはいわずもがな。実際のところ、どれくらいが「適切な飲酒量」なのでしょうか。そして、「休肝日」の正しい考え方とは。ともに肝臓専門医である市田隆文先生と東海林俊之先生が、最新情報を交えながら解説してくださいました。

監修医師
市田 隆文(湘南東部総合病院 院長)

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富山生まれ。1975年に新潟大学医学部を卒業後、富山医科薬科大学(現・富山大学医学部)、新潟大学医学部第三内科に所属。その間に、ベルギー・ブリュッセル自由大学、米・ネイラーダナ癌研究所、同ピッツバーグ大学移植研究所に留学。1994年には、世界で初めて大人の生体肝移植を成功させた。その後、順天堂大学医学部附属静岡病院消化器内科教授を経て、2014年に湘南東部総合病院の院長に就任、現在に至る。日本脳死移植適応評価委員会委員長、ウイルス肝炎財団理事長などを兼務。新潟薬科大学の客員教授、日本内科学会認定内科医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本消化器病学会評議員ほか。

公益財団法人ウイルス肝炎研究財団
http://www.vhfj.or.jp/

監修医師
東海林 俊之

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新潟大学医学部卒業後、新潟大学医学部第三内科に入局。その後、関連病院や横浜旭中央総合病院などに勤務。2016年に三島駅前消化器・肝臓内科クリニックを開院。内科、消化器、肝臓内科、内視鏡を中心に、専門医療だけでなく地域医療に携わる。日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本内科学会総合内科専門医。

編集部編集部

「休肝日」という言葉は市田先生のお父さまが作ったとうかがいました。1週間に1度の休肝日を作れば、普段いくら飲んでも大丈夫ということなのでしょうか?

市田先生

いいえ。毎日5合以上飲んでいる人が1週間に1日だけ休肝日を作っても、大丈夫とはいえません。「とにかく1週間のうち1日(24時間)休肝日を作ればいい」というのは誤解です。現在、医学的にみて、健康的に長生きできるアルコールの安全圏は、すべて1週間単位の積算飲酒量で考えられています。

編集部編集部

そもそも、適量の飲酒は健康に寄与するという「百薬の長」説は、本当なのでしょうか?

市田先生

飲酒量と死亡率を表した有名な「Jカーブ」という疫学調査のグラフがありますが、これによると、お酒を飲まない人よりも、適量飲む人の死亡率のほうが低く適量を超えて酒量が増えていくほど死亡率が高くなるといわれています。適量飲酒の方は、糖尿病や脳血管障害、がんのリスクも少ないという医学論文もあります。

編集部編集部

「適量」とはどのくらいなのでしょう?

市田先生

適量としては、日本酒でいうと1日1.5合が目安で、1週間の積算量は約1升になります。1週間で約1升飲む人は長生き、2升なら平均的、それ以上になると逆に死亡率が高くなります。女性は、女性ホルモンの関係で適量はその3分の2となるため、1日1合目安で、1週間では7合ぐらいです。ただし、厚生労働省が推奨する量は1日単位で純アルコール摂取量は約20gで、日本酒換算では男性1合と少なめになっています。こちらを参考にされても良いですね。

酒類別のアルコール約20gを含む量
日本酒  1合(180ml)
ワイン  1杯(約120ml)
ビール  中瓶1本(500ml)
焼酎   0.6合(約110ml)
ウイスキー  ダブル1杯(60ml)

参照:厚生労働省 健康日本21(アルコール)「節度ある適度な飲酒」より
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5.html

お酒が強いか弱いかは、アルコール分解酵素の遺伝子検査で明確に

編集部編集部

「1週間の積算飲酒適量が約1升は長生き」というのは、誰にでも当てはまるのでしょうか?

東海林先生

いいえ。Jカーブや1週間の積算飲酒量約1升が当てはまるのは、お酒が強い人に限ります。強いか弱いかは、アルコールを肝臓で代謝するときに必要となる「アルコール分解酵素(ADH1B)」と「アルデヒド分解酵素(ALDH2)」の働きが強いか弱いかで決まります。

編集部編集部

詳しく教えてください。

東海林先生

「アルコール分解酵素」は、アルコールをアセトアルデヒドという物質に分解するために使われる酵素で、これはモンゴロイド(黄色人種)も、コーカソイド(白色人種)も持っている人がほとんどです。「アルデヒド分解酵素」は、頭痛や吐き気の原因物質のアセトアルデヒドを分解して無害の酢酸に分解するために使われる酵素で、コーカソイドはほとんどの人が持っていますが、モンゴロイドの中でも日本人の場合、持っているのは約50%くらいです。お酒を飲んで顔が赤くなったり頭が痛くなったりしやすい人は、この酵素の働きが弱い可能性が高いですね。

アルコール代謝の仕組み
お酒が強いか弱いかは、アルコール分解酵素の遺伝子検査で明確に

編集部編集部

自分がお酒に強いか弱いかがわかる方法はありますか?

東海林先生

あります。医療機関で「アルコール分解酵素遺伝子検査」をすれば、「アルコール分解酵素」と「アルデヒド分解酵素」それぞれの酵素の働きにより、お酒にどれくらい強いかがわかります。綿棒で口腔内の粘膜を採取するだけの簡単な検査です。お酒が弱いのに無理やり飲んだら命に関わることもありますから、今後飲む機会が増える若い人はとくに、一度検査をしておいたほうがいいと思います。もしお酒が弱い体質の場合は、大学や会社で、先輩や上司から無理にお酒をすすめられたときに、断るための証明書にもなりますから。

タイプ別アルコールの強さまとめ
タイプ別アルコールの強さまとめ

編集部編集部

遺伝子的にお酒が弱い人は、飲まないほうがいいのでしょうか?

東海林先生

お酒が弱い人が飲み続けると、食道がんをはじめ、心不全や慢性膵炎などさまざまな病気になる確率が高くなってしまうので、できれば飲まないほうがいいですね。さらにタバコを吸う人の場合は、食道がんのリスクが189倍になるというデータもあります。

二日酔い予防には、アラニンとグルタミンを含むサプリメントを

編集部編集部

二日酔いにならない方法はありますか?

市田先生

たくさん飲まないことですね(笑)。肝臓が処理できるアルコール量は、普通の人で1時間あたり7g、3時間だと21g(日本酒約1合)くらいですから、分解能力を超えて飲み過ぎると、体内にアセトアルデヒドが増えていきます。アセトアルデヒドこそが、頭痛や吐き気などの二日酔いの原因になる毒性物質です。そのため、歓送迎会や忘年会などでつい飲み過ぎてしまいそうな時は、アセトアルデヒドを分解する酵素の働きを高めるサプリメントなどを利用することをおすすめします。成分をみて、アラニンとグルタミンというアミノ酸が入っているものなら、効果が期待できます。

東海林先生

肝機能障害が起こらない程度の、自分に合った適量を見極めながら、うまくお酒と付き合っていくのが理想ですね。

編集部編集部

もし、アルコール性の肝障害になったらどうすればよいでしょう?

市田先生

まずは、お酒をやめることです。肝障害になると、γ-GTP(ガンマジーティーピー)という値が高くなりますから、その数値を抑えるようにします。男性は50以下、女性は32以下が正常値で、それを超えると肝障害の疑いがあり、100を超えると節酒や禁酒が必要となります。これが300~400ぐらいになると、問題です。通常は、お酒を飲まなければ数値が下がりますから、下がらないということは、相変わらず飲み過ぎている証拠です。「飲んでいません」と嘘を言っても、医者にはすぐわかります。ただ、アルコール性肝障害の治療は、基本はお酒をやめるのが一番なのですが、飲まないほうがストレスになる方もいらっしゃいます。そういう場合は、γ-GTPの数値をみながら、患者さんと一緒に飲み方を考えるようにしています。

編集部まとめ

お酒と上手に付き合うには、1週間の積算飲酒量を約1升に収めるのが理想的です。1日換算だと約1.5合で、女性の場合は3分の2の量を目安とします。この適量を守れば、糖尿病や脳血管障害、がんなどの病気のリスクが減少し、死亡率も低くなるということが、疫学調査でも明らかになっています。

ただし、それが当てはまるのはお酒が強い人だけ。弱い人は、無理して飲み続けると、かえって食道がんをはじめとした病気になるリスクが高まるので注意が必要です。自分はお酒が強いかどうかを知るためには、アルコールを分解する2種類の酵素があるかどうか、「アルコール分解酵素遺伝子検査」を受ければわかります。お酒と上手に付き合うには、己を知ることから始めるのがよいようです。

それでも、つい飲み過ぎてしまったときは、二日酔いの原因物質となるアセトアルデヒドの分解を助けるサプリメントなどを上手に利用しましょう。成分表の中に、アラニンとグルタミンが入っていれば、アセトアルデヒド分解酵素の働きを早めて二日酔い予防になります。

※編集部注
本記事は、お酒を飲まない方に飲酒を積極的に勧めるものではないことをご承知おきください。

医院情報

湘南東部総合病院・湘南東部クリニック

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アクセス 茅ヶ崎駅北口、茅ヶ崎中央病院よりシャトルバス有り
診療科目 総合診療科
三島駅前消化器・肝臓内科クリニック
所在地 〒411-0036 静岡県三島市一番町15-21マスダビル2F
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診療科目 肝臓内科 胃腸・消化器内科 内視鏡内科 一般内科